第155回:大規模なお茶イベントを、どう復興させるか

販売チャネルとして大きかったお茶イベント

新型コロナウイルスの流行が始まって、頭を痛めていたのは、お茶のイベントについてです。
以前のブログでもご紹介していますが、コロナ禍前までは、お茶のイベントは増加傾向にありました。

第91回:増加するお茶イベント

こうしたイベントで主にお茶を買うという消費者の方も増えてきていましたし、またイベント出店を販売の軸に据える店舗も出てきていました。
イベントにわざわざ足を運ぶ消費者は、お茶に関心のある方が圧倒的に多いため、こだわりのある高級茶や多品種少量の生産・販売を志向する業者にとっては、魅力的な販売チャネルだったわけです。

そのようなことから、様々な団体などがお茶イベントを企画し、実施するようになっていました。
当社で会場確保などの事務業務を一部行っている、地球にやさしい中国茶交流会も、それらのイベントの中の草分けの一つです。

 

感染症流行で開催が厳しく

ところが、感染症流行となると、これが非常に難しくなります。

まず、大勢の人を一カ所に集めるということ自体が、「密」を作ることになるためタブー視されます。
さらに「その場で試飲が出来る」というのが、この手のイベントの最も魅力的なところですが、これは最悪です。
「最も感染リスクの高い飲食を、不特定多数の来場する人混みの中でする」という行為になるからです。
「ならば、試飲の無い販売イベントなら・・・」となりますが、果たしてそこに来場するだけの魅力はあるのでしょうか?

人が集まれば問題になり、人が来なくても(主催者・出店者の)採算が取れなくて困る、という実に困った状況でした。
このようなことから、この2年ほどは、大規模なお茶イベントは軒並み中止になっていました。

 

今年から風向きが変わる

とはいえ、2022年に入ってからはワクチン接種がだいぶ進んだことや治療法の進歩、病原性の低下した変異株への置き換わりなど、風向きがだいぶ変わってきました。
音楽フェスなどの大規模イベントも、2022年からは、だいぶ世間の理解も得られるようになり、徐々に日常へ戻る方向に傾き始めています。

夏頃から京都の吉田山大茶会、秋には静岡の法多山大茶会、世界お茶まつり、東京のジャパン・ティーフェスティバル、鹿児島の地紅茶サミットと大規模イベントが再開され始めています。
いくつかのイベントには実際に参加をし、またいくつかのイベントについてはSNSの投稿などを通じて様子を確認していますが、どこも多くの参加者を集めているようです。
実際に参加してみると、それぞれのイベントの感染症対策の程度にはかなりの開きがあるのですが、それでも特に大きな感染症等の問題は起こっていないようです。

これをもって、「もう通常通りで大丈夫ではないか」と思ってしまうところなのですが、それはまだ危険だと個人的には考えています。
秋も深まってきて空気の乾燥や気温の低下が進むと、第8波の懸念も出て来ますし、事実、現在はその入口にあるとも思われます。
主催者側も参加者側も、まだまだ油断は禁物だと思われます。

また、明らかに人混みを避ける行動をすることを志向する方、またはご家族や職場の事情などから、リスクを一切取れない状況にある方も、一定程度の割合で存在します。
「今まで通りのお客さんに戻ってきてもらえれば・・・」と思っていたとしても、残念ながらまだ戻ってこられない方や戻ってこられない方がいらっしゃるわけで、新しい層の開拓も必要だろうと思われます。

 

オンラインイベントに切り替えた理由

一つのケーススタディーになればと、「地球にやさしい中国茶交流会」のことについてお話をしてみたいと思います。

まず、2020年の開催は、感染症が流行して早々にオンライン開催とすることを個人的には決めていました。
状況的には「中止」とするのが最も簡単だったのですが、単純な中止では、イベントが持っている熱量が徐々に失われていく可能性もあります。
そのようなことから、既存の出店者のみなさんや講師の先生方にお願いをすることで、オンラインイベントという形を取ることにしました。

この件について、おそらく「残念ながら、オンラインイベントになった」というやや消極的なイメージで見ていた方も多いと思います。
しかし、個人的には全く別の見方をしていました。

オンラインイベントは、従来は有料で行っていたセミナーなどをYouTubeを通じて無料で提供したり、会場に実際に足を運ばずとも、各店舗の方のお話が聞けたり、スタジオで代わりに試飲して、それぞれのお茶の紹介をするというものです。
会場で体験できることを一通り、オンラインで疑似体験できるようにしようという試みです。

これを視点を変えて説明すると、イベントに参加するのに必要なコスト(移動にかかる労力や時間、費用、セミナー参加の費用など)を、限りなくゼロに近い形にしたわけです。
イベントへの参加コストが低くなれば、初めてお茶イベントの熱気に触れる方も出るだろうと考えていました。
わざわざ会場まで出掛けるのは面倒だけれども、YouTubeをライブやアーカイブで見る分には、負担すべきものは時間だけだからです。
他の参加者はどうなのだろう?という心配や初めて訪れる場所への抵抗などの心理的な参加ハードルも随分低くなりますから、これもコスト低減と言えるでしょう。

この劇的なコストの低減で、新しい層の人たちのイベント参加を促すことができます。
新しい層の人たちとは、最近になって中国茶に関心を持った層のことです。

コロナ禍による外出自粛をきっかけに、お茶に関心を持つようになったという方も、実は相当数いらっしゃることが分かっています。
ポストコロナを考えたときに、従来までの参加者の方々が全て戻ってくる訳ではありませんから、何年続くか分からない実会場休止期間のうちに、新しい層の方に働きかけをしておくことは重要なことだったのです。

既存の方の熱量を落とさないようにしつつ、新しい層へのアプローチも行うという意味合いでのオンラインイベントへの移行だったので、「残念ながら」ではなく「これを契機に」という前向きな選択のつもりだったわけです。

とはいえ、2020年の開催はYouTubeというプラットフォームへの不慣れさが出てしまっていたのも事実です。
そこで、2021年3月からは中国茶情報を発信するYouTubeの個人チャンネルを立ち上げて、YouTube内で中国茶情報の発信を本格的に行うようにしました。
これによって、中国茶を始めようとしてくださった方々も多数おり、2021年のイベントには、そうした新規の方も参加いただけるようになりました。

 

実会場×オンラインへ

そして、今年の開催では、前述のような環境変化もあったので、物販のみを実会場で実施し、オンラインの方ではセミナー等を組み合わせる形でのイベントとしました。

中国のようなゼロコロナを目指すつもりは無いのですが、会場にお越しになる方が不安に感じる局面があっては、お茶を心から楽しむことは出来ません。
イメージとしては「郊外の大型スーパーで買い物をする程度」のリスクとなるように、感染症対策は徹底しました。
具体的には、入場人数を会場定員の50%にまで抑え、ブースには余裕を持たせて通路とにかく広く取り、入口での検温やマスク着用確認なども実施し、あちこちに手指の消毒液を設置し、受付にはビニールカーテンを設置するなどです。
と言っても、考え得る現実的な感染症対策を全て取り込んだだけなのですが、ここまでやっているお茶イベントは無かったと思います。

正直なところ、3年ぶりとなる実会場・物販側の準備に追われすぎて、オンラインの方は全く満足のいかない出来にはなってしまったのですが・・・

その結果は、実に顕著な変化がみられました。
それは、3年前までお越しいただけていた方ばかりではなく、最近、中国茶に関心を持った方々が大勢、会場にも来場されていたということです。
また、SNSへの投稿の多さが、これまでには無い数になっており、来場されていた方の平均年齢も若干下がったように感じます。

もっとも、実会場とオンラインの併用は、運営側にかなりの負荷がかかります。
来年、全く同じようにするかというと、おそらく違う形を検討しなければならないでしょう。
それでも、実会場で繰り広げられていた、お茶の祭典としての賑やかさを見た方は、参加をしてみたいと感じるでしょうし、コロナ禍での集客を疑問視していた方も見直すきっかけになりそうです。
もちろん、改善すべき点は山ほどあるのですが、新しい会場の初年度の滑り出しとしては、悪くない結果だったと感じます。

 

もし、コロナ禍が無く、そのままの流れでイベントを開催し続けていたら、今頃どうなっていたでしょうか?
少なくとも、今のような形で参加者の幅を広げることは出来なかったと思われます。
ひょっとしたらマンネリ化して、飽きられていたかもしれません。

「ピンチはチャンス」とも言われますが、ただ漫然と嵐が過ぎ去るのを待つだけでは、それは実現できません。
やはり、先を見据えて、手を打ち続けることが必要なのではないかと感じます。

 

次回は12月1日の更新を予定しています。

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