第116回:早めに幕を開けた2021年の新茶シーズン

既に新茶シーズンに突入している中国の茶産地

中国では既に新茶シーズンが動き始めています。
昨年は新型コロナウイルス流行のため、ロックダウンの解除と新茶の収穫がギリギリでしたが、今年はスムーズに新茶シーズンに入ったようです。

貴州省の一部の産地などでは1月の時点から新茶の収穫イベントなどを実施していましたが、これは越冬芽などの収穫が多く、さすがに中国でも例外的です。

2021年の初摘みイベント、貴州省普安県で開催

”水城春”、2021年の早春茶発売記者発表会と茶摘み式を開催

それでも、2月に入った頃から収穫の声が聞こえて来始め、春節後には四川省などの早春茶産地で開園の声が相次ぎました。
2月下旬頃からは浙江省南部などで早生品種の烏牛早を中心に茶摘みが始まりました。

浙江省も新茶シーズンに。価格は例年並み

各地の報道を見る限りは、今年は全般的に春の訪れが早いようです。
気温が高めで推移していることや雨量が十分にあったことなどから、開園が1週間から20日ほど早くなっているようです。

 

メジャーな緑茶産地の茶摘みも始まる

今年の特徴としては、早場の産地だけではなく、全般的に茶摘みが早いことです。
例年であれば、春分前後が初摘みとなる、浙江省杭州市の西湖龍井茶、江蘇省蘇州市の洞庭碧螺春なども、それぞれ3月12日と3月10日に茶摘みが始まっています。

洞庭碧螺春の新茶、3月10日より摘採と販売を開始

西湖龍井茶の初摘み、3月12日に決定

両産地とも、平年よりもおおむね1週間ほど早いシーズンインとなったようです。

最近では、産地偽装を防ぐために、地元政府がこのような新茶の茶摘み時期を記者会見を実施してリリースすることが一般的になりました。
早場の産地のお茶を新茶の著名ブランド茶として販売するケースが後を絶たないためです。
※龍井43や烏牛早などは、貴州省のような早場産地でも導入されており、製造も機械製茶が主流になっているため、一般消費者には見分けがつかない。

もっとも、今回の西湖龍井茶の記事にもありますが、杭州市政府は統一パッケージや厳格なトレーサビリティ制度の導入を示しています。
農家にも統一パッケージの使用を義務づける方向になっているため、クリーン化していく反面、ブランディング費用などが嵩む方向になりそうです。

 

今年の品質と価格は?

今後の新茶シーズンは、4月上旬の清明節を目がけて、進んでいきます。
茶摘み前線は徐々に北上し、さらに標高の高い産地へと移っていきます。
また、既に茶摘みが始まっている産地も、早生種から中生種、晩生種へと推移していき、産量も増えてきます。

消費者の視点から気になるのは、品質と価格ですが、こちらはどうでしょうか?

現時点までの報道をまとめると、全般的に品質は良好のようです。
春になってから温暖になってはいるものの、その前に寒波の洗礼を何度か受けているため、寒さと暖かさのバランスが良いこと。
さらに雨量も十分であったため、生育期間中の環境としては問題無さそうです。

あとは茶摘み直前と当日の天候、特に寒波による遅霜の影響などが心配されますが、無事に乗り切れれば品質・産量ともに満足できるシーズンになると思われます。

一方、価格に関しては、人件費の高騰や感染症対策費用などを鑑みれば、下がる要素がありません。
むしろ上がる傾向にあるようで、一部の産地では生葉の買い上げ価格が上昇していることを報道する内容も増えています。
感染症流行で、既存の販路である実店舗での販売が振るわなくなっているという面はありますが、ネット通販やライブコマースの盛り上がりもあります。
急激な価格上昇は無いにせよ、コスト上昇分の1割程度の値上げはあっても仕方ないと見るべきでしょう。

 

日本への流通は?

もうひとつ、心配となることが日本への茶葉の流通です。
しかし、これは昨年と比較すれば、遙かに心配は少ないのではないかと思います。
その理由として、

・今年は中国側が安定していて、既に平常営業となっていること。
・航空便などの輸送手段の逼迫も、昨年の上半期から比べると格段に利用しやすい状況となっていること。
・日本の販売業者の方も、昨年一年間の経験を踏まえて、リモートでの仕入れを実現できるようになっている店が多いこと。

などから、昨年のような混乱は少ないのでは無いかと思います。

なお、冒頭の写真は、今年の2月1日摘みの峨眉問春という緑茶ですが、これは日本の茶業者さんを通じて入手したものです。
昨年の状況を一時的なものでは無く、しばらく継続するものとして仕入れの体制を組んでいるお店では、このようなスムーズな流通もできるようになっています。

もっとも、現地を訪問して得た生の情報などが入ってこないのは、少しもどかしくもあります。
とはいえ、これはこの状況下では仕方の無いことなので、もうあと1,2年はこうした状況に適応するしか無いかと思います。
いずれにしても季節は巡り、また新茶のシーズンがやって来るのですから。

 

次回は4月1日の更新を予定しています。

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