中国スゴイ論の裏にあるもの

かつては考えられないことでしたが、最近は「中国スゴイ」論というのが、時折ネットメディアなどで採りあげられます。

深圳などのハイテクベンチャーの製品開発スピードであったり、現金での決済を行わずにスマホで決済をする様子であったり。
こうした一部分を、いわゆる”意識高い系”の方々が見て、「中国はスゴイじゃないか!」と感心したり、「それに比べて日本は・・・」と嘆いてみたり、という内容です。

以前から中国を意識して見ている側からすると、「いまさら、そんなことでですか・・・」という感が拭えません。

今年の3月に中国で公開された「厉害了,我的国」という映画があります。
直訳すれば「スゴいぞ、俺たちの国」という典型的なプロパガンダ映画なのですが、それを真に受けるのと同じぐらい影響されやすい人たちだな、と思います。

何事にも光と影の部分があります。

今までの日本のメディアは、中国の影の部分を執拗に追いかけ回していました。
「経済的には急成長して、日本よりも経済大国になったらしいが、社会の闇は深いんだ」という部分をとにかく採りあげることで、心理的な優位性を保とうとしていたのだろうと思います。
こうした企画の方が視聴率が良い、雑誌を手に取ってもらえる、ということで、この方向性がより強化されたのでしょう。

このようなメディアの偏った報道の影響もあり、まったく免疫の無い方が中国の光の部分を見ると、「中国スゴイ」論のような反応になるのでしょう。
一般的な日本人の中国に対するものの見方のバランスが崩れているのだと思います。
偏った報道、情報に晒されることほど、知的に危険なことはありません。

このようなバランスが崩れている場合は、プラス、マイナスを問わず、さまざまな情報を得て、より理解を深め、バランスある状態に戻すしかありません。

 

中国の茶業についてのステレオタイプ

このような現象は、茶業についても同じです。
おそらく、日本や台湾の茶業者に中国の茶業界について問いかけてみると、非常にネガティブな印象ばかりが出てくることでしょう。

曰く、「農薬の管理がなっていない」「古き良き伝統製法を壊して、楽な方へ楽な方へと進んでいる」「工場は不衛生で機械もボロボロ」といったものです。

もし、中国の茶業について、このような認識しか無いのであれば、それは先に示したような知的なバランスが崩れた状態だと思われます。
少なくとも、最新の情報を得ていないことは間違いありません。

まず、農薬の管理についていえば、中国の基準は未だにEUの基準に達してはいませんが、それは日本や台湾も同じことです。
むしろ、農薬の使用を減らすどころか、一切の使用を認めない村や地域があるなど、一部の地域ではかなり進歩的な取り組みをしています。
そこまでの取り組みをしている事例は、おそらく、日本や台湾より遙かに多い事例があるはずです。それを知らないだけです。

古き良き伝統製法を壊す、というのは、おそらく文化大革命の時代であるとか、一時期の効率優先の時代を指しているのだと思います。
確かに機械化を一斉に進めている部分もありますが、それは伝統的な手作業では供給が追いつかなくなるぐらい、市場が拡大していることも背景にあります。
そして、そこで得られた収益でもって、きちんと技術の保存に資金を投じ、そのためのコンテストや伝統技術伝承人などの制度を作っています。
ボランティアで手もみ保存会の活動をしている・・・というレベルではなく、きちんと技術の保存にお金が回る仕組みができています。

工場は不衛生、というのは過去の話になっています。
多くの茶工場は大規模な投資を行い、最新鋭の機械を多数導入した、ピカピカの生産ラインで生産を行っています。
そのような工場でないと、今の中国では消費者の信頼も得られませんし、そのような効率的な工場でなければ、競争に勝てないのです。
減価償却はとっくに終わっているような旧式の機械で細々やっている工場は、中国では、もはや生き残れないのです。
積極的に工場や生産ラインに投資をしている茶工場は、日本や台湾にどれくらいあるでしょうか?

このようにほとんどの項目が、最新の情報も知らないのに、イメージでものを言っているに過ぎないのです。

 

中国は今や茶業”先進国”

茶業関係者の方に、認めたくない方が多いのは重々承知の上で敢えてこのような言葉を使いますが、中国は今や茶業の”先進国”です。

生産量は文句無しに世界一。
特に2000年以降の生産量の伸びは、他の茶業生産国から見ると、異次元のスピードで成長しています。

昔の中国といえば、人海戦術・・・というイメージですが、今や機械化もかなり進んでいます。
製茶機械もバンバン自国で開発していますし、なにしろ産業として伸び盛りにあるので、投資額の桁が全然違います。
旺盛な投資意欲は、旺盛な製品の研究開発という循環を生み出します。
そのスピードは日本の家電産業があっという間に、中国に追い抜かれたのを彷彿とさせるスピードです。

 

茶の需要創造こそ、もっとも注目するべきテーマ

そして、もっとも優れていると感じるのが、この生産量の増加をほぼ内需拡大で消化していることです。

おそらく、「中国は、お茶の国」という思い込みが強いと思います。
が、現実的には日中戦争などで茶産地が壊滅的な打撃を受けていたため、中国の庶民はお茶を飲まない人の方が圧倒的大多数だったのです。
そうした、一度はお茶を飲むことを忘れてしまった人たちを、政府や業界の働きかけによって、お茶を飲むように誘導していったのです。
生産量の増加よりも、この茶の需要創造の方が、世界でも驚くべき事例かもしれません。
なにしろ、生産量が伸びるのと同等近いスピードでお茶の需要を作っているのです。

いくら人口が多くても、お茶を飲むという習慣を人々に植え付けていくというのは簡単ではありません。
これは、ペットボトルに流れた消費者をリーフティーに呼び戻すことが非常に難しいことを経験されている茶業者の方にはよく分かることではないでしょうか。

 

過去の思い込みを脱ぎ捨てて、素直な目で見てみると、実に興味深いのが中国の茶業だと思います。

 

次回の更新は10月20日を予定しています。