今月2度目の中国に来ています。
産地や茶城などを回って、お茶を買いながら情報収集を行っています。
今回、少し面白いな、と感じたことがありましたので、ご紹介します。

中国でも人気の”台湾烏龍茶”

大陸でも”台湾烏龍茶”は、なかなか人気のようで、多くの専門店があります。

とはいえ、台湾茶の生産量は、台湾全体でも約1万6千トン程度で推移しており、急増する大陸の需要を満たせるほどのキャパシティはありません。
一部の茶業者が中国向けに輸出を行っていますが、量が少ないこと、大陸側の代理店のマージンが大きいことなどから、非常に高額なで取引されています。

そんな中でも、比較的手頃な価格帯の”台湾烏龍茶”が豊富に流通しています。
このお茶はどこから来たものなのでしょうか?

中国における”台湾烏龍茶”の定義

ここまで”台湾烏龍茶”と、敢えて ” ” で囲む形で記述したのには理由があります。
中国における”台湾烏龍茶”は、「生産地が台湾であること」を意味しないからです。

中国のお茶について定義している、国家標準『茶葉分類』(GB/T 30766-2014)では、”台湾烏龍茶”を以下のように定義しています。

4.5.4 台式(湾)烏龍茶

台湾地区の特定品種あるいはその他の地区の特定品種の生葉を採用し、台湾の伝統的な加工技術を経て生産された顆粒形の製品。

これによると、台湾の品種を使っていても構いませんが、それは問題ではなく、とにかく台湾の伝統的な作り方をした丸まった形(顆粒形)の製品であれば、”台湾烏龍茶(もしくは台式烏龍茶)”と名乗って良い、ということになっています。

中国国内においては、この国家標準が機能しますから、「台湾産で無いものを”台湾烏龍茶”と呼称して販売しても何ら問題は無い」ということになります。
いわば、政府がお墨付きを与えているわけですから、中国では台湾の作り方をした烏龍茶であれば、産地を問わず、”台湾烏龍茶”なのです。

「そんな馬鹿げた話があってたまるか!」と思われるかもしれませんが、反論をしようにも根拠が乏しいのです。
国際的にこれに反論をしようと思えば、「台湾烏龍茶」というものが台湾の政府によって地理的表示(GI)で定義され、かつ国際的に認知されている、という状態に持っていかなければなりません。

しかし、残念ながら台湾も地理的表示についての取り組みは遅れており、台湾烏龍茶という名前で地理的表示を行っていません。
定義していなければ、中国の主張に反論する論拠が乏しくなってしまいます。
もっとも、国際的な司法の場に出ていけば、さすがに他国の地域名を冠したブランドは認められない、となる可能性があります。
逆に言えば、それぐらいしか反論の材料が無いということです。
※余談ですが、もし中国が緑茶の分類の1つとして、「日本緑茶」なる分類を作り、それが蒸し製の緑茶であるのような定義をしてしまったら、日本も同じ状況に立たされてしまいます。定義が曖昧ということは、そういうリスクを孕んでいることを日本の茶業界も認識するべきです。

”台湾烏龍茶”の品質はどうか?

とはいえ、問題はやはり品質です。

「所詮は紛い物。品質は足元にも及ばない」

以前、いわゆる”台式烏龍茶”を飲んだ際には、このように感じていました。

同じことが、かつてはタイやベトナム産の”台湾風烏龍茶”にも当てはまっていました。
やはり本家を越えることはできないのか・・・、と感じたものです。

しかしながら、最近ではタイやベトナム産でも、技術的な進歩が著しくなっており、環境の良い場所で丁寧に作られた台湾風烏龍茶は、台湾産の烏龍茶を凌駕する品質のものも出てくるようになりました。

一方、台湾では、茶価が上がらないことから、以下のような理想とは言えない茶葉生産の現状があります。

・人手を東南アジアなどからの出稼ぎ人材に頼らざるを得ず、その茶摘みの品質にバラツキがでやすい。
・天候の影響で茶の生育にズレが生じたとしても、茶摘み人のスケジュールの方が優先され、茶摘みの適期を外したり、雨天での茶摘みを決行せざるを得ないなど、理想的でない生葉が原料となってしまうことが多々ある。
・製茶の手間と人件費の削減のため、空調による萎凋や圧茶機の使用など、伝統的な製法ではない製茶をせざるを得ないことがある。

など、こうした製茶環境の厳しさから、結果的に妥協の産物のような製品が流通していることもあります。
このようなお茶に出くわすケースは、年々、増加しているように感じます。
いくらメイドイン台湾であったとしても、こうした本質を外しているお茶の品質は、高く評価できません。

言葉は悪いですが、手を抜いた台湾産よりも、きちんとかけるべき手をかけた他産地のお茶の方が優れているというのは、あり得ることなのです。

そのような可能性を踏まえて、福建省産(左)と雲南省産のお茶を飲み比べてみました。
福建省産は産地は不明ですが、1000m越えの高山で栽培されており、雲南省産は2000m近い高原地帯で生産されているものだとのことでした。
ちなみに福建省産は「阿里山」、雲南省産は「梨山」として販売されていることもあるそうです。

飲んでみるといずれも清らかなタイプの烏龍茶で、詳しくない方が飲めば、普通に「美味しい!」と感じるようなお茶です。
品種は青心烏龍のようでもありますが、少しニュアンスが違い、大陸で亜種化している可能性もあります。
福建省産の方は、やや安渓鉄観音などとも似た独特のトーンの香りがあるため、飲みつけている方なら福建省臭さを感じるお茶です。
一方の雲南省産の方は、高冷茶にありがちな透明感が印象的で、「台湾の新しい産地です」と出されたら、案外、分からないのではないかと感じます。
さすがに茶がらを見ると、台湾の育ち方ではないことが分かるのですが、そこまで分かる人がどれだけいるでしょうか。

 

産業として成立していなければ、いずれは追い抜かれる

というわけで、テイスティングの結果は、わりと衝撃的な結果でした。
しかし、これは「どこかで来た道ではないか」と感じます。

かつては、アメリカが後発の日本の自動車産業に対して「安かろう悪かろうだ」と言っていましたが、いまや立場は逆転しています。
日本も電化製品について、中国の製品に同じことを言っていましたが、携帯電話などは、日本メーカーはほとんど淘汰されています。

後発であったり、模倣であったとしても、それが産業としてきちんと回り出してしまうと、技術的なアドバンテージなどはあっという間に埋まってしまうものです。
現在の技術水準の高さを誇るだけでなく、産業として回せる構造を作ること、というのも非常に大切だと思われます。

産業として回せる構造というのは、突き詰めれば、

「優秀な仕事をすれば、きちんと正当な対価が得られる」

という状態にすることであり、それによって優秀な人材がその業界を目指すようになります。

中国の”台湾烏龍茶”、とりわけ”高山烏龍茶”などは、そのような環境を”台湾産のお茶が高値であること”という状況を逆手にとっています。
同じ価格帯で、徹底的に手をかけた製品を作り、安く売らない(生産者、流通業者ともに十分な収益、マージンが得られる)という状態を作り、そこで得られた収益を再投資することで、産業として大きくしてきています。

今では、”台湾烏龍茶”の枠組みに頼らず、自分の産地の名前を冠し、ブランドとして確立しているケースもでてきています(寿寧高山烏龍茶、大田高山茶、盤陀金萱茶等)。

産業政策というのは、やはり、かくあるべしと感じます。

 

出張が続いておりますため、次回の更新は11月30日を予定しています。