3年4ヶ月ぶりの台湾
6月上旬~中旬にかけて、台湾へ取材に出かけてきました。
最後に訪れたのが、中国で新型コロナウイルスが流行し始めていた2020年の2月。
それから程なくして、海外との往来が出来なくなり、随分時間が経過しました。
その後、台湾でも大規模な感染拡大などがありましたが、ようやくコロナ前の状況に戻りつつあります。
政府側でも2023年5月から外国人の個人旅行客を呼び込むキャンペーン(遊台湾金福気)を実施しており、外国人の来訪を歓迎するムードも出てきました。
このような状況を受けて、今回、久しぶりの訪問となったわけです。
※中国大陸も査証を取得すれば往来は可能ですが、未だ不透明な点も多く、歓迎の度合いもさほど高くないように感じます。
台北の街中の様子ですが、朝夕などの混雑時に公共交通機関を利用する人たちは、ほぼマスクを着用しています。
気温の高い日中はマスクを外す人も出て来ますが、それでも5割ぐらいは着用しているイメージです。
これが、地方に行くと少し着用率が落ちていくというイメージです。
以前との相違点は、そのマスクの着用有無ぐらいで、あとは従前と変わらない街の風景でした。
どのような取材をしているか?
さて、「取材」と言っても、どのようなことをしているのか?と思われることもあるようです。
これには様々なパターンがあり、事前にアポイントを取って、茶園や工場などを見学させて貰うこともあります。
製造現場などは、行って簡単に見られるものでは無いため、事前の準備等も必要です。
また、一般的な市中の茶葉店にお邪魔して、今年の産況などを聞きつつ、お茶を購入することもあります。
これは当年の全体的な状況などを把握したり、トレンドのお茶の情報源の一つとして役に立ちます。
ただし、一店舗の話だけを鵜呑みにせず、複数店舗に話を聞き、多面的に理解する情報処理が必要です。
商品を選んで販売している以上、バイアスが掛かるのは避けられないからです(仕入れたもののことは良く言い、そうでないものは悪く言ったり)。
さらに産地の茶農家さん・生産者さんのところへお邪魔して、お話を聞きながらお茶を購入することも多くあります。
これは馴染みの茶農家さん・生産者さんのこともありますが、全くの新規訪問の場合もあります。
全くの新規訪問の場合は、相手方もどのような客か分からないので、お互いに探り探りの商談になります。
どこでも最初から最高のお茶が出てくるわけではないので、とりあえず出てきたお茶に対して、どのようなリアクションを取るか?が重要です。
さらにお茶を飲みながら雑談も含めた会話をして行くことで、こちら側の茶歴や好みなどを伝えていきます。
はっきり言って、産地などでは特にコミュニケーション能力が勝負です。
それほど流暢な中国語が喋れるわけでは無いですが、いくつか距離を縮める持ちネタがあるので、それらを駆使して距離を縮めます。
リピート訪問するときには、手土産なども欠かさず持って行きます。
なかには「どのお茶が良いお茶か当ててみよ」という試験のような課題を出されることもあります。
これは付け焼き刃的な知識ではどうしようもありませんし、どんな資格を持っているかなどは全く関係ありません。
「お茶が分かるか、分からないか」それだけです。
試験のような課題とはいえ、既に何度も経験していることなので、あまり間違うことはありません。
良いお茶の条件というのが分かっていれば、そんなに難しい問題では無いからです。
むしろ、それぞれのお茶の特徴を製法の面から指摘していくことで、お茶の基本的な事項は了解していることを説明する良い機会になります。
いずれにしても、基本的には「お茶を買う・選ぶ」というスタンスで、色々なお話を聞かせて貰い、しかるべき量のお茶を買う、ということになります。
茶農家などの生産者のところへ訪問する場合は、最低限の礼儀として1斤(約600g)以上は購入するようにしています。
これを複数の茶農家さんや茶舗でやるため、物量もそうですが、金額も結構嵩みます。
概ね、渡航費や滞在費の3~4倍程度を茶葉に費やすのが普通です。
これをかれこれ15年近くやっているので、相当な”授業料”をお支払いしていると思います。
普通の茶商であれば、取引先が決まればそこに毎年通うだけ、になってしまいがちです。
が、それではどうしても情報が偏るので、必ず新規開拓もするようにしています。
新規開拓は、決して愉快な思いばかりをするわけでは無いのですが、情報の偏りを出来るだけ起こさないようにするには必須かと思っています。
バイヤーの発信する情報との違い
このようにして足で稼いだ情報を、帰国してからきちんとまとめ直します。
なぜかといえば、現地で得られる情報は、極論もまた多いからです。
その極論の部分は、概ね特殊な事象であることが多いため、それらを差し引きして、整理をする必要があります。
特定のお茶屋さんの受け売りの情報をバラ撒くことほど、危険なことはありません。
もちろん、極論の中には、芯を捉えている情報もあるのですが、現実との乖離があれば、それは意味の無い情報になってしまいます。
「現実に入手できるお茶の世界の中で、そのエッセンスをどう活かせるか?」という視点で再構築が必要になります。
このような地道な取材活動を、概ね年に2回程度。
これを15年以上続けていることが、私のお茶の知識や経験のベースとなっています。
「どこでお茶の勉強をしたか?」と聞かれれば、「産地で」と答えるのが一番適切だと思います。
現地でやっていることは、お茶のバイヤーとほぼ同じようなことをしていますし、求められる能力も似通っています(1店舗ごとに買い付ける量は、はるかに少ないですが)。
しかし、バイヤーの場合は、たとえば凍頂烏龍茶の濃香タイプなら、正解を一つに絞る必要があります(同系統で複数の商品があると販売効率が悪いため)。
実際には「このお茶も良い」「あのお茶も良い」ということは往々にしてあるのですが、それを敢えて1種類に絞らないと商品として販売するのが難しくなります。
そこで、無理矢理にでも絞り込むことになるのですが、この絞り込みを行う際に、抜け落ちてしまうお茶やそれにまつわる情報があります。
また、選んだお茶の方をどうしても強めにプロモーションしたくなるものです。
販売というビジネスである以上、これは仕方の無いことでしょうが、どうしてもそこにはバイアスが発生します。
このバイアスから逃れるためには、「販売をしない」という方策しかありません。
そのようなことから、個人的にはお茶の販売は行わず、既に良いお茶を仕入れて販売をしている事業者の方の応援に回ることにしています。
このことによって、よりフラットなお茶の情報を届けられると確信しているからです。
次回は7月1日の更新を予定しています。