第111回:パンダ外交から茶文化外交へ?

超大国になりつつある中国

来月末にいささか大上段に構えたオンライン講座を行うことになりました。

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そこで、最近は20世紀の中国茶と21世紀の中国茶の何が違うのか、をさまざまな角度から分析して考えるようにしています。
色々な違いがあるのですが、やはり一番の違いは、中国という国が世界で占める位置が全く違っているということです。

20世紀においては、人口が多い、国土が広い、という意味で大国だった中国。
しかし、”社会主義市場経済”という謎の枠組みを提唱し始めた、1990年代以降の急速な経済成長によって、”世界の工場”を経て経済大国に至りました。
経済の規模拡大によって、コロナ以前には観光客の輸出大国にもなり、さらには軍事大国という面も強くなってきています。
かつては、アメリカと覇を競ったのはソ連でありロシアでしたが、現在、世界に与える影響の大きさを比較すると、中国とロシアでは差がついてしまったようにも感じます。
超大国という言葉が適切に感じられるようにもなってきています。

 

ハード面で強く・大きくなりすぎると風当たりが強まるのは歴史の必然

とはいえ、経済規模や軍事力、工業製品などのハード面だけが強くなると、脅威論が高まるというのは、いつの時代も変わりません。
急激な成長を遂げる国は必ず通過する道です。

自分たちに馴染みの無い人々とは、極端な言葉を使えば、得体の知れない集団です(とりわけ、人種的に違うとなれば尚更)。
そうした集団が力を持つことに対して、簡単には受け入れられないと感じるのは仕方の無い現象なのだろうと思います。

日本は20世紀にこうしたトラブルに二度見舞われ、成功と失敗を経験しています。
記憶に新しいところでは、日本が高度経済成長を遂げ、貿易摩擦が生じた際や海外旅行客の振る舞いに対してのバッシングは強烈なものでした。
しかし、紆余曲折がありながらも、これらのバッシングは比較的落ちついたようにも感じます。
もう少し遡れば、日本が帝国主義レースへ参加し、その権益を拡大しようとしたことで生じた第二次世界大戦も、20世紀の話です。
こちらの方は、ご存じのように悲劇的な結末でした。

同じような状況に、今の中国は直面しているわけです。
客観的に見たら、日本ほど中国の将来に実体験からのアドバイスを送れる国は無いと思うのですが・・・
それを外交カードにしていないあたり、日本は致命的に外交が下手な国なのだろうと思います。

 

現地化と習慣の受容、そして人となりを伝えるソフトの力

政府の無策を嘆いても仕方が無いので、何が違ったのかをかなり乱暴に分析してみたいと思います。

まず、戦前については、自分たちの理屈が絶対に正しく、他の国が間違っている、という、自分たちの理屈ありきで突っ走ったことです。
しかも、日本人の特異性を伝えようとしたのですが、それが却って、恐怖心を煽ってしまった面も大きいでしょう(武士道がハラキリに曲解される、など)。
他国から見たら、何をしでかすか分からない謎の行動原理を持つ人々が力を持つというのは、恐怖以外の何者でもありません。宗教戦争と同じメカニズムです。

一方、戦後の方についてですが、経済摩擦については、輸出では無く、現地へ工場を建設するなどして、現地化をしたことが大きいでしょう。
たとえば自動車メーカーが、アメリカやイギリスの田舎町に工場を作り、現地の雇用を生んで、現地企業として土着してしまったというものです。
また、内需拡大や規制緩和など経済構造を転換する政策を大胆に打ち出したことも寄与しています。
※もっとも、これは他国の言いなりになりすぎてしまい、その後の失われた数十年を導いているのですが・・・

加えて、アニメや漫画、映画などのコンテンツを通じて、日本人の精神性や思考パターン、習慣などを、知らず知らずのうちに伝えているというのも大きいと思います。
一つの作品として、なんとなくアニメを見ているだけだったとしても、家には靴を脱いで上がるといった日常の習慣や、友情のためには自己犠牲を厭わないなど、日本人の根底にある精神性などを知らず知らずのうちに浴びているのです。
※良い話ばかりでは無く、日本人を誤解させるような、褒められないようなコンテンツが多いことも、また事実ですが。

海外旅行客へのバッシングについては、日本でも問題視されたことや、海外に旅行をすることに慣れた層が出てきたことで、現地での立ち振る舞いが洗練されてきたことも大きいと思います。
マニュアルが大好きな国民性でもあったので、ガイドブックなどでマナーを勉強することで根付いた部分もあったと思います。
※最近は日本の経済力が落ちたことやテレビの影響で、現地の方に迷惑をかけるような貧乏旅行者が増えているという害も出てきていますが・・・。

これらをまとめると、キーワードとしては、

・自分たちの理屈を押しつけない
・相手の主張を容れる
・(さまざまな意味で)現地化する。郷に入れば郷に従う。
・ソフトを輸出することにより、ソフトを通じて自分たちの人となりや文化を理解してもらう

ということになります。

 

中国のソフトパワー?

この枠組みに中国の状況を当てはめて考えると、

・自分たちの理屈を押しつけない
→これは苦手そうですね・・・。でも、受け入れざるを得ないでしょう。

・相手の主張を容れる
→これも苦手そうですね・・・。でも、大人になってもらうしかないでしょう。

・(さまざまな意味で)現地化する。郷に入れば郷に従う。
→東南アジアなどでの華僑の活躍にもあるように、中国の民間企業は得意だと思われます。

・ソフトを輸出することにより、ソフトを通じて自分たちの人となりや文化を理解してもらう
→今のところ、世界でスターになっているのはパンダぐらい?

となります。

上の2つは議論してもどうしようもないですし、3つめは大体できそうな気がします。
そして、ここでお話をしたいのは、最後の分野です。

これまで、中国が世界をキャーキャー言わせるものと言えば、ジャイアントパンダでした。
そこで”パンダ外交”なる言葉が生まれるくらい、これを外交カードとして活用していました。

しかし、パンダは厳密にはソフトパワーではありません。
中国人が作り上げ、中国人のメンタリティーや考え方、習慣、文化などが反映されたソフトが必要でした。
たとえば、アメリカは音楽や映画など、多くのソフトを持っています。

そのような危機感はかなり前から感じていたようで、たとえば、日本産のアニメを流すばかりでは無く、国産のアニメを作れという動きもありました。
これは最近の『羅小黒戦記』のような、日本でもそれなりに知られるようなコンテンツが出てくるようになってきています。
しかし、中国人のメンタリティーを伝えきるような作品になっているかというと、これ単発だけでは如何ともしがたいでしょう。
ソフトには数や年月から生まれる厚みが必要です。

 

茶文化外交を展開する動き

そして、このソフト分野において、「茶文化」を正式に推していくという動きが発表されました。

国際茶文化研究と教育センター、杭州に設立

一見すると、単なる研究機関設立の式典記事です。
が、その文脈をよく読めば、遂に中国政府が本腰を入れて、中国茶文化の輸出事業を開始するための機関を設立したという記事です。
中国茶に関わる方には見逃せない記事だと思います。

この記事を読むと、中国の国策である”一帯一路”の推進のために、茶文化を広めていくことなどが活動の趣旨に挙げられています。
つまり、先程挙げたソフトパワーとして、茶文化を国家的に広めていくことが明言され、組織まで新設してしまったわけです。

茶文化をアニメや映画のようなコンテンツの一つとして位置づけるのは、大変面白いアイデアであると思います。
というのも、私も何度か現地の国際会議にご招待いただいており、そこでは韓国や香港、イギリス、イタリア、オーストラリア、フィンランドなど実にさまざまな国の方と話す機会がありました。
中国の茶文化を勉強されているだけに、中国に対しての理解の程度が一般的な水準よりは遙かに高いと感じます(中国茶を一定水準以上理解するためには、中国に対する幅広い理解が必要です)。
そもそも、お茶は既に世界的な飲料であるわけで、茶文化をきっかけに、中国を知ってもらうというのは、極めて理に適っていると思います。

今回の組織設立は、海外に積極的に中国茶を発信していこうという意図が見え、歓迎したいところなのですが、一方で上手く政府でコンテンツをコントロールをしたいという思惑もあるように感じます。
アニメでも、大本営発表的な説教臭いものでは支持されないわけで、ある程度は自由に作らせるなど、そのあたりの匙加減が重要です。
たとえば、「中国の茶文化はあなたの国の茶文化より素晴らしい!」というような論調で行う講義だったら、絶対に反発されるわけです(今の中国の講師が作る講座はそうなりがちです)。
中国茶の面白さや魅力はどこにあるのかを世界各国で伝えている人々にヒアリングをするなどしたら良いのに、と思ってしまいます。着眼点は良いと思うので。

 

年内は今回が最終更新となります。
次回は1月16日の更新を予定しています。

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