第108回:危機の中から新しいチャンスを育む

時代は戻らないという覚悟を決めた中国の茶業関係者

ヨーロッパなどでは、感染症の感染者の増加が始まっており、一部では再度のロックダウンを始める国も出てきました。
日本でも、重症者は少ないものの、無症状者も含めた感染者数が再び増加していくような流れを見せています。

そのような環境ではありますが、日本のメディアなどでは中国の人々が、コロナ以前のように大勢の人が集まるイベントを報道しています。
これだけを見ていると、中国はコロナを既に克服して、今まで通りの生活に戻っているように錯覚するかもしれません。

しかし、地元の産業界の人々は、一般庶民ほど楽観視をしていません。
先日、湖北省西部の恩施トゥチャ族ミャオ族自治州にある利川市で、中国の紅茶業界の会合が行われました。

アフターコロナ時代の中国紅茶産業とは

ここで議論されていたのは、記事にもある通り、新しい時代に適応したビジネスモデルに茶業を作り替えていく必要性でした。
今までのやり方はもはや通用しないのだから、別のやり方を模索しなければ、という強烈な危機感です。

日本のメディアはセンセーショナルなことだけを報じたがるので、その報道だけを見ていると、中国の動きを見誤ります。

会合における注目ポイント

この会議での内容については、いくつかの注目すべきポイントがあります。

まず、今回のコロナ禍を受けて、すぐさま国の機関が茶産地の生産と販売の状況を調査したことです。
約半分のサンプル調査になったとはいえ、戦略を練るには、まずは正しい現状認識が不可欠ですから、非常に理に適った行動だと思います。

その結果を見ると、

1.春茶の生産量は微増に留まった(約0.84%)
2.産地の55%では、コロナ対策を講じる必要性などから生産コストが増加した
3.販売状況においては、ある程度のブランド力がある茶葉会社は販売増となった

ということが報じられています。

1についていえば、中国のロックダウンが解除され始めたのは3月からで、一部の茶産地では人手不足などに直面していました。
そのような状況の中で春茶の生産量を減少に転じさせず、微増であったというのです。

 

2については、ある程度想定されていたことです。
茶摘み人をバスなどで送迎したり、宿舎に配慮したりするなどしているので、当然、コストは増加するでしょう。

龍井村への茶摘み人到着の様子

とはいえ、コスト高のまま放置していては、消費者へのインパクトが大きくなります。
そこで普段飲みのお茶(大衆茶)などは、速やかに機械化や集約化などでコストダウンを図るべきだ、という提言が出されているわけです。

ただし、それだけではより良いお茶を求める消費者、すなわち付加価値の高い消費者を失うことになります。
そこで大衆茶の対立概念として”小衆茶”という言葉が登場しています。
徹底的に品質にこだわり、地域の特色などを強めに打ち出したお茶のことです。
コーヒーの世界におけるスペシャリティーコーヒーのような位置づけのものです。
これを伸ばす必要もあるというわけです。

市場をきちんと2つに分け、それぞれを伸ばすような手を打てということです。
画一的な茶業政策ではなく、市場ごとの政策を打てという至極真っ当な考え方だと思います。

 

3については、言われてみれば・・・という印象です。
従来のような、店舗に出向いて試飲をして買う、ということができなかったわけです。
ネット販売などで購入するとしても、失敗はしたくない消費者が多数派でしょうから、ある程度の信用があると思われるブランドを買うのは、理に適った消費行動です。
ブランド力の強化という点が、今後は重要になるでしょうから、茶業者は一定以上の規模が無いと、ブランド力競争になりませんので、茶業者の大規模化は避けられないでしょう。
地理的表示などの地域ブランドにかかる期待も大きくなりそうです。

 

産業政策というのは、このようにして考えるべし、というお手本のような話だと思います。

 

ピンチをチャンスに変える

新しいことに挑戦するというのは、簡単なことではありません。
何かを為すことに必要な技術のことを要素技術と言いますが、今までできなかったことを学んでやらなければならないわけですから、従来通りの仕事をしたい人にとってはストレスになります。

たとえば、昨今のコロナ禍でオンラインへの移行が叫ばれても、

「どうせそんなものは一過性のことだよ」

と冷ややかに見る向きは少なくありません。
当人は冷静に見ているつもりなのかもしれませんが、新しい要素技術を学ぶことを放棄しているだけのことも多いように感じます。

その点、この会議においては、「ピンチの中にチャンスがある。非常にやりがいのある時代だ」という話であったり、「若い人たちに受けている商品があるじゃないか。若いお客さんを取り込めれば、それは未来を取り込んだことだ」のように非常に前向きに進んでいこうという、ポジティブな言葉が並んでいます。

何も動かずに見ているだけでは、何も生まれません。
仮に動いてみて、上手く行かなかったとしても、動いてみて得た経験は必ずどこかで役に立つことがあるでしょう。

こういう姿勢こそ、中国の茶業界から最も学ぶべきことなのかもしれません。

 

当社も先日から、オンラインセミナーなどを始めています。
が、実際に実現させようと思うと、傍から見ているほど、簡単なことではありません。
どのような技術や知識が必要なのかは、実際にやってみないと分からないものなのです。

まずは動いてみる。動いてみることで、また違う何かが見えてくる、というのはよく聞く言葉ですが、まさにその通りだと感じます。

 

次回は11月16日の更新を予定しています。

 

 

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