第6回:「効能は?」にみえる難しさ

「中国茶を飲んでいるんですよ」という話になると、もう1つ、別角度の質問をしてくる方がいます。

「そのお茶は、何に効くの?」

と。

 

健康効果を謳った初期

日本に中国から茶が伝わったのは、遙かに昔のことです。
しかし、現代の中国で作られている、いわゆる「中国茶」の日本における歴史は長くありません。
基本的には、日中の国交が正常化して以降の話なので、まだ50年も経っていません。

日本は茶の生産国であり、独自に発展させてきた茶文化を持つ国です。
それゆえに、最初に「中国茶」が入ってきたときは、ことさらに健康への効果が強調されました。

「痩せる」
「二日酔いしない」

等々。

導入されたのも烏龍茶やプーアル茶などで、日本茶あるいは既に入ってきていた紅茶とは競合しない市場を開拓しようとしていたという、配慮が感じられます。

もちろん、当時の中国は、茶業の技術水準が高くなく、品質にも問題が多かったということもあると思います。
当時、輸出用茶葉の生産を担っていたのは、社会主義にどっぷり浸かった国営企業でしたので、品質は推して知るべしであったでしょう。

味で勝負できないとなれば、健康で売るしかない、という当時の事情は理解できなくもありません。

「中国茶」=「健康茶」

この流れは、その後に入ってきた杜仲茶などの茶外茶などが、さらにイメージを強めたように感じます。

「刷り込み」ではないですが、第一印象というのは、とても重要です。
当初、このようなイメージを持ってしまった方にとっては、余程のことがない限り「健康茶」の域を出ないのだろうと思います。

残念ながら、冒頭のような質問をする方は、目の前のお茶に真正面から向き合おうとしていないように感じられます。
どのような香りや味かではなく、効能にしか意識が行っていませんし、関心も無いようです。
健康を切り口にしたマーケティングは、このような消費者を生み出してしまうという副作用があります。

 

販売業者が市場を壊すことも

しかし、業者側にとっては「健康」や「効能」で売れるのは、たいへん都合の良いものです。
話題になっている商品を仕入れて、「○○で話題の・・・」とでもPOP広告を書いて、目立つように販売すれば、黙っていても売れるからです。

消費者は話題になっている商品を手に取り、飲めれば、とりあえずは満足します。
食品である以上、薬事法に引っかかるような具体的な効能は謳えませんから、消費者から選ばれるために必要なことは、

「価格が手ごろか」
「消費者の手の届きやすいところにあるか」
「信頼できそうな業者(商品)か」

ぐらいでしかありません。
出来るだけ原価の低い商品を仕入れ、テレビコマーシャルなどの販売促進費にお金を注ぎ込めば、大きな利益が上がるでしょう。
最近のCMが健康食品だらけなのは、決して偶然ではありません。

このような商品においては、美味しいかどうか、品質が高いかどうか、さらに言うならば「効く」かどうかは、あまり関係がありません。

仮に効果が出なくても「食品ですからね・・・」という逃げ道は、用意されています。

こうした販売手法は、いわば無秩序な焼き畑農業のようなものです。
テレビなどで話題になり、一時的に商品が爆発的に売れ、結局消えてしまった商品というのは、山のようにあります。

茶は、このような販売方法を採用するべき商材なのでしょうか?

 

茶は一年限りの作物ではない

販売業者は、売れなくなったら、他の商材に切り替えれば、良いかもしれません。

が、茶の生産者は、そういうわけには行きません。
茶は、1年収穫してそれで終わりという植物ではなく、地面に根を張り、少なくとも数十年は生産可能なものです。
さらに植えてから摘採可能になるまでには、数年かかります。

そのような生産現場の事情を考えれば、どう考えても、茶は「短期間だけ売れれば、それで良い」という商材ではありません。
長年にわたって購入し続けてもらう必要のある商材です。

きわめて曖昧な根拠に基づいた「効能」による販売は、茶という商材の特性には、本来はそぐわないものなのです。

本当に効果を謳って販売するのであれば、もっと本格的に取り組む必要があります。
例えば、べにふうき緑茶のように長年にわたる研究を積み重ね、それを資金面でもサポートするような企業がきちんと付き、長年掛けて回収をするような体制を組まなければいけません。
しかし、そのような感覚は、茶業界には希薄ですし、そこまでの体力がある企業が少ないという現実があります。
あまりにも茶の成分が多様であり、可能性のありそうな効果・効能が多岐に及んでいるというのも、絞り込みが出来ないという面でマイナスに作用してしまいます。

もちろん、茶の効能を科学的に研究すること自体は大変良いことですし、どんどん解明すべきことです。
しかし、安易に研究成果を(対価も払わずに)引用し、あたかも効くかのような誤解を与える販売手法は、業界の未来を暗くするだけです。

 

販売業者が本来なすべき役割

販売業者が本来すべきことは、そのお茶を飲む”意味”や”動機付け”を消費者に示し、働きかけること。
そのことによって、商品である茶の魅力は高まり、そこに付加価値が生まれます。
付加価値を生み出せるからこそ、マージンという対価を得られるのです。

茶業が持続可能な産業であり続けるためには、生産面の努力だけでなく、販売あるいは消費者のイメージ形成時点において、より付加価値を高める努力が必要不可欠です。

デフレ下の日本においては、「販売価格を安くすることこそが、流通業者の美徳」でありました。
しかし、今後は「消費者により高い価値を感じてもらうこと」に、もっと多くの知恵や労力を投入するべきであるように感じます。

販売業者だけで実現が難しいのであれば、生産者を引っ張り出したり、専門家の影響力を活用する必要もあるでしょう。
とても一業者で完結するような話ではありませんが、そのような視点を持っていれば、様々な繋がりが生まれるのではないかと思います。

 

次回は3月10日の更新を予定しています。

 

 

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