第24回:TEAVANAの店舗閉鎖決定から見えること

1ヶ月ほど前の話になります。
2017年7月27日、スターバックスは同社が展開する、お茶の専門店・TEAVANA(ティバーナ)の実店舗を2018年春までに全店閉鎖することを発表しました。
昨年の秋から、東アジアのスターバックス内でTEAVANAの展開が始まったばかりだったので、少なからず唐突な印象があったように思います。

TEAVANAとは

1997年、アメリカ・ジョージア州のアトランタに1号店がオープンしたTEAVANAは、元々は個人の夫婦が営む茶葉販売店でした。創業者夫妻は、海外を旅する中で、新しいティーハウスのコンセプトを考えていったとのことで、ここまでは、よくある個人経営の店のようにも思えます。
しかし、同社はショッピングモールを中心に、茶葉の販売と少し高級感のあるティールームを、北米を中心に続々と展開していき、2011年7月にニューヨーク証券取引所に上場を果たすまでに成長していきました。

このような成長ぶりと資本市場に出て来たことが、次の事業の柱を考えるスターバックスの目に止まったのでしょうか。同社は、2012年にスターバックスによって買収されます。
以後はスターバックスグループの一員として、既存通りの店舗運営を行うとともに、スターバックス店舗で使用する茶葉のブランドをTEAVANAに切り替えるなど、さまざまな相乗効果を模索して来ました。

中国では、スターバックスが茶の会社を買収し、中国の茶の市場に本気で乗り込んでくるのではないか。そうなったら、中国の会社で勝てる会社はあるのか?と警戒の声が上がるほどでした。

 

業績不振

しかしながら、スターバックス傘下となってからのTEAVANAの業績は、決して好調ではありませんでした。
特に、ショッピングモールに出店している店舗の業績が伸び悩みます。

元々、価格的に高めの設定をしている店舗でしたので、景気の減速や小売り店舗全体の売上低迷(ネット販売などとの競合)などの影響をもろにかぶります。初期の頃の店舗の支持者は、ハイエンドなワインやコーヒーなど嗜好性飲料に敏感な層であったのですが、多店舗化して「あちこちにある店」になることによって、そうした顧客のニーズに合致しなくなっていたのかもしれません。
様々なテコ入れ策も行われたようですが、新規業態開発においては、とにかく見切りの早いスターバックスです(※)。6億2千万ドルの投資で購入したTEAVANAも例外ではなく、今回の発表によれば、実店舗の展開については諦めてしまったようです。

※アルコールを出す店舗(イブニング)を始めた際も、状況が好転しないと判断すれば、速やかに撤退するなど、多数の実績あり。

 

コーヒーショップとの違い

買収の話が出た当時より、「このビジネスは上手く行かないのではないか」と感じていたのですが、残念ながら、その通りになってしまったようです(私は、外食ビジネスのコンサルティング業界出身です)。

スターバックスのビジネスモデルは、比較的シンプルなオペレーションを実現した店舗が前提としてあり、そうした店舗を、店舗づくりや従業員教育など様々な分野にまで及んでいるブランド戦略を徹底することで、同業他社との差別化を図るというものです。

シンプルなオペレーションというのは、例えば、商品の提供に関することです。
確かにバリスタは必要としていますが、基本的にはマシーンを導入して、ある程度の効率化と品質の安定化を実現しています。お茶を淹れて提供するとなれば、このように簡単にはできないでしょうし、短時間で提供することは難しいでしょう。

在庫の種類や量も全く違います。
コーヒーであれば数種類の豆と牛乳、クリームなどと絞り込んだ提供を行うことが可能です。しかし、TEAVANAのように、数多くのお茶(紅茶、緑茶、烏龍茶、プーアル茶など)を取り揃え、さらにフレーバーティーやルイボスティー、ハーブティー、マテ茶などの茶外茶まで網羅するとなると、在庫管理の発想は全く違います。品揃えの多さが、店舗の差別化ポイントになっているわけで、これをチェーンストアとして管理するのは、スターバックスの既存店舗のノウハウでは太刀打ち出来ません。

上記のようなオペレーションの煩雑さと商品の多さは、そのまま従業員教育の難しさに繋がります。
お茶をカメリア・シネンシスだけに限っても、これを知識として網羅するのは並大抵のことではありません。
特にお茶は地域性がかなり強い商材です。世界各国のお茶を扱うということは、全く違った茶文化を伝えていかねばならないことになるわけですが、これは本当にパートタイムの従業員で対応できるのか、疑問です。
知識不足、技量不足の従業員でも店舗を表面上、運営することはできるかもしれませんが、ハイエンドなお茶のマーケットというのは、ほぼ存在していないに均しい市場規模です。もし、既存顧客の離反が起こって、一度、業績が崩れ始めると、思うように建て直しができないのではないかと感じます。

このように、TEAVANAとスターバックスまるで方向性の違うビジネスなのです。
チェーンビジネスの専門家に話を聞いてみれば、あまりのオペレーションの重たさと在庫管理の煩雑さ、従業員教育の困難さから、TEAVANAのチェーン化は不可能だという診断を下す人が多いのではないかと思います。

スターバックスは、シアトル系のコーヒーという、ある程度、確立してきた市場をリーダーとして率いて来た豊富な実績と経験があっても、TEAVANAは適用不可能だったのだろうと思います。
もし、TEAVANAがドリンクスタンドのようなチェーンだったら、また違った結果になったのだろうとは思うのですが・・・

 

茶業界の成功モデルは誰が作るのか

今回の一件で、さらにハッキリしてしまったことは、茶業界には確立したビジネスモデルを持ち、チェーン展開をできている企業は、まだあまり無いということです。

「茶」そのものは、多くの人たちに好意的に迎えられるものなので、市場規模は本来大きくて然るべきです。
しかし、低価格帯はあまりに庶民的になっているために、なかなか付加価値を得ずらいこと。高価格帯は、茶に親しんでいるように見えても、実は茶のことはあまり知られていないため、高単価を許容してくれる顧客層が限りなく少ないという問題があります。

消費者にちょうど良い値頃感を提供しつつ、採算にきちんと乗るようなビジネスモデル。
これこそが、茶業界にもっとも必要なものなのかもしれません。

 

代表ブログ、しばらく休載させていただきます。
次回は10月20日の更新を予定しています。

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