第118回:10kgの生葉が約1.8億円。高騰続くプーアル古樹茶の世界

10kgの生葉が1億7800万円で落札

最近、中国の茶業界をざわつかせているのは、4月7日にアリババで実施された、あるオークションの結果です。

出品されたのは、雲南省臨滄市鳳慶県の小湾鎮錦綉村の中の香竹箐自然村にある、”錦綉茶尊”と呼ばれる樹齢3200年の古茶樹の生葉を10kg(製茶すると約2.5kg、餅茶7枚=一筒)分を摘み取る権利です。
この茶樹は2015年に上海大世界吉尼斯本部(※)に、最大の栽培型古茶樹として認定されたものなのだそうです。

個人的には、栽培型で樹齢3200年というのが怪しく感じるのですが、一応、そういうことになっているようです。
※同団体は、世界的に著名なギネス(基尼斯・Guinness)世界記録と極めて似ていますが、全く別の組織で本家から訴訟も起こされています。が、共青団系の組織だからか無罪放免となった模様です。

この木は、現在、雲南省臨滄市鳳慶県の人民政府が管理しています。
オークションは、茶葉の保護のための資金を調達するためのオークションという位置づけだったようで、事前に公告も出されていました。
保護的な意味合いで30kg程度の茶摘みを行うので、そのうちの10kgを茶摘みして良い、という条件です。

地元政府の評価額は200万人民元(約3300万円)と、かなりの高額が付いています。
著名な大紅袍の母樹から作ったお茶は、飲みようがありませんが、樹齢3200年(とされている)のお茶を自分で好きなように茶摘み・製茶が出来ると考えれば、安いだろうという考え方なのかもしれません。

オークションは、4月7日の午前11時頃に基準額の8割相当の168万元からスタート。
ほとんど値動きは無かったのですが、午後11時過ぎから3名が1時間あまりの熾烈な競り合いに。
最終的に4月8日未明の0時15分に1068万元(約1億7800万円)で落札されました。

https://item-paimai.taobao.com/pmp_item/642051167443.htm?spm=a2129%E3%80%82$spmB.0.0.639a24fegM1MVV
※アリババオークションの出品ページ

10kgの生葉は製品茶にすれば、約2.5kg。ちょうど、餅茶が7枚(一筒)分となります。
1枚あたり、茶摘み権だけで2500万円を超える金額になります。
ちょっと常識的な数字では無い・・・と思いますし、そのような報道も多いのですが、古樹茶と呼ばれるプーアル茶の現状をよく表していると思われます。

2006年がピークだったプーアル茶バブルのその後

中国では2006年をピークに、一度、プーアル茶バブルと呼ばれる時代がありました。
このことは、日本でも伝えられることが多かったように思います。

この頃は、中国の消費者側もプーアル茶への理解がまだ進んでおらず、投機目的が主で、”プーアル茶”と名の付くものであれば、なんでも購入していたような時代でした。
古樹茶と呼ばれるような古くからある大木のお茶も、台地茶と呼ばれる農園産の灌木仕立てのお茶も一様に値上がりしていました。
ブームの中では、本来用いるべき晒青緑茶ではなく、烘青緑茶を原料茶とした、紛い物のプーアル茶も出回るような状況でした。

しかし、このブームは2006年頃にピークを迎え、2007年には暴落が起こります。
その後のプーアル茶は、価格が二極化していきます。

特に厳しい状況に置かれたのが、台地茶と呼ばれる大量生産可能な農園産のお茶です。
これらのお茶は、販売不振に陥り、かつてのように高値で販売することが難しくなりました。
反面、大規模に開発した茶園の茶樹は幼年期から壮年期に入り、生葉の生産量がぐんぐん上がっていく状況になりました。
生葉の処理を考えると、いわゆる黒茶としてのプーアル茶だけの需要に頼ることは出来なくなり、紅茶や白茶(月光白など)への転用や、有機への切り替え、紅茶の緊圧茶などの新商品の生産なども模索している状況です。
もっとも台地茶の中でも、管理をしっかりと行っている茶園や渥堆発酵を上手に行う工場もあり、こうしたものは比較的納得感のある商品が多いので、ある意味、お買い得になっています。

一方、価格がバブル後もぐんぐん上がっていったのは、古樹茶と呼ばれる樹齢の高いお茶、特に古樹茶だけを用いた”古樹純料”というジャンルです。
とりわけ大木化したお茶は、飲んだ際に身体全体に響くような独特の余韻が感じられることや、樹自体の希少性もあって、人気が不動のものとなりました。
また、プーアル茶についての知識や情報を蓄えた消費者が増えたことから、特に名産地とされる茶山のお茶がブランド化していきます。
老班章、冰島などが特に著名ではありますが、それ以外の産地も、独特の風合いなどを売りにして、値段が高騰していきます。

例として、以前、中国茶情報局でご紹介した、2020年の一番茶の価格を見てみます。

雲南省著名産地の頭春茶原料価格

たとえば、老班章の古樹茶の木登りをして茶摘みするような生葉の値段は、1kgあたり12,000元(約18万円)です。
製茶をすると、この4分の1程度の量になりますし、ここに製造コストや流通コストが加わりますので、市販される価格は餅茶一枚でも1万元を軽く超えてきます。

 

貴金属化する古樹茶

このような価格になるのは、もちろん古樹茶が味覚的にも美味しいと感じるものである、ということもあります。
しかし、これだけでは、ここまでの高額になることはないでしょう。

古樹茶が高額となっている理由は、貴金属と同じ理由です。
金やプラチナなどの貴金属がなぜ高いかといえば、それは生産量に限りがあるからです。
古樹茶も同じで、たとえば、樹齢300年以上のお茶が来年から急激に増える、ということはあり得ません。
生産される量は自ずと決まっている上に、最近は政府の意向で古樹茶の保護に力を入れています。
これによって、むやみな摘採や肥料で嵩増しすることなどが難しくなっています。

その一方で、中国では飲茶人口は増加傾向にあり、ある程度、お茶を飲みつけてくると、一定割合の方がプーアル茶の魅力に気づき始めます。
生産量が限られているのに、消費者の数は増加する。
しかも、プーアル茶、とりわけ生茶と呼ばれる渥堆発酵を行わないタイプのお茶は、年月を経れば経るほど、味わいが良くなっていきます。
不良在庫となるリスクが非常に少ない上に、特定の年に作られたお茶は、現存するものしか無いわけで、ビンテージものとしての価値も高まっていきます。
特に、マニアが広く知るような名産地のものであれば、転売などの際も品質に保証が付いているようなものです。

当然、中国のことなので、ニセモノの横行というのがリスク要因でしたが、これも最近は雲南省が”デジタル雲南”という触れ込みで、IT化を進めています。
その一環で、古樹茶のトレーサビリティー強化にも乗り出しつつあり、そのシステムが完成すれば、紛い物の混入も難しくなるかもしれません。

もっと先の世界を妄想するならば、現在、無数にあるメーカーは、中国政府の意向でどうも寡占化していきそうです。
寡占化して、プレイヤーとなる茶葉会社が減っていけば、最終的にはダイヤモンドのデビアス社のような存在が出てきて、古樹プーアル茶がカルテル化していくかもしれません。
全くありえないシナリオとは言い切れないと思います。

 

次回は5月1日の更新を予定しています。

関連記事

  1. 第48回:「高いお茶は美味しいのですか?」という質問

  2. 第133回:雲南省産の大葉種白茶(月光白など)の定義が確定

  3. 第56回:ティーバッグの果たす役割

  4. 第8回:消費者との共通言語は

  5. 第173回:台湾の中華文化復興運動が中国茶のイメージに与えた影響

  6. 第83回:お茶の「資格」についての考察

無料メルマガ登録(月1回配信)