第23回:書店の売場から

いずこの国も出版不況ではあるけれど

日本で「出版不況」という言葉を聞くようになってから、おそらく20年ぐらい経つのでしょうか。
特にAmazonなどのネットで本を買いやすい環境ができあがってから、街の書店はすっかり少なくなっています。

こうした傾向は世界共通のようで、台湾や中国などでも、ネット書店に押され、実店舗の書店はかなり苦しくなっているようです。

様々な情報がインターネットなどで簡単に、しかも無料で手に入る時代です。
しかし、それらの情報は精査されていなかったりすることもあります。
さらに、タイムリーな情報や断片的な情報を得ることにインターネットは適しているかもしれませんが、体系的に情報を得たり、学ぼうとしたりすれば、ページを順繰りに追っていく出版物の方が、適していると感じることも多々あります。
一見高いように感じる書籍でも、実際に情報を調べる手間などを考えたら、何故こんなに安い投資で貴重な情報を得られるのか、と感じることもあります。

そんなこともあって、日本にいるときはもとより、台湾や中国に行った際は、できるだけ大きめの書店へ足を運ぶようにしています。
お茶関係の本がありそうな、嗜好飲料関連の棚をチェックしていきます。

 

お茶の本が少ない日本と台湾の書店

日本の場合、お茶関連の本は大きな書店に行っても、中国茶の本が売場の棚にズラリと並んでいることはまずはありません。
日本茶、中国茶、紅茶のお茶連合軍を結成し、どうにか棚の一段分を構成していれば良い方で、そのお茶連合軍を結成しても棚の半分ぐらい、十数冊止まりのこともあります。
ワインやコーヒーの本はズラリと揃っているのに、この差は何なのか、と感じることも少なくありません。

並んでいる本の傾向は、中国茶に限れば、基本的には入門書あるいは新刊本が数冊というのが、ほとんどです。
ただ、この入門書というのも、ここ数年は感心する内容の本があまり出ていないので、内容的には少々微妙な本ばかりが並んでいて、「初心者の方はこの本を読んで勉強するのか・・・」と少し暗澹とした気持ちになることもあります。

台湾に行くと、状況はもう少し好転します。
誠品書店の大型店舗などに行くと、棚の一段を台湾茶(および中国茶)だけで構成していることもあります。
時には紅茶や日本茶などの本もあり、少しは「茶」が嗜好飲料として認められているように感じます。
ただ、コーヒーやワインの本は同程度以上にあるので、決して主力ではないのですが・・・

並んでいる本は、入門書もあるのですが、この手の本は日本の本の訳本も多くあります。
それ以外には、プーアル茶や老茶といった少しコレクター気質の強い本であったり、写真を豊富に使用した茶館や茶産地の紹介本などが目立ちます。

 

続々と茶の新刊本が並ぶ中国の書店

そして、中国の書店です。
上海にある大型書店・上海書城に行くと、1階のフロアにはお茶の本のコーナーがあり、ズラリと本が並んでいました。
三段+平積みの本棚が2つ分がお茶の本で埋め尽くされており、隣のお酒のコーナーにも2段ほど進出していました。
ここは一般向けの平易な本が中心ですが、上海書城では、さらに上層階の園芸や農業などの専門書フロアにも、高度なお茶の専門書が並んでいます。
専門書フロアのお茶の本は、様々な棚に点在しているので、どのくらいのボリュームになるのかは分からないのですが、おそらく、まとめれば本棚2つ分ぐらいはあると思われます。

この状況、日本や台湾の本屋さんの実情を見てきた後だと、なんと恵まれた環境なのか、と感じます。

とはいえ、これでも中国のお茶の本のごく一部だけであり、現地のネット書店のサイトでは、さらに多くの茶の本が販売されており、新刊本もバンバン出ています。

売場で販売されている本は、ビジュアルを重視した入門書的な本がかなり多くを占めているほか、お茶の紹介をする図鑑的な本であったり、茶芸や茶席の本などもかなり多く刊行されています。
もちろん、中には「これは出版に値するのか?」と思うような内容の薄い本だったり、他の本でも言及されていることの使い回しではないか?と感じるものもありますが、専門性を持った、内容の深い本も多数出ています。
情報量の厚みが全く違うと感じます。

中国の茶業界全体が急成長しているので、当然、それに伴ってお茶の出版物も多くなっているのでしょう。
嗜好品というものは知識や情報が、その価値を高め、普及を加速していくものでもあります。
そのためのメディア戦略というのは、業界全体で見れば、やはり大切な分野なのだと思います。

 

次回は8月31日の更新を予定しています。

 

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