予想以上に平常に早く戻った産地

中国での新型コロナウイルスの流行は、我々日本人の想像以上に早く沈静化しているようです。

2月初めの時点では、今年の中国のお茶の生産は全く見通せないのでは無いか、と思っていました。
が、その後、移動制限や住民の健康チェックの義務づけなどの、超管理社会が功を奏したのか、感染者数が減少に転じます。
そして、茶産地では工場や茶園も恐るべき早さで復旧し、既に新茶のシーズンが始まっています。

四川省などでは、2月の下旬から製茶が始まっており、浙江省の早生品種の茶摘み前線も北部にまで到達しています。
早くも、昨日3月15日には西湖龍井茶、本日16日からは洞庭碧螺春茶と著名ブランド茶の茶摘みも始まっています。

西湖龍井茶の茶摘みスタート(2020年3月16日付)
https://cttea.info/teanews/20200316

暖冬の影響でやや早い新茶シーズンのスタートになっており、今後は紅茶や烏龍茶などの発酵茶の生産にも移っていくことになります。

このあたりの状況は、中国茶情報局で随時ご紹介していますが、ここまでの状況を少しまとめてみたいと思います。

 

移動制限と住民の健康チェックで感染拡大を阻止

感染が爆発的に広まった時期、中国政府が執った方針は、人々の移動や外出を徹底的に制限するものでした。
鉄道やバスなどの公共交通機関の運行を停止し、春節休暇を延長するという形で経済を一時的にストップさせ、外出を控える政策を打ち出しました。

中国は、各居住地域ごとに共産党の組織があり、その地域の責任者が、この政策の遂行を担う仕組みになっていますから、外出禁止は単なる呼びかけや要請では無く、強制的な形で実行することが出来ます。
「買い物も各家庭から2日に1度だけ、家族のうちの1名だけが外出可能」「外出するときは検温を受ける」などのルールを、ほぼ完全な形で実施することが出来たわけです。

結果、感染者数の増加が止まり、新規の確定感染者数がゼロを記録する地域が多く出てくるようになりました。
そのような状況が整った地域から、経済活動を再開させていきます。
まず、従業者にも健康コードという仕組みを導入し、検診などを経てグリーンコード(緑碼)を持っている人だけが就業できるようにしました。
各工場や職場では、日々の検温やマスクの着用、定期的な消毒などを行うほか、人が密集しないようにするなどの配慮を行った上で就業させるようにしています。

今回の感染症対策には、中国ならではの管理社会が奏功しているようです。
特に茶産地の多くは、基本的には農村部であり、人の流出入が多いわけでもありません。
そのため、感染者の特定と隔離、感染の連鎖ストップがやりやすかった面もあったのだろうと思います。

 

最大の問題は、茶摘み人の確保だったが・・・

感染の拡大が広がらないかという懸念とともに、最も心配していたのは、茶摘み人の確保です。
先行する貴州省や四川省などの産地であれば、地元の労働者のみである程度、労働力を確保できますが、経済発展の進んでいる沿海部などでは、比較的貧しい内陸部からの季節労働者が頼りだからです。
移動制限などが厳しいままであれば、茶摘み人不足から産量減や機械摘みへの切り替えなども想定されたからです。

ところが、これも多くの産地では、余裕は無いものの無事にクリアできているようです。

人手不足への対応は、まず必要な人員数を割り出す必要があります。
各茶産地では、この人数の見積もりを早い段階から行い、

1.地元で確保できる人数
2.外部から調達しなければならない人数

を割り出して、それぞれ対策を行ったようです。

茶摘み人不足に備える湖州市長興県(2020年3月3日付)
https://cttea.info/teanews/20200303

地元で確保できる人数については、茶業以外の業種からの転用(たとえば、碧螺春などでは閑期である上海蟹の養殖に従事する人を茶摘み人に転用)などで、人材の掘り起こしを行ったようです。
また、外部から調達する労働者については、過去の就労実績のある人を中心に、健康面で問題が無いかどうかを確認した上で、労働者が乗り合いの公共交通機関を利用して感染者になることが無いよう、送迎を行ったり、宿舎の改善などの労働条件を提示し、最低限の人数を確保したようです。
なかには貴州省のように、茶摘みの方法を片手で摘むのでは無く、両手を使って行うことを呼びかけ、茶摘みの効率を30%程改善することで、人手不足に対応する産地もあります。

都匀毛尖の茶摘みが本格化(2020年3月9日付)
https://cttea.info/teanews/20200309-1

多くの茶産地は、茶業だけが収入の柱になっている地域も多く、地元政府の力の入れ方が大きかったようです。
もっとも、人員確保に失敗してしまう産地もあるようで、碧螺春の産地である江蘇省蘇州市呉中区では、労働力不足から碧螺春茶の20%程の減産と労働コストの上昇を吸収できず、価格の大幅な引き上げが見込まれています。

洞庭碧螺春、3月16日より茶摘みスタート(2020年3月16日付)
https://cttea.info/teanews/20200316-2

 

販売面はこれから

産地の生産状況は、比較的順調なのですが、販売はまだまだこれからのようです。
大都市部では未だに移動制限が敷かれている地域もありますし、仕入れを行おうにも現地に足を運ぶというのは難しくなってきています。
産地の取引市場も、人が密集する懸念などから、ようやく最近になって再開されたばかりです。

浙江省の茶葉取引市場の様子(2020年3月5日付)
https://cttea.info/teanews/20200305

このようなことから、茶葉の価格は低迷気味なのですが、各茶産地の茶葉会社はネット販売などの新しい販路を開拓することに躍起になっています。
幸いなことに茶葉は優先的に輸送できる物資に指定されているため、通信販売という形で、流通が可能だからです。

今後、大都市での経済活動が本格的に再開されれば、茶葉販売店なども全面的に再開されるでしょうから、その時まではしばらく我慢の時間となりそうです。
この点については、各地方政府などで緊急融資制度を整備し、茶業者の資金繰り支援も行っているようです。

 

日本に新茶が届くまでは、前途多難

新茶が順調に収穫、生産されているとなると、日本にいる我々はそれを早く楽しみたい、と感じるのですが、これはなかなか時間がかかりそうです。
というのも、第一に日本からの入国時は14日間の経過観察が必要など、入国が非常に厳しく、現地での移動・滞在にも、まだ難しい面が残るため、短期の商用出張などは事実上不可能であり、持ち帰りようがないこと。
第二に、日本と中国を結ぶ航空便の多くが減便・運休となっており、航空貨物のキャパシティーが減り、EMSなど日中間の貨物郵便が受付停止となっていることなどです。
現時点では、ハンドキャリーも航空郵便も使用できない状況であるため、今年の新茶が届くまでにはもう少し時間がかかりそうです。

中国宛て国際郵便の一時引受停止について(日本郵便)
https://www.post.japanpost.jp/int/information/2020/0312_02.html

 

次回の更新は4月1日を予定しています。