消費者を警戒させるホンモノ・ニセモノ論争

中国茶のイメージが日本で今ひとつ良くならない理由は、色々あります。
その中の一つに、取り扱っている業者であったりある程度お茶に詳しい方が、「あれはニセモノ」「これがホンモノ」というような、ホンモノ・ニセモノのレッテルを安易に貼ってしまうことがあります。

このような「ホンモノ」「ニセモノ」の話は、日本のメディアなどで報じられる中国の「ニセモノ天国」というようなイメージと結びつきがちです。
結果、「中国茶はニセモノばかりで、ホンモノを見つけるのは大変だ」「ホンモノかニセモノかをいちいち気にしないとならないのでは、買うのは大変だ」というような、”中国茶は難しい”イメージに結びついているような気がします。

自分の扱っている商品、あるいは愛用している商品を持ち上げるために、全体のイメージを胡散臭い商品に貶めているだけでは無いか、と個人的には感じます。

 

中国で出回っているお茶は本当にニセモノばかりなのか?

「中国茶はニセモノだらけ」という説を検証するためには、本当に中国の市場に出回っているお茶がニセモノばかりなのかどうかを検証する必要があります。

まず、大前提として、中国も公正な商取引を確保するために、ニセモノの撲滅には力を入れている国だということを認識する必要があります。
かつては確かにお茶のニセモノは多かったのですが、ニセモノによって被害を受けるのは、正規品を生産している中国の企業であり、中国の茶農家です。
自国民や自国企業の正当なる権益を守るためにも、ニセモノの取り締まりは厳しく行われていますし、”市場を管理する”という視点が強い中国はニセモノの横行を許容する社会ではありません。
そのため、「市場に出回っているものがニセモノばかりである」という説については、少し疑ってかかってみる必要があります。

 

ホンモノとニセモノを分ける境目は?

基本的に、中国においても市場で出回っているものは、正規品であるわけです。
そうでないと取り締まりの対象になってしまう可能性が高く、真っ当なメーカーなどは、それに従ってビジネスを行っているはずです。

それでも、一部の販売業者や愛好家が、「ニセモノばかりである」と言う理由はどこにあるのでしょうか?

それは、おそらく「ホンモノとニセモノの境界」が、中国政府として認可し、生産・流通を許容している基準と一部の基準では違うということが挙げられるかもしれません。

かつて本ブログでも紹介した通り、中国ではお茶の定義を明確に規定する動きが強まっています。

第19回:「茶」の定義を整備し始めた中国

とりわけ、いわゆる名茶とされるブランド力のあるお茶は、「地理的表示(地理标志)」という、いわば原産地保護に関する法律の下で、生産地域や製法などが「標準(标准)」という定義書によって、明確に定義されるようになっています。

現在、地理的表示の対象として指定されている名茶は、既に400種近くに上ります。
これらのお茶については、「生産地域」「用いるべき品種・製法」「製品の種類」「生産にあたっての留意点」「各等級の品質基準」などが、書面で定められています。
その条件に則ったものであれば「ホンモノ」であり、そうでなければ「ニセモノ」ということになります。非常に明快です。

とはいえ、そもそも日本では、中国茶を商っていたり、詳しいとされる方でも、このような定義書が存在することを知らない方も、まだ多くいます。
さらに厄介なことに、この定義書でも曖昧な書き方をされているものであったり、判例などから定義書以外のものも許容されているケースがあります。
代表的な例として、ニセモノが多いと言われがちな「大紅袍」と「金駿眉」の例をご紹介したいと思います。

 

「大紅袍」のホンモノとニセモノの境目は?

「大紅袍」というお茶は、福建省武夷山市で生産されている烏龍茶である「武夷岩茶」の中でも、もっとも著名なお茶として知られています。
武夷山風景区の中にある大紅袍の母樹(原木)は、様々な伝説が伝えられており、茶に関心のある人にとっては武夷山観光のハイライトになるスポットです。
そのような知名度の高さもあり、大紅袍は武夷岩茶全体を牽引するアイコンであり、主力商品となっています。

武夷山風景区内にある大紅袍の母樹

「大紅袍」は、一般的な知名度が高く、非常に多く出回っているお茶であるだけに「ホンモノ」「ニセモノ」論争の多いお茶でもあります。
何をもって”ホンモノ”とするかは、人によって考え方の違う部分です。

「原木から作られた大紅袍のみがホンモノである」とする方もいます。
が、大紅袍の母樹は、保護のためにしばらく茶摘みが禁止されていましたし、茶摘みを行っても、年に数キログラム程度の量しか採れません。
これでは一般の人々に行き渡ることはありませんし、商業ベースに乗せることはできません。
このようなものが市場で買えると思っている人はいないでしょうから、この定義はナンセンスということになります。

あるいは「大紅袍の母樹を挿し木や接ぎ木で育てたものだけが、ホンモノだ」という方もいます。
現在、大紅袍の母樹は6株あり、その内訳は2種類の品種化された木(雀舌・奇丹)が2株ずつと品種化されなかった木の2株から構成されています。
このうちの奇丹という品種が、2012年に福建省の省級品種である「大紅袍」という品種に認定されていますので、この木を用いたものだけが「大紅袍」というスタンスです(このお茶を、特に「純種大紅袍」と呼ぶこともあります)。

とはいえ、これに異を唱える意見もあります。「大紅袍」品種だけでは、母樹の味は表現できない、という声です。
なぜなら、先程、

その内訳は2種類の品種化された木(雀舌・奇丹)が2株ずつと品種化されなかった木の2株から構成されています

と書いた通り、6株の母樹のお茶は、そもそも複数の品種のブレンド茶なのです。
そのため、「単独の品種だけでは、ブレンドによる味わいを出すことは出来ない」ということから複数の品種をブレンドして出荷することも肯定されています(このお茶を、特に「商品大紅袍」と呼ぶこともあります)。

実際、市場に出回っているお茶の多くは、複数の品種のお茶をブレンドしたこのタイプのお茶です。
特定の品種だけに限らないということは、各メーカーが様々な品種をブレンドすることによって思い思いの大紅袍を作っているということになります。
当然、味わいには各メーカーごとの個性が出て来てしまうので、「大紅袍とはこういう味」と一概に言うことはできなくなってしまいます。
が、生産量を確保することが容易になりますから、商業ベースで動いているのは、ほぼこのお茶といっても過言ではありません。

それぞれのスタンスによって、それぞれの定義が生まれ、それによって何をもってホンモノとするかニセモノとするかが違ってきます。
では、公式見解はどうなっているのでしょうか?

現在、「大紅袍」は、国家標準である『地理的表示製品 武夷岩茶(地理标志产品 武夷岩茶)』GB/T 18745-2006という定義書によって、名欉、肉桂、水仙、奇種と並ぶ、武夷岩茶製品の一つとして定義されています。
しかし、この定義書には、実はちょっとしたトリックがあります。
それぞれのお茶がどのような外観、香り・味であれば、どの等級になるかというような等級基準はあるのですが、用いるべき品種については明確に記載されていないのです。

そのため、先に挙げた大紅袍品種を使ったものも、武夷山で生産され、品質基準に適合していれば、大紅袍として出荷できますし、複数の品種をブレンドしたものでも、武夷山で生産され、独特の製法で生産されていて品質基準に適合していれば、許容されるということになります。

この点は他の烏龍茶の中でも、かなり特異なものです。
たとえば、安渓鉄観音であれば、鉄観音品種を用いること、ということが絶対条件として記載されています。
これによって、非常にわかりにくい印象になった、とも言えますし、現実的に多くのブレンド茶が出回っている状況を柔軟に踏まえた基準ということも言えます。

もっとも、今後はどうなるか分かりません。

現在、国家標準『烏龍茶』GB/T 30357 という主要な烏龍茶を定義する一連のシリーズ基準が2013年から順次規定され、公布・施行されています。
これは8つのパートに分かれ、第1部分:基本要求を皮切りに、第2部分:鉄観音、第3部分:黄金桂、第4部分:水仙、第5部分:肉桂、第6部分:単欉、第7部分:佛手までが2017年末までに規定されました。
これらの一連のシリーズは、「烏龍茶の製品は、品種によって規定される」というスタンスで貫かれており、品種によって烏龍茶を整理するものです。
このうち、未だに整備されていない第8部分が、実は「大紅袍」なのです。
この標準がまだ規定されていないのは、前述のようなブレンド茶が多数を占める現状と品種的には正統とされる”純種大紅袍”の普及状況を天秤に掛けている結果なのかもしれません。

もし、この標準が公布され、施行されたならば、大紅袍のホンモノとニセモノの基準が変化することになります。
武夷山の茶業が大きく変わるきっかけになりかねません。

 

「金駿眉」のホンモノとニセモノの境目は?

2005年に開発され、あっという間に現代の中国紅茶の代表格まで上り詰めたお茶が、「金駿眉」です。
このお茶は、お茶の芽のみを使って作った甘い香りの紅茶であり、中国人好みの味わいであることから、瞬く間に市場を席巻しました。
その価格の高さも注目されるところで、オリジナルを作成したメーカーの1つである正山堂では、1斤1万元(500g15万円)以上の値をつける商品も珍しくありません。

このお茶は、本来は福建省武夷山市と建陽区、光沢県、邵武市などに跨がる武夷山国家級自然保護区内が原産地のお茶です。
金駿眉を定義する標準である、業界標準『金駿眉茶』GH/T 1118-2015によれば、本来の金駿眉茶は、武夷山国家級自然保護区565平方キロメートル内の高山茶樹の単芽を用いたものであることが定義されています。

しかし、実は金駿眉茶を定義している基準はこれだけではなく、武夷山市で生産されている紅茶全般を規定している、福建省の標準『地理的表示製品 武夷紅茶(地理标志产品 武夷红茶)』DB35/T 1228-2015 では、正山小種、小種、煙小種と並ぶ、奇紅という種類の中で金駿眉を定義しています。
この「武夷紅茶」の標準においては、産地は武夷山市内全域に広がるため、先に挙げた標準よりもより広い範囲で生産されたものも金駿眉として認めるということになっています。

さらに、実は金駿眉はデビュー以来、原産地保護の取り組みにおいて、産地の足並みが揃わなかったこともあり、各地で模倣品の製造が行われました。
これについて訴訟が提起されたのですが、その判決の結果、「金駿眉とは、芽の部分を用いて作った工夫紅茶の一般名詞として既に定着している」という判例が出てしまいました。
このため、中国の紅茶の基本的な基準である、国家標準『紅茶 第2部分:工夫紅茶』GB/T 13738.2-2017 に準拠していて、新芽の部分を使ったお茶であれば、産地を問わず、金駿眉として流通することが出来るようになってしまっています。

要するに、産地の原産地保護の取り組みが遅れたことによって、市場で金駿眉という名称が一般名詞化してしまったため、どこの産地のお茶でも金駿眉を名乗ることが出来るようになってしまっているということです。

原産地産のお茶こそがホンモノである、というスタンスを取りたいのであれば、非常に由々しき事態ではあります。
が、原産地が狭くなればなるほど、量は少なく、価格は高価になりがちであるため、産業として考えると、広い範囲で生産されているものが許容される方が、有利となります。
当然、市場に出回っているものは他産地産ばかり、ということになるのですが、実際はそのような状況であると言うことを踏まえていれば、決してニセモノばかりというわけでは無いのです。

むしろ、「これをどうやって区別して、購入するか?」の方が消費者目線に立つと大事な部分だったりします。
これについては、基本的にメーカーなどが販売するお茶は、パッケージに原産地域や準拠した標準の名前を書くことが義務づけられており、そうした商品を買えば、原産地名や標準名が記載されています。
原産地たる武夷山国家級自然保護区産であれば、そのように記載しているはずですし、準拠している標準も金駿眉茶の標準番号が書かれているはずです。
義務づけられている表記を偽ると、これは産地偽装となり罰せられます。
そのため、産地名に違う地域が書かれていたり、準拠する標準の番号が一般的な工夫紅茶の標準であれば、それは原産地産では無いことの証拠になります。

 

このルールは茶葉市場などの量り売りでは適用されないので、あくまで一つの参考でしかありません。
が、最も厳しい基準のみを物差しにして「ニセモノだ、ホンモノだ」という話をするよりも、

そもそも、広い基準が存在していて、品質と価格にバラツキがあること

を十分に伝えた上で、味わいと価格で納得の行くものを探してもらうことだったり、見分け方を伝える方が、消費者にとっては有益です。
極端な物語や伝説ではなく、現実的で購入可能な範囲の情報こそ、本来は重宝され、流通されるべきではないかと思います。

 

次回は12月15日の更新を予定しています。