第128回:日中間での中国茶のトレンドギャップは、どう解消できるか?

変わらないようでいて、変わっているのがお茶

お茶というのは昔からある飲み物であるので、何でも伝統的なものであり、あまり変化しないものと誤解してしまいがちな傾向があります。
しかし、実際には時代背景や環境に応じて、大小さまざまな変化が起こっており、それにあわせてお茶も変化しているものです。

変化はいわゆる”トレンド”として表れることが多いのですが、これに乗るべきか乗るべきでないかは、非常に難しい判断です。
明らかに”キワモノ”と思われるようなトレンドも時には出てくるのですが、それがしばらくした後に大きな市場を形成することもあります。
それが日本に美味く導入されておらず、現地とのギャップが出ているお茶もいくつかあります。
今回は、そんなお茶を紹介してみます。

 

発酵と焙煎がどんどん軽くなっていった安渓鉄観音の例

分かりやすい例で行くと、安渓鉄観音の緑化です。
安渓鉄観音は、従来は発酵も焙煎もある程度高くした、茶色い烏龍茶でした。
日本でも鉄観音入りという烏龍茶の多くは茶色なので、未だに茶色いお茶だと思っている方も多いように感じます。

しかし、中国では2000年前後から、焙煎を施さないような清香型安渓鉄観音が急速に普及しています。
現在では生産量のほとんどが清香型の安渓鉄観音で占められている状況にあります。
実際に、本場・安渓に行って、細かな注文をせずに「鉄観音を試飲させて欲しい」と話をすると試飲に出てくるのは、ほぼ青々とした清香型鉄観音です(冒頭写真)。
脳天に突き抜けるような強烈な香りを有するものがあり、焙煎したお茶に比べて苦みなどを感じにくいので、緑茶しか飲まない人たちにも受け入れられやすいということもあって、中国ではこれが主流になっています。

もっとも、いくつかの理由から、日本への導入はなかなか進んでいません。

まず、青々とした安渓鉄観音は劣化も早く、流通面に大きな課題があります。
現地でも冷凍庫などに保管するほどの念の入れようなので、専門店の店頭に出して展示するのには全く向いていません。

次に、日本への導入初期の品質問題です。
日本でも、緑化した安渓鉄観音の話題は断片的に2000年前後から出てきていました。
しかし、当時は地元の安渓でも、急激な需要増大を受けて、粗製濫造に近い形で量産が行われていた時期です。
日光萎凋などを一切しない”空調茶”と呼ばれるお茶など、色々と製造面での問題があるお茶や鮮度に問題のあるお茶が日本に入荷され、「青臭いだけで美味しくない」という評価が定着してしまいました。
本当に美味しいものも一部入荷していたのですが、こちらは当時でもなかなかのお値段でしたので、一般の流通には乗りませんでした。

さらに追い打ちを掛けたのが、2010年前後の残留農薬の問題です。
この時期、大手の輸入商社の福建省産烏龍茶から残留農薬の検出が相次ぎました。
実際、中国国内でも安渓鉄観音の農薬問題の深刻さはCCTV(中国中央電視台)が採りあげるほどで、低価格な量産品は問題が多かったわけです。
※この事件が、大きな衝撃を呼び、安渓県政府は政策を転換して、量より質への転換を図っており、現在は状況は大幅に改善されています(激安品は別ですが)。

・・・というわけで、トレンドに乗るために、輸入を試みたとしても、農薬の問題で通関が難しいかもしれない。
日本にファンが少ないので売れるかどうかわからない。しかも、鮮度的な問題もある、となれば、当然入荷は見送られてしまいます。
2010年以降は、安渓鉄観音自体の取り扱いを止める店舗も多くなり、安渓鉄観音は日本ではさほどメジャーでは無いブランドになってしまっています。

 

ところが中国では安渓鉄観音は大人気商品ですので、現地に訪れた方やお土産で貰うお茶としては定番中の定番です。
そこで本場の品質の高い清香型の安渓鉄観音を飲んでいると、「こんなに美味しいのに、なぜ日本で売っていないのか?」となります。
日本で売っている鉄観音は、従来型の焙煎の施された、ある意味、懐かしいタイプの鉄観音か、焙煎が強めな台湾の木柵鉄観音、あるいは鮮度の落ちた清香型の安渓鉄観音にしか当たらないので、「何かが違う」ということになるわけです。
このように鉄観音は、現在、日中間で最も認識に差があるお茶かもしれません。

 

緊圧したお茶がメインになりつつある白茶の例

日中間でギャップがあるお茶をもう1つ挙げるとすれば白茶です。
日本でも、一時期、白茶の美肌効果?が紹介されて人気になったお茶です(根拠については未だによく分かりません)。

最近、白茶は中国でも大人気で生産量を大きく伸ばしている茶類なのですが、そのきっかけは、餅型などに固めた「緊圧白茶」が出てきてからです。

これも当初は「中秋節の月餅代わりに」ということで、一過性のトレンド、あるいはキワモノの類いだったはずなのですが・・・
今では、中国の茶葉専門店では、プーアル茶とともに、どこのお店でも大体扱っている銘柄になってきています。
「緊圧白茶」は保存が利き、従来の白茶のように保管スペースも取らないことから、非常に重宝されているもののようです。
消費者サイドとしても、収蔵的な用途と美味しさを両立した製品として、非常に人気になっています。

ところが、日本では、緊圧白茶というジャンルは、ごく一部の愛好家を除き、まだまだ認知が進んでいません。
このお茶の形状を見たら、多少お茶に詳しい方でも「これはプーアル茶でしょう!」となるはずです。

緊圧白茶は、清香型の安渓鉄観音と違って鮮度管理の難しさはないので、日本でも流行してもおかしくないと思うのですが、意外と販売しているお店は思っている以上に少ないです。
認知が進んでいないことと、200g前後のものが多いため、いささか販売ロットとしては大きすぎると考えられているのかもしれません。

 

商品と情報の流通の滞りが、トレンドのギャップを生む

このほかにも、金駿眉(今や武夷山産に限らない)や小青柑など、中国では大人気でも、日本にはあまり入ってきていない製品が多数あります。
トレンドを追うことばかりが良いことではありませんが、売場にある程度の変化が無ければ、消費は活性化しません。

このトレンドギャップについては、やはり日本国内の中国茶のマーケットが非常に小さいものであり、知名度の低い新商品を仕入れるリスクを販売業者が取りづらいというのが、一番の原因のように感じます。
結果、売場にもあまり大きな変化がもたらされないため、中国茶というのはあまり変化しない商品のように思われてしまうのかもしれません(今の店舗さんは、出来る範囲で目先を変えるように頑張ってはいますが)。

もう一つは、中国茶に関する情報(中国ではこれを総称して”茶文化”と呼んでいます)をスピーディーに拡散するための仕組みが日本側に無いことでしょう。
何か新しい商品があれば、それがどのようなものかを紹介する媒体やお披露目の場などは、やはり必要ではないかと感じます。
※おそらく、この部分は当社がもっと頑張らなければいけない部分だと思います。

商品と情報(中国でいうところの”茶文化”)は、車の両輪のようなもので、両方が足並みを揃えて回っていかないと、なかなか成果は出ていきません。
情報があっても商品が無ければ、実需には繋がりませんし、商品だけあっても情報が無ければ、これも需要に結びつきづらいです。
両者が上手く噛み合うことで、「情報を得て、商品を購入する」あるいは「購入してから、情報を得て理解を深める」という良い循環が生まれ、国内の中国茶マーケットも活気づくのではないかと思います。

卵が先か、鶏が先かのような議論でもあるのですが、出来る範囲で少しずつ車輪を回していきたいものです。

 

次回は10月1日の更新を予定しています。

 

 

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