第110回:日本型ライブコマースを考える

ライブコマースが流行する中国

中国では、スマートフォンの普及などもあり、少し前からライブ配信とEC(ネット販売)を組み合わせたライブコマースが流行し出していました。
今年は新型コロナウイルスの流行の影響から、実店舗の小売店での販売が低調ということもあり、既存の流通業者のみならず生産者などもこのライブコマースに力を入れ始めています。

茶業界も積極的にライブコマースを推進している業種の一つであり、茶園の中からライブ配信を行ったり、地元の自治体のトップである市長や県長がセールスマン役を買って出るケースもあります。
夏に開催された安徽茶博会などでは、ライブ配信を行うライバーを積極的に誘致し、イベントの大きな柱に据えていました。

安徽茶博会、100名以上のライバーが集結

このような中国での動きは日本でも報じられることがあるのですが、色々と誤解されて伝わっていることもあるような気がしてなりません。

 

ライブコマースの誤解

典型的な誤解は、”ライブコマースとはテレビショッピングのようなものであり、見ず知らずの人に商品を売り込んでいる”というイメージです。
このことにより、「見ず知らずの人を相手に、素人が商品を紹介して上手く行くのだろうか?」という懐疑的な印象に繋がっているようです。
実際には、WeChatなどで既に繋がっていて、定期的に情報を受け取っている方(朋友圏)に対して配信していたり、ライバーの常連客だったりするので、視聴者とある程度の信頼関係が築かれているケースが多いのですが。

相手になにがしかの消費行動を起こしてもらうためには、商品への信頼や販売者に対しての信頼があることが必要不可欠です。
商取引は、その信頼があってこそ、初めて成り立つものであり、それをどのように行うかが、全ての商売の基礎です。

日本のテレビショッピングにしても、毎日同じ時間に同じ人が出演するなど、接触回数を増やして親近感を持たせる工夫(心理学的にいえば、ザイオンス効果)を行っています。
全く興味が無かったとしても、毎日のように同じ顔が出てくると、なんとなく親近感を覚えてしまい、たまたま興味がある商品が登場すると思わず買ってしまう・・・というわけです。
テレビでこのようなことを行うには膨大な広告宣伝費が必要になりますが、SNSやライブ配信アプリを使えばローコストで同じことが実現できます。それがライブコマースです。

ライブコマースは一見派手に見えるので、視聴者との間に信頼関係を築くことをすっ飛ばして営業しているように考えてしまいがちです。
が、そもそも他人を信用しない中国の消費者相手に、それは通用しません。
むしろ前段階である、信頼関係の構築のところにこそ、このライブコマースという商売の本質があるように感じます。
その点の研究無しに、売り込みの部分だけをライブ配信で真似たり、著名なライバーの存在だけを強調しても、上手くは行かないでしょう。

 

信頼関係構築のためのライブコマース

ライブコマースの配信主(ライバー)が行っているのは、実は売り込みでは無く、視聴者の疑問の払拭です。
疑問を払拭することによって、購入に際しての不安を取り去り、さらに売り手との信頼関係を強固なものにしているのです。
その手段として、動画というのは非常に強力な武器になります。

写真というのは、補正技術が進んでいますし、写す角度などによっては、いくらでも偽装が可能であることを消費者は直感的に知っています。
しかし、動画それも編集が介在しないライブ配信で、視聴者側からも見たいものや聞きたいことにリクエストが出せるのであれば、誤魔化しが生じにくいと感じるのではないでしょうか。
動画は情報量が多いので、写真や文章などでは伝わらない、売り手の身なりや口調、雰囲気など、さまざまなリアルが垣間見え、それを消費者は判断材料に加えることが出来るのです。

このように考えると、ライブコマースで本当に必要なものは、流暢なトークだったり、派手な演出ではありません。
視聴者の疑問はどこにあり、それに対して誠実に答える内容になっているか、なのです。
番組という構成になっているのであれば、それを上手く解消できるような流れやシナリオになっていなければなりません。
逆に言えば、そのような流れに沿っていれば、トークが流暢ではない朴訥とした農家が周囲も驚くような売上を上げる、ということも起きるわけです。

”ライブコマースとは売り込みではなく、視聴者の疑問払拭のためにライブで動画を使って接客をしているのだ”と考えると、withコロナ時代の日本でも十分に可能性のあるビジネススタイルだと思います。

 

販売はWebに任せ、疑問払拭に力を注ぐ

日本型のライブコマースを考える上では、中国の模倣だけではなく、日本人の心理に合わせたシナリオづくりが必須ではないかと考えます。
まず、日本人はあまり売り込みを好みません。”売り込み”のような状況になったら、基本的にはそのライブコマースは失敗だと思います。
売り込みを行うのはオンラインストアに任せておき、番組の構成は関心喚起と疑問の払拭、オンラインストアへの誘導のみに留めておくべきかと思います。

そのような観点に立ってシナリオを考えると、販売者のみが出演するのでは色々とやりにくい面が出てきます。
できれば視聴者目線で疑問を投げかけ、上手く流れを作ってくれるような司会者がいた方が、販売側も話しやすくなるでしょう。

中国では、KOL(Key Opinion Leader)と呼ばれる名物ライバーが出てきていますが、彼・彼女たちは、まさにそのポジションにいる人たちです。
消費者側の疑問や課題をよく知っていて、それを解消するような商品を見つけてきて、上手にセールスしています。
話術などに優れているので、彼・彼女たちは一人でやり遂げてしまうことも出来るのですが、一般人がやるのであれば、役割分担をした方が無理がないでしょう。

作り手や売り手は、その道の専門家としてのポジションを確立しつつ、商品へのこだわりなどを話す。
司会者は視聴者が疑問に感じるようなことを投げかけて、疑問の解消を図りつつ、作り手や売り手の魅力を引き出していく。
こうした役割分担をしていけば、売り込み感が少なく、それでいて成果に結びつくようなライブコマースは可能ではないかと思います。
※この場合、シナリオライティングとオンラインストアの作り込みも重要です。

 

次回は12月16日の更新を予定しています。

関連記事

  1. 第99回:貧困扶助を軸に回る中国の茶業ニュース

  2. 第72回:嗜好品に必要な華やかさ

  3. 第12回:ピンからキリまでの価格。その理由は?

  4. 第113回:もはや一時のブームではない”新式茶”

  5. 第50回:上海のスターバックス リザーブ ロースタリー

  6. 第56回:ティーバッグの果たす役割

無料メルマガ登録(月1回配信)