第159回:中国の茶業界の2022年十大ニュース

少し時系列はズレますが、昨年の一年間を振り返り、茶業界の重大ニュースを中国の業界紙などが採り上げていました。
日本にいると、正直、あまり関係の無さそうなニュースも多いのですが、現地の感覚を知る上では、現地の茶業界で評判になっていたニュースを知っておくことも必要かと思います。
そこで、今回は、中国国内の流通に影響力を持つ”中華供銷合作総社”の機関メディアである、『中華合作時報・茶周刊』が同社の公式アカウントで発表した十大ニュースの見出しと簡単な概要を紹介したいと思います。

1.”中国の伝統製茶技術とその関連風習”の世界無形文化遺産への登録。習近平総書記が重要な指示

11月末に決定した、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産リストに”中国の伝統製茶技術とその関連風習”が登録されたものです。
この内容については、中国茶情報局のほか、当ブログでも紹介しています。

「中国の伝統製茶技術とその関連習俗」が世界無形文化遺産に登録決定

第156回:”中国の伝統的製茶技術とその関連風習”の無形文化遺産登録について

この無形文化遺産登録に関して、習近平総書記が

「”中国の伝統製茶技術とその関連風習”の無形文化遺産登録は、中国茶文化の振興にとってきわめて重要である。無形文化遺産の体系的な保護をしっかりと行い、日増しに増大する人民の精神文化への需要を満たし、文化の自信と自己改善を推進する必要がある。中華の優れた伝統文化の創造的な変革と革新的な発展を促進し、中華民族の団結力と中華文化の影響力を継続的に強化し、文明間の交流と相互学習を深め、中華の優れた伝統文化の物語を伝え、中国の文化をよりよく世界に広めるべきである

とする「指示」を出しており、これを受けて、中国文化の旗印的な地位が茶に与えられた、という論調も見られます。

2.習近平総書記、六堡茶をより大きく、より強くするよう促す

10月17日に、習近平総書記が広西チワン族自治区の代表団の討論に参加。
席上、六堡茶の国家級無形文化遺産伝承人でもある、六堡鎮山坪村の党支部書記・祝雪蘭氏による報告を聞いたあと、「六堡茶は淹れるのと煮るのとどちらが良いか?」「寝かせれば寝かせるほど良くなるのか?」「村に独自の六堡茶ブランドはあるか?」という質問を立て続けに行い、六堡茶をより大きな産業に育てていくべきだと話したとのこと。

これ以降、政府系メディア等で六堡茶の記事が急増しています。
広西チワン族自治区は、産業的には立ち遅れている地域の一つであり、産業振興策として六堡茶産業を伸ばしている段階です。

3.習近平総書記、海南省で茶炒りを体験

4月11日、習近平総書記が海南省五指山市を訪問し、各地を視察して自然環境と生物多様性の保護状況、ピンポイント貧困扶助の状況を確認。
五指山市水満郷毛納村では茶葉工場を訪れ、自ら茶の釜炒りを行い、2袋のお茶を購入。

海南省も一部の地域で茶業の拡大が目指されています。
独特の気候を活かして、早場の茶の生産を行うなど、独自の存在感を出しています。

 

ここまで3つほど、習近平総書記絡みの記事がランクインします。
政府系メディアがどこを見て仕事をしているかが、非常に良く分かります。
むしろ、これ以降が一般的な重大ニュースかと思います。

 

4.60年ぶりの高温で、各地の茶園が干ばつに見舞われる

夏に入ってから、中国南部では深刻な干ばつと、多くの地域で最高気温が史上最高値を観測。
江蘇省、湖南省、浙江省などの南方の茶産地では、持続的な”高温のオーブン”により、茶園は未曾有の高温に晒された。
一部では干ばつの影響により、夏秋茶の収穫がゼロとなり、翌年の春茶の産量も半減するところがあり、茶農家と茶葉会社の損失は深刻。

本件は、中国茶情報局で記事としていくつか紹介しています。

西湖龍井茶の茶畑に日除けが登場

高温続きで西湖龍井茶の茶樹が焼け焦げる

西湖龍井茶の熱波被害、全体の10%程度か

 

5.『夢華録』が放送、宋代の”点茶”に注目が集まる

テレビドラマ『夢華録』がヒット。
ドラマの中で登場した、茶を飲む環境、茶の飲み方、茶道具や茶菓子などが、お茶愛好家の宋代への興味を喚起。
若者にも宋代の点茶文化に興味を示す動きがあり、宋代の茶文化の様式を暮らしに取り入れるケースも。

同ドラマは、2023年に日本でもWOWOWで放送予定とのこと。

 

6.”日春の武夷岩茶コンテスト”が大事件に

10月から12月にかけて、福建省の大手茶葉会社・日春股份公司が武夷山市で、1000万元の賞金総額で武夷茶王(水仙、肉桂、大紅袍)を募集すると発表。
しかし、発表された入賞茶サンプル番号に多くの連続する番号があったことから、茶農家から主催者側が、資金の外部流出を避け、さらに大量の茶サンプルを集めるためにブラックボックスの中で操作をしたのではないかという疑念が持たれる。
多くの茶農家がサンプルの送付場に集まり説明を求めたが、日春股份公司の総裁である王啓聯氏は、「イベントは我々が開催したもので、私が誰が当選したといえば、その人が当選するのだ」などの発言を行ったため、茶農家の怒りの火に油を注いでしまった。
武夷山市政府と公安部門などは、会場の秩序維持と調査に介入し、日春股份公司・総裁の王啓聯氏は謝罪し、会社の公式アカウントで『武夷山の茶農家への公開謝罪書』を発表し、事件はようやく落ち着いた。

最近、大手企業がバックに付くことで、コンテストの賞金総額がどんどん高額になっています。
そのような状況の中で起こった詐欺まがいのコンテスト騒動だったようです。

 

7.雲南滇紅集団股份有限公司、破産整理を申請される

11月8日、雲南省臨滄市永徳県の人民法院(裁判所)は、”鳳慶県城市発展投資開発有限公司が申請した雲南滇紅集団股份有限公司の破産再生プランについて、競争方式で管財人を指定すると発表。

雲南紅茶のトップメーカーである、雲南滇紅集団が破産申請をされました。
大手企業ではありましたが、多角化の失敗などで厳しい経営が続いていたとのことです。

 

8.大紅袍、第14回BRICS首脳会議のギフト茶に

6月23日、第14回BRICS首脳会議が北京で開催されました。
新型コロナウイルス感染症と地政学的対立の激化を背景に、中国のホームで行われる外交イベントに世界の注目が集まりました。
ホスト国である中国は各国の首脳にギフトを準備。
中国外交部は、大紅袍をギフトにしたことに言及しました。

BRICS首脳会議は、新興5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の首脳による会合です。
中国では国際的な会合などがあると、オフィシャルのお茶が発表されるのですが、今回は大紅袍だったそうです。

 

9.”七輪を囲んでお茶”がヒット、現在最も流行しているライフスタイルに

七輪の上でお茶を煮て、そのそばには落花生、ナツメ、サツマイモが焼かれ、茶と食べ物の香りが漂う中で、親しい友達とお茶を飲みながら語り合う・・・
今年の冬、”七輪を囲んでお茶”は特別な格式と雰囲気のあるお茶の飲み方で”ブーム”になっています。
この現象は、主にショートムービーを通じて話題となり、今や最も流行しているライフスタイルの一つとなっています。
これによって、中国の陶器の郷である福建省泉州市徳化県では注文が激増し、茶館業態の復興や関連茶製品も供給が追いつかないなどの現象が起きています。

”七輪を囲んでお茶”のブームで注文が殺到する徳化県

国営メディアなども盛んに海外向けに報じている、中国のブームです。
コロナ禍の影響で、中国もキャンプブームが到来しており、それと合わせた”SNS映え”する飲茶スタイルとして、若者を中心に広まっているようです。
若者を茶業界にどう取り込むかは茶業界の課題でもあり、この好機を捉えたいと考えている業界関係者は多いようです。

 

10.”福建安渓鉄観音茶文化システム”、国連食糧農業機関の認定する”世界農業遺産”に

5月20日、国連食糧農業機関は、中国の福建安渓鉄観音茶文化システムを世界農業遺産として認定することを正式に発表しました。
これまでに、中国では全部で18か所の世界農業遺産があり、そのうち茶に関する遺産は、雲南普洱古茶園と茶文化システム、福建福州茉莉花栽培と茶文化システム、福建安渓鉄観音茶文化システムです。

ユネスコの無形文化遺産とは別に、国連食糧農業機関(FAO)の認定する世界農業遺産に安渓鉄観音茶文化システムが選ばれたそうです。

 

以上が、『茶周刊』の選ぶ、2022年中国茶業の十大ニュースとのことです。
これを見て分かるのは、やはり中国の茶業には、政治性が強い側面があるということです。
中国の茶業の動向を見る上で、この点は常に頭に入れておいた方が良いかもしれません。

 

次回は2月1日の更新を予定しています。

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