ここ10年ぐらいで急速に目にするようになった中国茶といえば、緊圧茶ではないかと思います。

かつてはプーアル茶や辺境の土地に住む少数民族向けの黒茶である、蔵茶や茯磚茶などに限られていました。
しかし、今では様々なお茶が緊圧され、平たい円盤状の餅茶やブロック状の磚茶に加工されているものを見かけます。

「緊圧茶といえば、黒茶」という印象だったのは、今や昔の話。
一体、いつ頃からこうなったのでしょうか?

火付け役は白茶

餅茶や磚茶などへの緊圧の試みは、前からあったのだろうと思いますが、多くの人が黒茶以外の緊圧したお茶を見るようになったのは、おそらく白茶の餅茶からではないかと思います。

2013年頃から、白茶の生産地である福建省・福鼎の茶業者が、中秋節に合わせて「白茶月餅」と銘打って、大々的にプロモーションを行いました。
甘ったるい月餅ではなく、健康で文化的なイメージのある白茶を贈り物にしよう、という触れ込みだったと思います。

このセールスプロモーションはおそらく有効だったのでしょう。
翌年には、さらに商品ラインナップを広げて、大規模に打ち出しをしていました。

その間には、白茶を緊圧することの意味を、肯定的に捉える言説も見られるようになります。
まず、”そもそも、白茶は萎凋→乾燥という工程のみを経ているため、酸化酵素が残存しているから、寝かせると後熟が進み、より味わいが増す”という、白茶の製法に由来する特色が喧伝されます。
そこから、著名なキャッチコピーである、”一年茶、三年药、七年宝(一年目は茶、三年経ったら薬、七年経ったら宝)”というものが出てきて、白茶の「収蔵」という価値を強烈にPRするようになりました。

”寝かせれば寝かせるほど、味が良くなる”というのは、プーアル茶の売り文句であったのですが、白茶も、その連想で捉えられたのだと思います。

そこへ来ての緊圧白茶の投入です。
最初はアイデア商品のような印象であったものの、売れ行きの状況を見て、業界団体が即座に動きます。
2015年には国家標準『緊圧白茶』という標準が制定され、緊圧した白茶は、白茶の正式な商品ジャンルとして確立してしまいました。

緊圧白茶の販売面でのメリット

緊圧白茶は、白茶が持っているいくつかのデメリットを解消し、新しい付加価値を生み出しています。

買う側にとっては、ガサッとした茶葉が多い白茶ですが、餅茶のような緊圧茶であれば、嵩張らず、場所もとりません。
さらに、すぐに飲まなくても良いのであれば、たとえ自宅に飲みきれない茶葉が山積みになっていても、「そのうち美味しくなるor価値が上がるから・・・」という言い訳もできます。

売る側にとっても、餅茶なら購入単位が1枚、2枚という単位になります。
1枚あたりの茶葉量は少なくとも300g前後ありますので、散茶で売るよりは、まとまった量を販売できます。
さらに「今、飲む用と数年後に飲む用と保存用で、数枚どうですか?人気なのでそのうち値上がりしちゃいますから、今買っておくのがおトクですよ」というお薦めも持ちかけやすくなります。
在庫管理の観点で言っても、将来的に老茶になって価値が上がるということであれば、仕入れをする際のリスク(例えば、緑茶であれば新鮮なうちに売り切らねばならない)も小さくなります。

売りやすく、在庫リスクが小さいということであれば、様々な販売店はこぞって緊圧白茶を仕入れ店頭に並べます。
そうなると消費者側も、「ブームなんだな」と感じ、興味を持つ・・・という、非常に分かりやすいブームの循環が起こります。

その結果は、明確に数字に出ています。
福建省のごく一部の地域でしか作られていなかった白茶ですが、2012年~2015年の生産量推移を見ると、4年で生産量が倍増しています。

白茶 2012年 2013年 2014年 2015年
生産量(トン) 10,244 12,002 17,287 20,390

白茶は、中国茶の生産量全体から見れば、1%にも満たない稀少茶です。
それがこれだけ急激な伸びを見せたというのは、驚異的な数字と言えるのではないでしょうか。
お茶の需要の創造という意味では、一つの良いケーススタディではないかと思います。

緊圧することの科学的なメリット

当初は、「プーアル茶の二匹目のドジョウを狙ったアイデア商品で、すぐに廃れるのではないか」と思っていたのですが、実は緊圧には、製茶の科学的に見ても、それなりのメリットがあるのです。

お茶を緊圧する際は、高温の蒸気で蒸し上げ、重石をかけてプレスするという工程を経ます。
高温の蒸気には、「熱」と「水分」という、茶葉に含まれる成分を化学的に変化させやすくする要素を含んでいます。
その上で、「プレス」という物理的な形状変化を加えますから、茶葉の細胞壁の一部は破壊され、残存する酵素との接触が起こることでしょう。
高温で水分が多い環境下で、この作業が行われるのですから、当然、茶葉の成分は変化(発酵)します。

緊圧前のお茶と緊圧後のお茶を比べると外観の色はもちろんのこと、味わいや香りにも変化が見られます。
特に後熟を期待するようなお茶であれば、この緊圧工程は1つの有益な製茶プロセスになりうるということです。

緊圧した烏龍茶も登場

このようにお茶の緊圧のメカニズムと効果(販売面も含む)が知られるようになると、あちこちで緊圧したお茶が見られるようになりました。

たとえば、武夷山では大紅袍の餅茶が、土産物店にはかなり多く並ぶようになっており、緊圧の方法なども試行錯誤を繰り返して、進歩しているようです。

白茶も、今は餅茶だけではなく、「白茶粽(ちまき)」というより小ぶりな商品も出てきていますし、日干し乾燥した紅茶(晒紅)の緊圧茶、さらには黄茶を緊圧したものも出てきています。

これらの商品がヒットし、定番商品となるかどうかは定かではありませんが、あの手この手で需要を生み出そうと仕掛けてくる茶業者とそれをバックアップする政府、業界団体の動きというのは、なかなか興味深いのではないかと思います。

 

次回は3月1日の更新を予定しています。