第61回:お茶の説明書きから透ける、お店の個性

あけましておめでとうございます。
今年も、さまざまなお茶に関する情報をお届けして参りたいと思います。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

新年最初の話題は、お茶の説明書きについてです。

 

お茶選びの手がかりであり、店の個性が出るもの

初めてのお茶屋さんに行く場合、基本的に客側は、そのお店でどのようなお茶を扱っているか分かりません。
扱っているお茶の銘柄は分かったにしても、その銘柄の中でのディテール、たとえば火入れが強いか弱いか、価格帯、強い産地などは分かりません。

対面販売であれば、会話をしながら好みのお茶を探していくことになるでしょう。
あるいは、店頭にあるお茶の説明書きのPOPであったり、喫茶であればメニューを見たりして、客側はお茶のイメージをつけていき、注文をすることになります。

この「説明書き」や「メニュー」の類いは、お店の個性が非常に出る部分です。
そもそも、星の数ほどあるお茶の中から、どのようなお茶を選び、自店のメニューに載せるのか・・・という行為は、その店のオーナーの考え方やお茶に関わってきたキャリアなどが、ある程度、透けて見えてしまいます。
選択は偶然ではなく、必然の結果なのです。

茶館であれば、メニューの装丁がどのようなものなのかによっても、オーナーのこだわりが見えてきます。
文人趣味の居住まいを正して臨むような茶館なのか、カフェ感覚の茶館なのかによって、メニューの装丁は全く違います。

 

お茶の解説文は、オーナーの考え方を映す鏡

そこに書かれるお茶の解説は、さらにそのお店の個性を表現します。
というよりも、この説明書きに何が書かれているかで、お店のオーナーの力量は、かなり正確に推し量ることが出来ます。
国内外で200軒以上のお茶の専門店に訪問していますが、メニューや説明書きから受けた印象とオーナーと話してみた印象、そしてお茶のクオリティーは、ほぼ一致しています。

店舗の説明書きは、多くの場合、紙幅に限りがあるため、ほんの一行程度のコメントしか書けないものです。
「そんなもので分かるのか?」と訝しがる向きもあるでしょう。

しかし、その僅かな客との接点に、どのような項目を織り込んでいるかによって、オーナーが重視しているものが分かります。
あるいは、そこまでこだわっていない店なのかも分かります。

例を挙げれば、産地や季節などの情報しか書かれていない場合もありますし、全て「○○に効果的」のように効能ばかりで書かれているお店もあります。
さらには、どこかの中国茶の本の記述のままではないかと思われる説明が羅列されているものもありますし、全く逆で自分がテイスティングした際のオリジナルなコメントが書かれているお店もあります。

これらは「どれが良い」というわけではなくて、オーナーのお茶に対する姿勢を表しているものですし、誤字や明らかな誤りがあればオーナーがどのように中国茶を学んできたのか、どこが理解できていないのか、なども大体分かってしまうものです。

ネットショップなどのように紙幅に限りがない場合は、お茶の説明書きが長文で書かれることもあります。
非常に詳細に書かれていて、「これはもう、お茶の百科事典ではないか」と思うようなページに出くわすこともあります。

が、そのようなお店では、オーナーの個性は、ますます際立ちます。
文章を書けば書くほど、長ければ長いほど、その方の個性が出てしまうのです。
長文となれば、論理的な構成をしているかどうか、ただの受け売りではなく自分の言葉で書かれているかどうか、お茶に対する姿勢、掲載されている写真はオリジナルなものかいつ撮影されたものか、などチェックポイントが沢山出てきます。

このようなページ構成のネットショップさんであれば、ある程度、素養があり購入経験のある人が見れば、その品質はかなりの部分で推し量ることができます。
※いくら説明文が長くても、全く品質には反映されていないこともあります(コピペや教科書丸写しなど)。

 

初心者には難解に感じられがち

ある程度、経験のある方であれば、こうしたメニューを読むことやオンラインストアの説明書きを読むことは楽しいものです。
が、この作業は初心者の方にとっては、非常に難解な作業に感じられがちです。

なぜならば、お茶に関する情報の引き出しが乏しいため、何を手がかりに選べば良いのか分からないからです。

たとえば、「○○茶のような味わい」と書かれたところで、「○○茶」が分からないと、さっぱり分かりません。
あるいは中国茶の場合で、細々した産地が書かれていても、そもそも中国の地名を言われて分かる人がどれだけいるか、です。
北京と上海ぐらいは分かって欲しいと思いますが、たとえば湖南省といわれても、中国のどの辺か、どのような地域なのかのイメージを持っている人はほとんどいないでしょう。

そうなると、やはりページの見やすさや何となくの安心感がものを言うようになります。
細かな情報を出されているとかえって敬遠されがちになり、むしろネットショップなどで言えば、「写真が大きい」「スタッフが顔出しして写っている」などの基準の方が大事になったりします。

どのような顧客を狙っているのか、によって最適な説明書きは変わるわけで、これも説明書きというものの奥の深さを感じる部分です。

 

説明書きの外注はありか?

長年ブログを書いていたりしますと、「解説が分かりやすかったので、うちの商品の説明書きに使いたい」というようなお声を掛けていただくこともあります。
しかし、このようなご依頼は基本的にはお断りさせていただいています。

なぜならば、お店におけるお茶の説明書きは、前述のように、お店のオーナーの考え方やスタンスを表明するものだからです。
いかに上手に書けていたとしても、やはりそのお店のオーナーがウンウン唸りながら考えた文章ほど、そのお店で提供するお茶の特性を表すことにはならないからです。

星の数ほどあるお茶の中から、その1点のお茶を選んだというのは、決して偶然ではなく必然の結果です。
予算ももちろんですが、オーナーが持っている仕入れルートがどのようなものか、あるいはオーナー自身のお茶を見る経験・審美眼によって、選ばれたお茶と選ばれなかったお茶が必ず存在しています。
たとえ、書いた文章に誤りがあったとしても、それがオーナー自身の今のお茶の認識力です。その現実からは逃げてはいけないと思います。

正確さや美しく分かりやすい文章よりも、そのお茶が「何故、ここにあるのか」という必然性が感じられる文章ではないと、消費者の方にとって納得のできる買い物にはなりません。
そういう観点から、生意気なようですが、説明文の外注はお断りしております。

 

次回は1月21日の更新を予定しています。

 

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