第115回:茶業界でのインフルエンサーマーケティングを考える

インフルエンサーマーケティングとは要するにクチコミ

数年前から注目されている言葉に”インフルエンサーマーケティング”というものがあります。

インフルエンサーというのは、主にインターネット上などでブログやSNS等を通じて情報発信をしており、多くのフォロワー(情報を受ける人・賛同する人)を有するオピニオンリーダー的な存在のことです。
彼・彼女たちを利用したマーケティング手法をインフルエンサーマーケティングといいます。
企業側から広告でプッシュするよりも、彼・彼女たちがお薦めする方が信頼感がある、とされ、このようなインフルエンサーによるマーケティングを取り入れる企業も増えています。
中国だとインフルエンサーは、”網紅(网红・ワンホン)”あるいは”KOL(Key Opinion Leader)”と呼ばれます。
日本だとYouTuber(ユーチューバー)、Instagramer(インスタグラマー)、アルファブロガーなど、メディアごとによって異なる名前で呼ばれることもあります。

もっとも、この手法も最近はインフルエンサーの巨大化や一部のインフルエンサーの不祥事等によって、少し信頼度が低下している傾向もあります。
情報を受け取る消費者側も、企業に取り込まれた有名なインフルエンサーよりも、小規模なインフルエンサーの方が信頼できるとする人たちもいるようです。

・・・・・・と書くと、さも立派なコンサルタント風ですが、昔ながらの言い方でざっくりと表現すれば、要するに”クチコミ”です。
インフルエンサーというのは、クチコミを伝える人の中でも ”声の大きい人” ぐらいのイメージかと思います。
声の大きい人を捕まえておき、こちらの都合の良い情報提供をするようにネゴしましょう、ということです。
カタカナで書くと新しく、あるいは難しく聞こえますが、商売の基本は昔も今もさほど変わりません。

とはいえ、クチコミの形態が、リアルからネットへ変わってきたのは事実です。
ネット社会でのクチコミがどのように発生するかのメカニズムについては、いかなる企業も抑えておくべきかと思います。
今日はこの話題について考えてみましょう。

 

Instagramがタピオカミルクティーを流行らせた?

実は、茶業界はインフルエンサーマーケティングに成功していました。

意外に感じるでしょうか?
もっとも、これは業界側が仕掛けたのではなく、あくまでインフルエンサー側が”自主的に”流行らせたものです。

少し前にブームが起こったタピオカミルクティー。
これは、まさに”インスタ映え”が、市場を動かしたものでした。

伝統的な販売スタイルでは考えもつかないことでしたが、”映える写真”を撮ることにドリンク一杯のコストを払ってもよいと考える人々が、それだけ多かったということです。
そして、その写真を見て自分も買ってみようと思う人が多かったということです。”映え”の対価としてみれば、タピオカミルクティーの値段は負担可能な範囲に収まっていたのだろうと思います。

もちろん、誤解無きように書いておきますが、”インスタ映え”ばかりがブームの全てではありません。
最初はインスタ映えが目的だったかもしれませんが、それを見て実際に飲んでみて、美味しいと感じてリピートする方もいたということです。
本質的な商品力がそもそも無ければ、それこそ一過性の賑わいに終わっていたことでしょう。
きっかけはどうあれ、実際に市場を動かしたのであれば、これは明らかに茶業界にとってはプラスです。

とはいえ、最初に火が付いたのは、あくまでインフルエンサー側で自然発生的に起こしたものです。
その後は各店舗でデザイン性を競ったり、投稿を促したりなどの施策はあったでしょうが、完全に”仕掛けた”とは言えないと思います。
そうなると「マーケティングではないではないか!」となるのですが、”仕掛け”でなかったから、流行ったとも言えるでしょう。
インフルエンサーマーケティングを持ち上げるマーケティング会社も、このことは薄々感づいていると思います。

いずれにせよ、SNS発の流行で市場が動くということを、茶業界は一度は経験済だということです。
※既存の茶業界の方は、ほとんど恩恵に浴せなかったにせよ、他業界から見たらそう思われているのです。

次に来るのは何か?

一度流行ると、次に来るのは何か?と期待するのが、一般的な思考かと思います。
しかし、二匹目のドジョウは、あまり期待できないのではないかと思います。

むしろ、軸を変えて見る必要があるかと思います。
次にInstagramで流行るものを探すのではなくて、別のSNSのルートを検討するということです。

ひとことにSNSといっても、発信できる情報の質と得意分野には違いがあります。

たとえば、ブログだったら文章と写真。
長文で細やかな情報発信は可能ですが、拡散などはあまり得意ではありません。

Twitterも文字と写真、そしてWebリンクですが、文字数には制限があります。
その代わり、リツイートの仕組みで拡散が容易なため、爆発的な情報拡散が行われることもあります。

それから動画。しかし、ひとことに動画配信サービスと言っても、サービスごとに違いがあります。
たとえば若者に人気のTikTokとGoogleが運営するYouTubeでは、主に掲載する動画の質が違います。

TikTokは原則15秒以内が多く、長くても1分ほどなので、じっくり説明が必要なものには向きません。
しかし、情報の拡散は有名でも無名でも同じように情報を拡散してくれるので、無名でもキャッチーな動画を投稿すれば、短期間で人気投稿者になり得ます。

YouTubeは、動画の長さに制限が実質的に無いため、長い説明が必要なことも伝えられます。最近は教育系と呼ばれる、何かを教える・伝える動画も増えています。
が、情報の拡散はYouTube側から実績が認められないと拡散しにくいシステムになっているので、動画を一定以上の本数投稿したり、最後まで見てもらえる動画を作るなど、腰を据えて取り組む必要があります。

いずれにしても、何を伝えたいかで向いているメディアとそうでないものがあるということです。
Instagramは美しい写真は伝えられますが、それ以上はあまり伝えられません。

 

ライフスタイルを提案できるYouTubeに期待

個人的には、お茶の世界では、YouTubeに可能性を感じています。
これは短期的な爆発というよりは、お茶のあるライフスタイルを提案していくような長期的な視点です。

一般的にYouTubeといえば、面白動画だったり、芸能人が続々と参入していることなどが注目されています。
が、最近はライフスタイル系YouTuberと言われるような、ライフスタイルを共有するタイプのYouTuberも増えています。

たとえば、キャンプの動画を投稿すると、キャンプに関心のある人たちが動画を視聴し、動画のコメント欄に感想やアドバイスなどのコメントを残します。
それに投稿者であるYouTuberが応じるなどして、そこには関心の似ている人たちのコミュニティーが形成されます。
あるいは無印良品の商品をひたすら投稿し、無印良品のある生活を実践するYouTuberもいますし、田舎暮らしのチャンネルなども人気だったりします。
そういうライフスタイル情報を得る目的でYouTubeを視聴する人々も一定数存在しているということです。

嗜好品であるお茶を嗜むライフスタイルというのも提案できるのではないかと感じています。
事実、コーヒーやワイン、ウイスキーなどは、チャンネル登録者数が1万人のある程度の影響力があるYouTuberが存在しています。

しかし、どういうわけか日本茶、紅茶、中国茶などのお茶については、有力な発信者がいないのです。
もちろん、動画を投稿している方はいるのですが、今ひとつ視聴者ニーズとマッチしていないように感じています。
どこの部分を切り取るのが難しいという側面はあるのですが、他の嗜好飲料ができるのに、お茶でできないというのはいささか不思議です。

 

入門者視点のTeaTuberに期待

実は一昨年からYouTubeについては、かなり意識して研究しています。

その研究成果というわけではないですが、昨今の傾向を見ていると、この手のライフスタイル系YouTuberで急成長している方には特徴があります。
人気になりがちなのは、豊富な知識を有する先生ポジションの方ではなく、「自分も好きで初めたところで、色々勉強中です!」という方のほうです。
おそらく、自分自身の疑問を解消したことなどをフレッシュな気持ちで動画にしたりしているので、視聴者の共感を得やすいからではないかと思います。
情報量や映像の作り込みなどは、先生ポジションの方の動画が圧倒的に良いと思うのですが、ファン数を表すチャンネル登録者数では苦戦していることが多い印象です。
意外に思われるかもしれませんが、情報や知識量の豊富さや動画の品質の高さだけでは、YouTubeでは視聴者に選ばれないのです。

このような初心者目線の方が支持されやすいという現象は、私自身も経験していることです。
2006年に中国茶ブログを始めた初期は、まさに自分が疑問に感じたことを解消していく、という流れを、そのまま記事にしていました。
勉強し始めた最初のころは、多くの人がそうですが、情報や知識を吸収しようとする熱量は高いので、その熱量の高さがそのまま記事にも滲み出ています(無論、内容は稚拙なので、心無いコメントも寄せられましたが)。
このような記事は特に始めたばかりの方にとっては、賛同いただけることも多かったので、初心者の方に刺さる記事だったのだろうと思います。

もっともお茶の世界で、これを実現するのは簡単ではありません。
お茶の世界は奥が深すぎるので、情報の正確性を担保しようとすると、情報を発信することに後ろ向きになってしまいがちです。
しかし、そのあたりをぶっ飛ばしてでも情報発信をする、学習し始めたばかりの人たちが出てくると、そうした姿に共感する人たちも増えてくるのではないかと思います。

お茶のあるライフスタイルを実践しようとする、比較的若い世代のお茶系YouTuber(個人的にはTeaTuber・ティーチューバーと命名したいと思います)が出てこないかと感じています。
なにしろ、今やお茶を淹れている姿をリアルで見ることは少なくなっているのです。
自分と同世代の人が、自分にもできそうな様子で、お茶を淹れ、美味しさに感動している姿を動画で投稿するだけでも、結構な反応があると思います。
※もちろん、YouTubeは多くの人に視聴してもらうまでが難しいので、企画力や戦略が必要なのです。

そこまで分かっているなら、自分でやれば良いのでは?となるかと思います。
が、残念ながら、私は既にお茶の世界に少々浸かりすぎてしまっているので、フレッシュさが致命的に足りません。
その代わり、経験はそこそこあるので、やりたい方がいらっしゃったら企画などサポートしたいと思います。

 

次回は3月16日の更新を予定しています。

 

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