初心者、にわかファンを増やしていくことが活性化に繋がる

最近、中国茶に関心を持ち、飲み始めてみようとされる方が増えているようです。

弊社で実施しているセミナーやワークショップへ参加してくださる方を見ていてもそう感じますし、SNSなどでは手探りながらも少しずつ中国茶の世界を覗いてみようとしている姿を見ることが増えてきました。
これは中国茶のみならず、お茶の業界全体にとって、非常にポジティブなことだと思います。

「企業の目的は”顧客の創造”である」と言われますが、新規顧客の開拓は、全ての業界が持つ必然的な使命です。

趣味性の高い業界において”新規顧客”は、あまり知識や経験のない”初心者”だったり、ラグビーのワールドカップで話題になった、”にわかファン”であることが多いものです。

おそらく、構造的な不振に陥っている業界は、この”にわかファン”の扱い方や受け入れ方が不十分なのではないかと感じます。
その点を個人の経験も含めて、大いに点検してみたいと考えます。

 

「相場観も無く、モノの良さが分からない」から始まる

”初心者”や”にわかファン”の方は、その世界の相場観もありませんし、エキスパートの方が”良いもの”としているものを必ずしも’”良いもの”と判断してくれないこともあります。
たとえば、非常に高級な中国緑茶を飲ませると、淡い味わいで全然美味しそうな顔をしませんが、それほど価格は高くないものの香りが強烈なジャスミン茶を飲ませると、香りが良い!といって、大喜びで購入する、などです。

また、基礎的な知識や情報を持ち合わせていないために、詳しい方から見れば「何とトンチンカンな質問をするのか」「何とモノの価値の分からないことをするのか」と感じることもあるでしょう。
こうした点を腹立たしく感じてしまうのか、初心者に対して、冷たい対応を取るような業界関係者やマニア層も見受けられます。
これはおそらく”にわかファン”という言葉が、どちらかというと侮蔑的に用いられてきた通り、趣味性の高い世界では普遍的に行われていることなのだろうと思います。

 

デリケートすぎる初心者の心理

一方、”初心者”の方は、非常にデリケートな存在でもあります。

自分自身の経験から振り返ってみても、趣味性の高いジャンルの知らない世界に足を踏み入れるのは、楽しみに感じる面もある反面、不安を感じるものでもあります。
まず、知識や情報のない最初の頃は、専門店の店員さんは、みんな怖そうに見えます。
自分が知らないことを沢山知っている人と対峙すると、こちらがお金を払って購入するはずなのに、なんだか肩身が狭く感じるものなのです。

さらに、お店でたまたま同席する、古参のマニアの方には、試されるような、値踏みをされるような質問をされたりします。
「そんなのも知らないの?」と露骨に言われることもありました。
最近は、さすがにそのようなお店は無くなりましたが、お店に入った途端に店主さんから喧嘩腰のように感じる質問をぶつけられたこともあります。

「ただ楽しみたいだけなのに、なんでこんな不愉快な思いをしなければいけないのか」と、イラッとすることは多々ありました。

後から考えてみると「あれは正論だったな」と感じることもあるのですが、初期の段階では、とにかくデリケートなので発言を冷静に受け止めることは出来ません。
ちょっとでも「嫌な思いをしたな」と思ってしまえば、簡単に心は折れがちです。
お茶に関していえば、中国茶でなくても、紅茶や日本茶がありますし、コーヒーやワインなど、他に興味を持てそうな嗜好飲料はいくつもあります。

「嫌な思いをしてまで、このジャンルにこだわることはない」と判断されてしまえば、二度と関わろうとはしないでしょう。
あるいは、その方が別のジャンルで大成し、発信力のある存在になったならば、後で「あの世界は偏屈でダメだ」と、マイナスの宣伝を大いにすることになるでしょう。
1人の初心者、にわかファンがいなくなったのではなくて、その後ろにある数十人、数百人、数千人という見込み顧客を失うことになるわけです。
これは業界全体に致命的なダメージになりますし、正直、日本の中国茶の世界は、この傾向が強かったと思います。

 

初心者を”育てる”という発想

先に「相場観も無く、モノの良さも分からない」と書きましたが、ほとんどの初心者はそこから始まります。
ごく稀に、他のジャンルで嗜好飲料のある程度の相場観や枠組みを学んだ方はすんなりと、入ってくることがありますが、多くの初心者はそういうものだ、と割り切る必要があります。

その上で、話をしたり、説明文を読んでもらったり、場合によっては本や記事を読んでもらったりして、情報や知識をお伝えする。
さらに実際に飲んでもらったりして、経験を積んでもらう。
情報と知識、経験といったものを”初心者”、”にわかファン”に積んでいただくことで、彼、彼女たちは、徐々に良さが分かるようになっていきます。
その間に「なぜ、そのような価格になるのか」というコスト構造や相場観も理解できるようになるでしょうし、その世界を構成する枠組みを理解いただけるようになります。
そうなってくれば、当初あったような”得体の知れない不安”は姿を消し、自信と勇気が芽生えてきて、積極的にその世界を楽しめるようになります。

これがまさに”顧客を育てる”ということであり、趣味性の高いジャンルにおいては、その育て方の巧拙が問われるわけです。

 

個店の頑張りだけに任せず、業界全体で

多くの専門店では、こうした”顧客を育てる”活動を、店舗ベースでやっています。
これはこれで非常に尊いことではあるのですが、ややもすると囲い込みを意識しすぎた、我田引水な情報の与え方になってしまったり、独自すぎる理論で、全体像を歪めてしまうことに繋がることもあります。

本来であれば、こうした初心者から中級者、上級者へのステップアップの方策を業界全体でデザインし、スムーズに駆け上がっていけるようにするべきではないかと思います。

たとえば、不安に感じる初心者の拠り所になるような、ハンドブック的な書籍の刊行があっても良いと思います。
同じ現象を違う言葉で説明されることが多いと、何が本当なのか分からなくなるものです。
どこでも通用する、きちんとした公的な定義を明記しておくことなどは、意外に安心感を生み出すことにも繋がったりします。

中国でも、お茶を飲む習慣が失われていた時代からの脱却を目指すため、まず行ったのは『飲茶漫話』という冊子を刊行したことでした。
これを広く配布することによって、茶に関する知識のベースを統一し、そこから現在に至る茶業の活況をもたらしています。

このような業界側がやるべき取り組みは沢山あると思います。
残念ながら現在、日本の中国茶の世界には、統一の業界団体が無いため、足並みを揃えるのは難しいと思われます。
が、これ以上放置することもなかなか出来ない状況ではないかと思います。

 

もう一つ、大事なことがあります。
それは、既に愛好家となっている方々が、”初心者” ”にわかファン” 歓迎を打ち出し、温かく迎え入れる姿勢を示すことだと思います。
趣味性の高い世界でよく言われる、

「にわか笑うな来た道だ、古参嫌うな行く道だ」

という言葉を、初心者の方も古参の方も覚えておけば、双方のストレスも少し和らぎ、より優しいお茶の世界になるのではないかと思います。

 

次回は12月1日の更新を予定しています。