第102回:株式目論見書から見る、中国の茶葉会社の収益モデル

A株上場を目指す2社

7月初めに中国の茶業界で話題になっていたのは、2つの会社がA株(人民元普通株券)として上場の意向を示したことです。
その2社とは、中国茶葉股份有限公司(中茶)と普洱瀾滄古茶股份有限公司(瀾滄古茶)で、中茶は上海、瀾滄古茶は深圳への上場を目指す意向です。
A株は、上海と深圳の取引所に上場される原則として中国人投資家に向けた中国国内向けの株式のことです。
※ほかに外国人投資家が購入可能なB株(外貨建て)や香港市場のH株(香港ドル建て)などがあります。

中国の茶業界で上場する企業は少なく、香港市場に天福茗茶(正確にはケイマン諸島の持ち株会社)、龍潤茶が上場しているのみです。
このほか、新三板と呼ばれる中国版店頭市場に登録する企業があります。

新三板への登録については、2014年に謝裕大が登録したのを皮切りに、茶葉会社の登録ラッシュが起こり、2018年にかけて24社が登録していました。
が、2018年には、八馬茶業、中吉号、梅山黒茶などが登録を廃止し、謝裕大も退出。2019年には七彩雲南も登録を廃止しています。
主に登録廃止の理由は、業績の悪化もありますが、新三板市場自体の流動性が乏しく、資金調達手段としても機能しないことから、登録を継続する意義が見出せないという理由もあるようです。
現在も登録しているのは浙江省の茶乾坤、湖南省の黒美人、四川省の雅安茶廠など20社ほどになっています。

新三板に登録した企業が振るわない一方、茶葉会社の空白地帯となっていたのがA株です。
中国の株式市場でも取引量が多いため、茶業が中国の産業界でも有力産業と見做されるためには、A株の上場が一つの節目であると捉えられています。
しかしながら、A株の上場となると相応の収益力や成長性が問われるため、この点を疑問視する声もあります。

今回は、2社のうち雲南省の普洱茶を主に扱う、瀾滄古茶を採りあげます。
同社の上場時の新株発行目論見書を元に、同社の概要と収益性を見てみたいと思います。
目論見書は400ページあまりありますので、要点のみのご紹介とします。

会社の歴史:前身は瀾滄県茶廠

瀾滄古茶のWebサイト

瀾滄古茶は、雲南省普洱市の瀾滄ラフ族自治県勐朗鎮にあり、普洱茶(生茶、熟茶、調味茶)の製品茶の製造・販売が中心の茶葉会社です。
著名な普洱茶の産地である景邁山を背景として成立している会社です。

同社は、普洱茶の大産地である臨滄、普洱、西双版納などに安定的な契約を結んだ農家・組合を有しており、そこから荒茶の買い付けを行っています。
これらの荒茶を最終的な製品に仕上げ、全国ネットの販売網(代理店・直営店・オンラインストア等)で販売していくスタイルの会社です。
創業時より同社の代表であり大株主の杜春峰氏(冒頭の写真の女性)は、”茶媽媽”と呼ばれるカリスマ的な経営者で、2007年には”全球普洱茶十大傑出人物”に選ばれています。

同社の前身は、かつての国営工場であった瀾滄県茶廠です。
1998年に瀾滄県茶廠は破産し、その受け皿会社として杜春峰氏を中心とした従業員36名で新会社(瀾滄県古茶有限公司)を設立。
破産後の競売で瀾滄県茶廠の権利を買い取るほか、労働債務などの処理を行い、2000年に瀾滄県茶廠の破産手続きが完了します。
2006年に、社名を瀾滄古茶有限公司に改め、2018年に股份有限公司(株式会社)に改組しています。

同社では2009年までを、技術と品質を磨いた基礎期と位置づけています。
この間、普洱茶バブルが2006年に訪れていますが、同社は品質を確保するため、それには乗らなかったことを強調しています。
2010~16年の期間は、市場開拓期としていて、代理店などを通じた全国ネットの販売網構築に充てています。
そして2017年以降が飛躍的な成長を遂げる成長期の位置づけであり、現在、代理店数は649社、全国31の省に販売網を有しています。

普洱熟茶、生茶、調味茶が主力商品

同社の主力商品は普洱茶で、熟茶は「0085」「0081」「烏金」、生茶では「001」「007」「春億金瓜」などの商品が。
また調味茶として、「小青柑」「大紅柑」「菊花普洱」などを販売しています。
価格帯別にシリーズ設定をしており、フラッグシップの「重器」、会社の味わいを追求した「本味」、養生機能などを重視した「和潤」、若者向けの簡易に味わうスタイルの「自在」などを展開しています。

製品ラインナップ(同社の目論見書より)

2019年度の売上実績によると、熟茶、生茶、調味茶、茶具などその他の販売比率は、38.01%、35.73%、19.25%、7.01%とのことです。
中国国内でも熟茶の方が、優勢であることが分かります。

収益性について

会社の収益性、特に売上や売上原価などは、外からではなかなか分からないものです。
が、上場をするとなれば、全てが明確に示されることになります。
今回、目論見書のデータを収益性としてまとめると、以下のようになります。

(単位:万元) 2017年 2018年 2019年
売上 24,975.43 100% 29,912.88 100% 38,046.72 100%
売上原価 8,600.53 34.44% 10,759.18 35.97% 14,480.30 38.06%
売上総利益 16,374.90 65.56% 19,153.70 64.03% 23,566.42 61.94%
販売費用 4,709.51 18.86% 5,834.94 19.51% 9,053.80 23.80%
管理費用 3,550.79 14.22% 2,968.11 9.92% 3,428.63 9.01%
研究開発費用 210.50 0.84% 384.21 1.28% 301.08 0.79%
財務費用 382.14 1.53% 442.68 1.48% 757.69 1.99%
営業利益 7,299.14 29.23% 9,050.42 30.26% 9,669.89 25.42%
経常利益 7,191.07 28.79% 8,975.46 30.01% 9,555.71 25.12%
純利益 5,932.91 23.75% 7,559.45 25.27% 8,116.71 21.33%

2019年の売上は約3億8千万元(約57億円)、営業利益が約9700万元(約14億5千万円)で営業利益率は25.42%です。
かなりの高収益企業であることが分かります。

その原動力になっているのは売上総利益率(粗利益率)の高さですが、これは決して同社だけではありません。
瀾滄古茶の目論見書には、株式上場・公開している同業他社との比較資料(2017~2019年)も載っており、売上総利益率の数値を示すと以下の通りです。

比較企業 2017年 2018年 2019年
天福 60.59% 60.27% 58.86%
七彩雲南 70.69% 67.93%
梅山黒茶 57.59% 60.98%
平均値 62.96% 63.06% 58.86%
瀾滄古茶 65.56% 64.03% 61.94%

※梅山黒茶の2018年の数値は上半期、七彩雲南の2018年の数値は第3四半期まで。両社は2018年に公開を廃止したため、2019年の比較は天福のみ。

売上総利益率が高いというのは、端的に言えば、仕入れたお茶にかなりのマージンを取って販売しているということです。
分かりやすく言うと、瀾滄古茶が1万円で販売しているお茶の原価は3,806円であるということです。

日本の事業者、とりわけ流通業や製造業者は近年、薄利多売であることが多いため、けしからんと感じる方もいるかもしれません。
が、世界的にはこのくらいの収益性は当たり前です。
デフレが長い日本では、この感覚が失われているのかもしれません。

なお、このような高い利益率は、広告宣伝費などに積極的に投下されています。
中国は需要を拡大していく局面にあり、市場を作っていくのは広告です。
広告宣伝費を投下しなければ、新しい消費者が生まれないのです。

目論見書には、広告宣伝費についても記載されており、販売費に占める広告宣伝費のわりあいを同業他社と比較した数字もあります。

比較企業 2017年度 2018年度 2019年度
天福 27.42% 25.40% 22.86%
七彩雲南 30.44% 34.58%
梅山黒茶 15.26% 13.09%
平均値 24.37% 24.36% 22.86%
瀾滄古茶 18.86% 19.51% 23.80%

販売管理費の4分の1程度が広告宣伝費に投じられていることになります。
最近は大手の茶葉会社は軒並み、豪華なパンフレットや茶葉博覧会での大がかりなブース、美しい動画広告などを作成するのですが、その原資はここから出ています。

高い価格を維持するためには、高い顧客満足度が必要

ここまで見てきたように、中国の茶業者は販売価格を高く維持することで、高い収益性を実現しています。
日本や台湾の茶業者が見たら、羨むよりも「酷い商売だ!」と憤る方が多いかもしれません。

しかし、そこは少し考えてみる必要があります。
商売の質が違うのです。

中国の茶業者は、比較的高額で消費者に製品を購入して貰っているわけですから、製品の原価、すなわち商品であるお茶以外に何らかの「付加価値」を産み出さなければなりません。
価格相応の「付加価値」が感じられないのであれば、1,2年は高収益を維持できるかもしれませんが、それ以降は顧客の離反を招き、売上は急減してしまうでしょう。
消費者は決して間抜けではありません。価値が無いと感じるのであれば、顧客は逃げます。

お茶そのもの以外で、付加価値をどのように持たせるか、これに中国の大手茶業者は腐心しています。
たとえばギフトで送るのであれば、非常に品位の高いギフトボックス・包装が必要になります。
お店で買っていただくのであれば、そのお店は顧客にとって心地よい空間である必要がありますし、紙袋なども知性とセンスを感じるものが必要でしょう。
当然、宣伝など顧客が目に触れるものは、全てセンスの良いものでなければならないのです。
あるいは、茶を飲むこと自体が非常に文化的に水準の高い行為であることを喧伝するなど、心理面に与える影響も設計しています。
そのようにして、ブランドイメージを確立し、価格の妥当性と高価格を維持しようとしています。

良いお茶を入れればよいではないか、と思われるかもしれません。
が、本当に良いお茶というのは、稀少であり、量産が効きません。
量産が出来る程度のそこそこ良いお茶を、言葉や雰囲気、パッケージなどを駆使して、より価値のあるお茶に仕立て上げるかこそが、大手メーカーの生きる道です。

そうした付加価値を高める様々な投資の部分まで製品の原価であると考えれば、実はそれほど高額すぎる商品を売っているわけではありません。
原価積み上げによる価格設定では無く、消費者が買える値段・払っても良いと思える値段をできるだけ引き上げようという工夫をした上での価格設定をしているのです。
今や、世界的なプライシング(値付け)の方法はこのような方法によっているので、原価から考える方が時代遅れになっているのです。

プライシング(値付け)の概念を考え直す

値付けというのは商売で一番難しいところです。
相場が形成されている商品であれば、相場程度をつけるのが一番簡単です。
しかし、全く新しい商品で相場がない場合は、既存の相場が壊れてしまっている場合は、独自の道を考えなければなりません。

そのヒントになりそうなエピソードがあります。

非常に高額の紅茶を販売している会社の社長は、「うちのお茶はロールスロイスだから」と言って、高価格を当然であるとしています。
もちろん、製品管理などは徹底をして、値段に恥じない品質管理を行っています。

その一方で、巧みなセールストークも用意しています。
「うちのお茶は少量で美味しく淹れられます。3gで良いんです。3gで数人がお茶を囲んで幸せな時間を過ごせるんです」
「同じようなことを高級ワインでやってみましょう。高級ワインはいくらしますか?うちのお茶3gより安いですか?」
と。

要するに、お茶の原価がどうかということでは無く、数人で幸せな時間を過ごすための価格はいくらが妥当なのか?と聞いてくるわけです。
高級ワインと同等か、それ以上の感動が3gのお茶から生まれるのなら、全然高くは無いだろう、むしろ安い、というわけです。

原価の積み上げでは無く、効用で価格を決める。
そのような発想の転換が今は必要なのかもしれません。

 

なお、瀾滄古茶については、財務分析を行うと非常に驚愕の数字があります。
それは在庫回転率についてで、1年間で0.36回転という数字に留まっています。
簡単に言えば、在庫が入れ替わるのに3年かかると言うことです。
普洱茶という特殊な商品を扱っているため、この宿命からは逃れられません。

さらに売上規模が拡大するにつれ、在庫金額は2017年から2億8千万元、3億8千万元、4億1千万元とどんどん積み上がってきています。
成長を続ける限りは、高収益を維持し、適宜資金調達を行わないと、たちまち手元現金が枯渇するリスクのある会社だということになります。
高収益企業でも、決して楽をして商売しているわけではないのです。

 

次回は8月16日の更新を予定しています。

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