第107回:変わる中国茶-黒茶と紅茶が躍進

データ更新は地道な作業

11月1日から、新しいスタイルの中国茶講座である 「中国茶基礎講座オンライン」 を開講することになりました。
これを機会に、テキストに掲載している地理的表示(GI)に対応しているお茶の一覧と生産統計を見直す作業を行いました。

これは、実に地道な作業です。
まず地理的表示に関していえば、中国では地理的表示に該当する認定を行っている機関が3カ所あり、それぞれ認定を行っています。
具体的には農業農村部の農産品地理標志(AGI)、国家質量監督検験検疫総局の地理標志保護産品(PGI)、国家工商行政管理総局商標局の中国地理標志(GI)の3つで、それぞれカバーする範囲や定義要件などが少しずつ異なっており、非常に厄介です。

これらを統一的に管轄するデータベースは存在せず、各省庁のWebサイトでもまとめることをしていません。
民間で時々、まとめたサイトが出てくることはあるのですが、アクセス数が集まらず、マネタイズできないからか、更新が滞って、閉鎖になることもしばしばです。

それではどうやって調べるかというと、年に数回程度、認定の公告が各機関で出ます。
米やりんごのような農産品や畜産品などが百件以上並ぶ資料を片っ端から読み、お茶に該当しそうな名前があれば、ピックアップします。
ピックアップしたものを、検索にかけ、茶外茶でないかどうかを確認したり、重複登録(複数の機関に重複登録するケースが非常に多い)ではないかどうかを確認します。
新しいお茶だったりすると情報が少なく、緑茶なのか紅茶なのか判然としないなど、確認作業には意外に時間がかかります。

そうして新規に登録された、お茶をリストに追加していきます。
既知のものはリスト化していますので、それに新しく認定されたものを付け加えれば、最新のリストになるというわけです。
リスト化は意外に時間がかかるものなのです。

一部重複するお茶も登録されていますが(※)、それらを含めると、現在は400種以上のお茶が地理的表示製品となっているようです。
※武夷岩茶のほかに、武夷山大紅袍、武夷山水金亀のような品種別で登録されていたりする。

 

厄介な中国の統計

もう一つの生産統計が厄介です。
以前までは農業部が生産量の細かな数字を発表しており、その数字を用いていました。
が、農業部が農業農村部に改組され、その後、役所の再編などがあった関係から、部署がなくなり、統計を公表しているサイトも消えてしまいました。

全国の荒茶生産量や生産面積、緑茶と紅茶の生産量程度であれば、国家統計局の統計データに公表されています。
しかし必要なのは、六大茶類全ての生産量だったり、各省別の生産量や生産面積が欲しい、となると国家統計局にはアップされていません。
そんなこともあり、2015年のデータで打ち止めになっていたわけです。

さすがに5年前のデータとなると、日進月歩の中国茶の世界では古すぎます。
どうしたものかと思っていたのですが、中国茶葉流通協会では、独自の統計数値を発表しています。

独自の、としたのは、政府統計である国家統計局の統計データと微妙に数字が食い違うからです。
統計の数字が国と機関で違うなんてことがあるのか、と思われるかもしれませんが、これが中国の統計です。
もっとも、それは信用できないという意味合いだけではありません。

生産統計などを厳密に統計化するとなっても、たとえば小さな工場の生産量を全て把握できるかと言ったら、現実問題として義務化でもなければ、できないわけです。これは日本でも同様でしょう。
どうしてもこの手の生産統計というのは、情報の入口の精度が不確かにならざるを得ないのです。
そこで、ある程度の推計が入り込む余地があるので、数字にブレが出るのだろうと思います。

当初は農業部の数値と国家統計局の数字は、大体同じところに着地していたので、そちらを使っていました。
が、そちらの情報が見あたらない以上、入手性の良い、中国茶葉流通協会の公表データに切り替えざるを得ません。
統計の取り方や分類などが一部違うのですが、最新の情報が安定的に入手できる点を評価すべきところかと思います。

 

緑茶と烏龍茶が減り、黒茶と紅茶・白茶が躍進

前置きが長くなりましたが、中国茶葉流通協会の公表データによると、ここ3年間の六大分類の生産量推移は以下の通りとなります。

茶類 2017年 2018年 2019年
緑茶 167.9万トン(67.3%) 172.24万トン(65.8%) 177.28万トン(63.5%)
黒茶 28.86万トン(11.6%) 31.89万トン(12.2%) 37.81万トン(13.5%)
紅茶 22.26万トン(8.9%) 26.19万トン(10.0%) 30.72万トン(11.0%)
烏龍茶 27.13万トン(10.9%) 27.12万トン(10.4%) 27.58万トン(9.9%)
白茶 2.52万トン(1.0%) 3.37万トン(1.3%) 4.96万トン(1.8%)
黄茶 0.55万トン(0.2%) 0.8万トン(0.3%) 0.97万トン(0.3%)
合計 249.6万トン 261.6万トン 279.34万トン

※中国では、国家標準『茶葉分類』の定義に従い、2014年以降は「青茶」の表記を用いず、「烏龍茶」表記となっています。

いくつか見どころがあります。

2019年の生産量は279.34万トンに

改革開放以降の生産量グラフを眺めると分かりますが、2005年以降、伸び率が明らかに変わっています。

2001年には、約70万トンだった中国の荒茶(原料茶)生産量は、2010年には約147万トンと倍に。
2019年には、約279万トンと2001年の約4倍にまで急激に増加しています。

まもなく300万トンの大台が見えてきました。
今年はコロナの影響もあるので難しいかもしれませんが、来年には確実に超えるでしょう。

緑茶と烏龍茶の減速

一時期は7割以上を占めていた緑茶の生産量ですが、63.5%にまで低下しています。
他の茶種の伸びと比較すると明らかに抑え込まれた状況になっており、6割切りも視野に入っています。

そして、日本では人気ですが、烏龍茶の生産量の伸びは止まり、横ばい状態で停滞しています。
その反面、他の茶類が猛烈に生産量を伸ばしているため、ついに烏龍茶の生産量比率は1割を切りました。
茶類別の順位でも4位に転落しています。

黒茶と紅茶、白茶の躍進

2000年前後の中国茶ブームの頃に中国茶を勉強された方には信じられないことかもしれません。
黒茶が生産量では第2位に躍り出て、確実に足場を固めてきています。

黒茶が強い理由としては、収蔵性という点が挙げられます。
「今、飲まなくても、将来的に値上がりするかもしれない」という投資の思惑だったり、流通側が在庫・売れ残りリスクが少ないと考えているため、流通在庫に流す余地が大きいこともあると思います。

元々、黒茶は2000年前後の茶葉会社民営化までは、茶葉生産量の限界などから、プーアル茶・六堡茶などの一部の黒茶を除くと、漢民族に飲ませないという政策が取られていました。
その足かせが外れたことから、一気に市場が大きくなっている段階と思われます。

そして、紅茶の躍進も非常に大きいです。
輸出用の紅茶が不振になってから、ほとんど市場が消えていましたが、2006年の金駿眉発売をきっかけに、中国人向けの高級中国紅茶市場ができたことが大きいと思います。
特に夏茶や秋茶の有効活用を政府が政策として打ち出しているため、これらのお茶を活用しやすい黒茶や紅茶の生産が増えているわけです。

さらに、緊圧白茶のヒットで白茶も大いに成長しています。
全体から見たら稀少茶であることは変わりませんが、2017年の生産量が2019年には、ほぼ倍になっているという驚異的な伸びです。

 

古い教科書、常識は捨てるべき

2015年までの統計と比較しても、この5年ほどの統計の変化は劇的です。
中国の茶業界の成長スピードは、まさにドッグイヤーであると感じます。

比較的、情報を追い続けている私でもそう思うのですから、2000年前後の中国茶ブームの頃に仕入れた知識、情報で止まっている方がこの様子を見たら、どう感じるのでしょうか。

未だに古い中国茶の常識でもって、中国茶について語る方もいらっしゃいます。
情報のアップデートがなされていない現況を、どうやって変えていくか。

まずは古い教科書と常識を捨て去るところをから始めるべきなのかもしれません。

 

次回は11月2日の更新を予定しています。

 

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