試飲風景

観光客向けの茶荘では、少量の購入でも試飲可能な店も多い

前回、中国茶・台湾茶ファンの中には、「現地で飲んだお茶が美味しくて・・・」という理由から、急にお茶に興味を持った人が多いことをご紹介しました。
これについて、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。

旅先でお茶に開眼する心理

旅先というのは、いわば日常から切り離された場所です。
日頃できないことを経験・体験することも多く、日常とは異なった感受性が発揮されます。
特に海外ともなるとテンションが少し違います。

異国では、目に見える風景や言葉はもちろんのこと、習慣、食べ物の違い、街のにおいなど、様々なカルチャーギャップを経験することになります。
旅を続けていく中で、人はこうしたギャップを上手く受け入れ、それを自分の中で消化していきます。

「新しいものごとを受け入れるスイッチが、入りやすくなっている」のが、海外での特徴です。

そのような状況にあるときに、自分が今まで知らなかったようなタイプの魅力的で高品質なお茶が、ポンと視界に飛び込んできたとしたら・・・

潜在的にお茶を好ましく思っていた人にとっては、途端に夢中になってしまうというのも、頷けるところだと思います。
※国内で擬似的に非日常を作り出すこともできます。たとえば、大規模なイベントなどです。

 

夢中になる人とそうでない人の差は何か?

ところが現地に行った人でも、お茶にさほど興味を示さなかったケースもあります。

中国大陸に行った人などに聞くと、「そもそもお茶を飲む機会が無かった」という話をよく聞きます。
確かに茶産地やお茶をよく飲む地域以外では、よほど意識しないと視界に入ってこないのかもしれません。

一方、台湾の場合は、お茶を全く口にしなかった、ということは、非常に少ないようです。
「レストランで出てきた」「茶藝館に行ってみた」「お茶屋さんで飲んだ」「お土産に買ってきた」と、どこかでは大体触れるようです。

しかし、「現地でも、あまり美味しくなかった」「高い割には・・・」「家で淹れたけどイマイチだった」というような声も耳にします。
もちろん、お茶に潜在的にも関心を持っていなかったこともあるかもしれません。

が、そういう方でも、国内でたまたま美味しいお茶を飲む機会に恵まれると、「現地で飲んだのより、ずっと美味しい!」となり、急にお茶に関心を持つというケースもあります。

要するに現地で出会ったお茶の「品質」の問題です。

お茶の国から来た日本人。
その心をグッと揺さぶるような水準のお茶というのは、ある程度以上の品質が要求されます。
そうした水準のお茶を飲んでいなければ、なかなか魅力に気づくことはありません。

「あまり美味しくなかった」という方に、もう少し詳しい様子を掘り下げて聞いてみると、

「レストラン(飲茶のことも)でお茶が出てきたが、そんなに美味しくなかった」
「ツアーに組み込まれていたお茶屋さんに連れて行かれ、そこで飲んだが高いわりに大したことなかった」
「観光ガイドで紹介されているお茶屋さんに行ってみた。クーポンがあったので」
「時間が無くて、空港の免税店(スーパーマーケット)で買った」
「家で淹れたけれど、高級なお茶だったので、玉露のように低い温度で淹れた」(烏龍茶なのに!)

と、理由を聞けば、「ああ、それは確かにそうでしょうね・・・」と思うようなことが多いのです。

 

現地で本物の台湾茶に出会うのは意外と難しい?

台湾でも、街で普通に飲まれているような日常使いのお茶の品質は、さほど高くはありません。
レストランやホテルの客室で無料で提供されているお茶は、やはり業務用品としての価格であり、相応のクオリティーです。

そもそも、台湾のお茶の生産量は年間1万4千トンしかなく、生産量は年々減少しています。
その一方で、台湾は紅茶を中心に3万2千トンあまりのお茶を輸入しています。
このように茶は輸入超過でありながらも、中国大陸で高品質な台湾茶は大人気になっています。
当然、良茶の需給は逼迫していますので、台湾産と称しながらも「本当にこれは台湾産か?」という茶葉も、市中に多く出回っている状況です。

要するに、きちんとしたお店に行かなければ、ある程度の水準以上のお茶には、残念ながらなかなか出会えないのです。
免税店や土産物店、スーパーマーケットの手頃なお茶では、なかなか納得するものには出会えないと思います。

さらに、先程の理由に沿って、解説を加えるならば・・・

 

<団体ツアー専門の茶葉店>

パックツアーに組み込まれたお茶屋さんは、日本語の流暢な方が説明を行います。
目の前で茶芸ショーのようなことをしながら、時事ネタなども上手に組み込み、まるでバナナの叩き売りか、筑波山のガマの油売りのような啖呵売をする人もいます。
見世物としては大変面白いのですが、こうした団体パックツアー向けのお茶屋さんで扱っているお茶の品質は、どうしても低く、しかし価格は高くなりがちです。

その理由は、旅行会社へのバックマージン。
茶葉店は集客や売上に応じてマージンを支払う必要がありますから、いきおい茶葉にかけられる原価は低くなります。
そうした店で購入したというお茶を見せてもらうと、「この値段で、このお茶を販売しているのか?」と思うことも少なくありません。

阿里山には、かつて中国人観光客専門の茶荘がありましたが、そこのバックマージン率は売上の5割だったとも聞きます。
このような高額のマージン率では、真っ当なお茶を適正価格で販売することは到底出来ません。
ほかの産地やクオリティーシーズンではないお茶を混ぜたりして調達コストを落とすか、相場の倍以上の値段をつける、あるいは両方を組み合わせることになります。
※このような茶荘は大陸側の旅行業法改正で商売がやっていけなくなり、今はほとんど閉店しています。

日本人向けのツアーに関しては、ここまで高いバックマージン率ではないかもしれません。
が、「台北2泊3日29,800円」のような値付けをしているツアーの原価構成(航空券・ホテル代・交通費・現地日本語ガイドの給与等)を考えれば、決して低率ではないと思います。
歪んだ旅行業界の慣習(大元を辿れば、激安ツアーを求める消費者ニーズなのですが)のおかげで、こうした茶葉店は、もはや美味しいお茶に出会える場では、なくなってしまっているのです。

<観光ガイドで有名な茶葉店>

観光ガイドで有名なお茶屋さんも、かなりバラツキがあります。
中には非常に真っ当に営業をしていて、品質の高い優良な台湾茶を日本人に合わせたサービスで提供しているお茶屋さんもあります。
こういうお店に巡り会えれば、大変理想的です。
波長の合う方なら、きっとお茶のファンになるでしょう。

しかし、このような良いお店ばかりではありません。
中には、扱っているお茶は(仕入れ値を抑えるため)着香茶やクオリティーシーズンを外したお茶ばかり、だったり。
あるいは、語学力を活かした異業種転身組のため、店主自身にお茶を鑑定するほどの力量がなく、問屋から仕入れた素性不明なお茶をよく知らずに販売している、という店も多くあります。

茶葉の品質に劣る部分は、持ち前の日本語力や接客力でカバー。
本来の台湾茶の品質を知らない日本人観光客は、こんなものだろうと納得し、むしろ店主の気っぷの良さに感銘を受けることもしばしば。
そうしたリピーターが足繁く通う繁盛店となり、ガイドブックの常連になっていたりします。

このようなお店があること自体は、真っ当な商行為なので、悪いことではありません。
ただ、この手のお店に定着するお客様は、「お茶が好き」なのではなくて、「このお店が好き」という人がほとんどです。
よって、「他のお店・お茶を試してみよう」「日本でも購入しよう」という波及効果は、あまり期待できません。

さらに、こういうお店では自店の商品を正当化するための”歪んだ情報”を教え込むことがあります。
これを、いかにもお茶の正しい知識であるかのように語る方が出てきて、真っ当な商売をされている方には大変厄介な存在になることもあります。
※たとえば、相場通りの価格なのに「あの店のお茶は高すぎる(この店のお茶がクオリティーを外しているだけ)」、自然の香りなのに「ここの店(実は着香)のものより香りが薄い」など。

 

個人旅行の時代に求められるもの

最近は、団体ツアーのような形式での旅行が少なくなってきて、個人旅行が増えてきています。
特に台湾のようにリピーターが増えてくると、個人で情報を集め、自分で行動することが増えてきます。

そうした方々が情報収集に活用する上で欠かせないのは、無料で得られるWebの情報です。
ここにフェアで、事実に即した情報があれば、少なくとも、より良い旅行をしようと情報を集めるような情報感度の高い方には、良いお茶と出会ってもらえる確率が高くなります。

的確な情報が信頼性のある形で掲載されていれば、お茶のファンになってもらえる確率が上がるかもしれないのです。
これほど効率の良い、普及活動はないと思います。

 

当社としても、出会い~入門~中級にかけての情報を、積極的にWebで発信し、良いお茶・お店との出会いを情報面でサポートしていく計画です。
お茶の愛好家を増やす上では、こうした地道な、”環境”整備も必要ではないかと考えています。

 

次回は2月20日の更新を予定しています。