第33回:中国の茶の生産量、2017年は約258万トンに

昨年末に中国の農業部から、2017年の生産量の概算リリースが出ていましたので、その内容をご紹介します。

中華人民共和国 農業部

生産量は258万トン、茶園面積は4400万畝あまりに

今回のリリースによれば、2017年の中国の茶の生産量は、概算で258万トン(前年比+17万トン)と、250万トンを突破することは確実となったようです。
2006年に102.8万トン、2014年に209.6万トンとそれぞれ大台を超えてきていますが、それ以上の伸びで急成長しているようです。

茶園面積は微増となっていて、前年より130万畝増えて、4400万畝(1畝は15分の1ヘクタール)あまりに。
特に顕著に伸びたのは、湖北省23.6万畝、貴州省21.5万畝、陝西省19.3万畝、江西省15万畝などだったとのことです。

緑茶と烏龍茶の生産割合は低下

茶の生産品目にも変化が見られ、これまで牽引してきた緑茶、烏龍茶の生産比率は低下。
その代わりに、紅茶、黒茶、白茶、黄茶の合計が1.2ポイント増加し、生産量の26%、4分の1以上を占めるようになったそうです。
少し前までは中国の茶の生産量の7割以上は緑茶、1割程度が烏龍茶とされていましたので、生産茶類の多様化が進んでいるようです。

また、付加価値の高い、再加工・高度加工製品の生産も活発化していることが記されています。
最近流行の柑橘に詰めたプーアル茶、紅茶、さらにはハーブとのブレンドティーや、マイクロパウダーティー、抹茶、茶飲料、茶の健康食品(カテキンタブレット等)などの高度加工製品が増えた、となっています。

生産量が増えるだけで無く、品質と価格についても上昇傾向であると述べていて、標準化した生産方式による品質向上と、ブランド力のある茶を生産することでの単価上昇などがその要因としています。
とりわけ、2017年の春茶の価格は20%前後上昇しており、荒茶の産出額は1920億元あまりとなり、14.3%の増加となったそうです。

中国においては、人件費や資材価格など生産コストの高騰が価格に転嫁されているということはありますが、産量と金額の双方が伸びているので、市場としてもその分、成長しているのは確かなようです。

有機肥料の推奨や農薬使用の削減も

生産方法についても、化学肥料の使用を控え、有機肥料を推奨したことや、物理的あるいは生物的な害虫防除を推奨して、農薬使用量を低下させていることも述べられています。
さらに、無性繁殖品種(在来では無く、いわゆる品種茶)を使った茶園面積が2800万畝に達したことも記されており、茶園の品種化が進んでいることも窺えます。

なお、中国では昨年から、2014年に改訂されたばかりの基準をさらに厳格化した、農薬の新残留基準(2016年版)が施行されています。
EUの基準などとは大分差があると揶揄されてきた中国の農薬基準ですが、段階的に厳格化の方向に進んでいます。
その裏側では、生産者の主体を個々の農民から、地元の生産組合やメーカーに移す集約化政策も同時に進めています。
これによって、着々と厳しい農薬基準などにも耐えうる企業体質を備えたメーカーが育ちつつあります。

産業政策の厚み

ミクロで見ると、いささか陰りが見られると評されがちな中国の茶業ですが、マクロでは着実に市場を拡大しているようです。
様々な問題を孕んでいる中国の茶業ではありますが、それらを打ち消すための産業政策が、国家レベル、地方政府レベルで的確に講じられ、着実に実行されているように感じます。

たとえば、「茶文化」の振興を行うことで、お茶に単なる飲料以上の何かを見出す消費者を増やしています。
これによって、販売価格の上昇や周辺産業への波及、具体的には「茶旅」などのツーリズム需要を茶産地にもたらしています。
中国の大きな社会問題である都市と農村の所得格差を、茶で解決するという狙いもあるのだろうと思います。

残留農薬の問題にしても、厳しい農薬基準を実現しようとすれば、それ相応の管理能力のある生産者が求められますし、投資余力も必要です。
これを農家個人のモラルやモチベーションだけに任せるのではなく、仕組みとして運用可能な「企業体」を育成しようと、小規模零細の農家を組合化させたり、地域のトップメーカー(龍頭企業)に対して傾斜的に補助金などの優遇策を講じるなどです。

このようなことを書きますと、中国の茶業がいかにも素晴らしいと言っているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。
実際には、問題は相変わらず山積しており、人件費の高騰や熟練工の不足、生産能力の過剰など解決が難しく、対応を誤れば市場を崩壊させそうな問題も多くあります。

しかし、かなりのハイペースでこれまでの問題を解決しつつ、成長軌道を維持してきたのも、また事実です。
それを実現してきた茶業政策というのは、日本でももう少し研究され、真似されてしかるべき分野なのではないかと思います。

 

次回の更新は、1月31日を予定しています。

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