第151回:ISOの国際標準規格『烏龍茶』の内容を考察

烏龍茶の国際標準規格(ISO規格)が2022年9月にリリース

先日、国際標準化機構(ISO)から、烏龍茶の国際標準規格がリリースされました。

ISO 20716:2022 Oolong tea — Definition and basic requirements

日本語訳を当てるとすれば、『烏龍茶ー定義と基本要求』という文書になるかと思います。

ISOでは、既に緑茶と紅茶に関して同様の『定義と基本要求』を定めていますので、今回の『烏龍茶』については、3つ目の国際的な茶類定義ということになります。

なお、この文書は、2008年の茶分科委員会の年次総会で提案され、そこから規格の起草作業が始まっています。
約15年ほどの時間をかけて編纂されたということになります。
国際規格ですので、編纂チームには中国のほか、イギリス、ドイツ、日本、スリランカ、ケニアなどからも参加があり、チームとして起草をしたものとなります。

ここで気になるのは、その内容かと思います。
ただし、ISO規格は、公式サイトを通じて有償で頒布されるもの(1部あたり58スイスフラン=約9,000円)となっていますので、ここで全文を訳出するわけにはいきません。
そこで公式販売サイトのPreviewとして閲覧可能な、前文~烏龍茶の定義の部分のみを詳細にご紹介し、以後の部分は差し障りの無い範囲で要点をお伝えしたいと思います。

 

ISO国際標準規格『烏龍茶-定義と基本要求』の構成

まず、今回の国際標準規格は、以下のような構成になっています。

  • 表紙
  • 目次
  • 前書き(Foreword)
  • 序文(Introduction)
  • 本文
    • 名称(Title)
    • 1.適用範囲(Scope)
    • 2.引用文書(Normative references)
    • 3.用語及び定義(Terms and definitions)
    • 4.要求事項(Requirements)
    • 5.サンプリング(Sampling)
    • 6.包装、貯蔵と表示(Packing,stroage and marking)
  • 資料性付属文書(Annnex)

全体でも表紙を含めて10ページ程度のシンプルな構成です。
シンプルな構成であることから、この規格は、あくまで烏龍茶というものを国際的に定義することに特化した規格であることが窺えます。

前書きは、ISOという組織が制定する文書にほぼ共通のものですので、実質的には序文と本文に茶に関する内容が記載されています。
以下、順次内容を見ていきます。

 

序文:”発酵”は過去の用語に

まずは序文です。

Introduction

Tea is grown and manufactured in numerous countries of the world and is blended or drunk in many more.
The desired characteristics of an oolong tea and the resulting liquor depend upon a number of factors, including the type of water to be used for brewing, the preparation method, the degree of aeration/oxidization (formerly known as “fermentation”), the variety of tea plant and the unique processing method using fresh tea leaves. Oolong tea is a partially aerated/oxidized tea and, as such, the bruised edges of withered leaves and enzyme deactivation are compulsory processes.
This document specifies the plant source from which the oolong tea is to be manufactured, the process of making oolong tea, and requirements for certain chemical characteristics which, if met, are an indication that the tea has been subjected to good manufacturing practice.
The quality of oolong tea is usually assessed sensorially by skilled tea tasters, who base their judgements on their previous experience of oolong tea, their knowledge of the conditions in the producing areas, and the preferences of the consuming country. A number of factors are considered when evaluating the quality of oolong tea, including the appearance of the dry tea leaf (such as shape, colour, cleanliness and evenness), the appearance and odour of the infused leaf, and the appearance, odour and taste of the tea liquor. In practice, teas are submitted for chemical analysis only if a tea taster suspects that the product has been adulterated, or if it exhibits abnormal characteristics.
(ISO 20716:2022 Oolong tea — definition and basic requirements)

(拙訳)序文
茶は世界の多くの国で栽培・製造され、より多くの国でブレンドされ、飲まれています。
烏龍茶とその茶水の特徴は、多くの要素によって規定されます。抽出に用いられる水の種類、抽出方法、曝気された・酸化された(かつては”発酵”として知られたもの)程度、茶樹の品種と鮮葉を用いた独特の製造工程などです。烏龍茶は部分的に曝気・酸化した茶であり、そのために萎凋した葉の傷ついた縁と酵素の不活性化は必須の工程です。
この文書は、烏龍茶はどのような植物の原料から製造されるか、烏龍茶の製造工程と適切な化学的特徴の要求を規定します。これらに適合すれば、その茶が良好な製造工程を経たものであることを示します。
烏龍茶の品質は通常、過去の烏龍茶の経験・製造地域のさまざまな条件に関する知識・消費国の嗜好性などを基準に判断する、熟練したティーテイスターによって官能的に行われます。烏龍茶の評価を行う際には、乾燥茶葉の外観(形、色、浄度、均一度など)、浸出した葉の外観とにおい、茶液の外観、におい、味などいくつかの要素によって考慮されます。実際上は、茶が化学分析に提出されるのは、ティーテイスターがその製品に何らかの混入物の疑いや異常な特徴を発見した時のみです。

序文で特に注目に値するのは、2行目の文かと思います。
烏龍茶の味の特徴が生じる要素について述べている文ですが、ここで茶における”発酵(fermentation)”という言葉を過去のもの(formerly known as)であるとしている点です。
新しい用語として「曝気された(aerated)」もしくは「酸化された(oxdized)」という用語が用いられています。

“発酵(fermentation)”は、一般的には微生物等による発酵をさすことが多いのですが、茶の場合は慣習的に酸化酵素による自動酸化作用で生じる現象にも”発酵”を当てていました。
が、国際的にそれを過去のものとして否定したとも読めるだけに、今後の説明の仕方を変えていく必要があるかもしれません。
※日本語の場合、”酸化”にネガティブなイメージがあるので、このあたりは上手い訳語を我が国の研究者の方が議論して決める必要があると思われます。

また、最後の一文は、化学的な評価指標についての注記的な文となっています。
今回の規格には、烏龍茶の化学的な成分の基準が記載されています。
具体的には、可溶分(中国語では水浸出物)、灰分(ミネラル)、粗繊維、総カテキン量、総ポリフェノール量、総カテキン量と総ポリフェノール量の比率、カフェイン量、テアニン量です。
これらは、あくまで製品に疑義がある時(茶以外の混入物の存在等)の参考指標として使用するもので、これによって茶の品質を判別することは無い、という注釈です。

 

烏龍茶は製法で規定。酸化程度で3つのタイプに

続いて本文に入り、最も重要な「用語及び定義」を見てみます。

3   ​Terms and definitions

3.1
oolong tea
tea derived solely and exclusively from the moderately matured new shoots of varieties of the species Camellia sinensis (Linnaeus) O.Kuntze, and produced by acceptable processes, notably withering, tumbling and aeration (partial aeration/oxidization), enzyme inactivation, shaping/rolling and drying, which is known to be suitable for consumption as a beverage
Note 1 to entry: Oolong tea can be categorized according to the degree of aeration into three main classifications: light aeration/oxidization, medium aeration/oxidization and high aeration/oxidization.
Note 2 to entry: Typical manufacturing processes are given in Annex A.
(ISO 20716:2022 Oolong tea — definition and basic requirements)

(拙訳)3 用語及び定義
3.1
烏龍茶
カメリア・シネンシス種の中程度に成熟した新芽のみから得られ、適切な工程、特に萎凋、揺青と曝気(部分的な曝気/酸化)、酵素の不活性化、成形/団揉および乾燥を経て製造され、飲料として消費するのに適するとされた茶。
注1:烏龍茶は曝気の程度によって3つの主な種類に区分けできる。軽曝気/酸化、中曝気/酸化と重曝気/酸化である。
注2:典型的な製造工程は、付属文書Aに記す。

烏龍茶も、緑茶と紅茶の定義と同様に、製法で分類されるものとしています。
萎凋、揺青(”tumbling”という英語を充てています)と曝気(いわゆる静置工程と発酵工程)、酵素の不活性化(いわゆる殺青)、成形/団揉(いわゆる揉捻)、乾燥という工程を経て製造されるお茶が、烏龍茶であるというものです。
発酵程度によって、紅茶と烏龍茶を区別するのでは無く、製法で区分するということです。

さらに、3タイプの烏龍茶があることが記載されており、その違いは、酸化程度で分けるということです。
従来の言い方を敢えて使用するのであれば、烏龍茶は、軽発酵、中発酵、重発酵の3タイプがあるということです。

この視点は、中国の烏龍茶の「標準」には無い点なので、今後、この分類がどのように活用されるのかは注目したいところです。

 

要求事項について

要求事項については、

1.一般要求(General requirements)
2.技術要求(Technical requirements)
3.官能分析(Technical Analysis)
4.化学要求(Chemical requirements)

の4つのテーマで規定があります。

一般要求については、着香・着色などが無いことや、品質が正常であることを求めています。

技術要求については、摘採(Harvest)、萎凋(Withering)、揺青と曝気(Tumbling and aeration)、殺青(Enzyme inactivation)、成形(Shaping)、乾燥(Drying)につき、それぞれの項目が設定されています。
摘採については、適切な成熟度の葉を用いることや一芽二葉~四葉の茶葉を用いること。萎凋は日光萎凋のほかに室内萎凋が用いられることや、加温・加湿の利用についても記載があります。
揺青と曝気は、烏龍茶の独特の香りと味を作る工程と位置づけられており、付属文書を引きながら、大まかな時間の目安なども記載しています。
殺青は、釜炒り(pan-firing)設備を用いて高温で行うことが記載されており、温度目安が記載されています。
成形は、いわゆる揉捻のことであり、2つの方法が用いられるとされています。細長い形(strip-shape)の烏龍茶を作る、いわゆる揉捻(rolling)と半球状(irregular globular)の形を作る、いわゆる団揉(wrapping-twisting)です。
最後に成形を行った茶葉は、乾燥を行って、適切な水分量に落とすこととされています。

官能分析については、概念的なもののみが書かれており、烏龍茶の品質評価は、烏龍茶の評価方法を熟知した熟練したテイスターが実施することと定められ、乾燥茶葉の外観、香り、味、水色の色、浸出後の茶葉の状態などで判断することとされています。
また、適切に製造された烏龍茶の特徴として、花や果実の香り、まろやかで滑らかな味、明確な甘い後味、透明感のある明るい茶水などが記されています。

化学要求については、ISOで定める茶の鑑定方法の文書を引用することが示されています。
また、可溶分(中国語では水浸出物)、灰分(ミネラル)、粗繊維、総カテキン量、総ポリフェノール量、総カテキン量と総ポリフェノール量の比率、カフェイン量、テアニン量の項目についての要求基準と検査方法のISO規格が表の形で記されています。

なお、サンプリングについてはISOのサンプリング基準を、包装と保管については、適切な方法を述べるに留まっています。

 

烏龍茶とは何かが、国際的にもようやく明確に

今回の『烏龍茶-定義と基本要求』は、まさにベーシックな基準であり、あまり細々とした内容は書かれていません。
しかしながら、烏龍茶とは何かが国際的な公的文書の形で明確に記載されたことは、大変評価すべきことではないかと思われます。

というのも、未だに茶葉の分類は、発酵程度であるという誤解が罷り通っているからです。
具体例を挙げれば、ダージリンのファーストフラッシュのような紅茶を烏龍茶と評する向きがあることです。
上記の基準に照らし合わせれば、ダージリンのファーストフラッシュは、紅茶の製法で製造されているわけですから、明らかに紅茶ということになり、烏龍茶とするべき理由は何ら見あたりません。

用語の正確な把握と使用を行うことが、知識の相互理解、学問の基礎であることからも、今回、国際的にしっかりとした基準ができたことは大変良いことだと感じます。
もっとも、中には中国の標準にも記載が無いことが、いくつか散見されますので、今後はISO規格に合わせて、中国側の標準が変わっていくこともありそうです。

おそらく、今後は白茶や黒茶の国際規格を・・・という話にもなっていくかと思います。
その1つの参考ケースとして、今回の烏龍茶のISO規格は位置づけられていくことになりそうです。

 

次回は10月1日の更新を予定しています。

 

 

 

関連記事

  1. 第22回:産地からの情報発信は次のステージへ

  2. 第111回:パンダ外交から茶文化外交へ?

  3. 第141回:試飲のコストは誰がどう負担すべきか

  4. 第164回:中国の国営メディアがお茶の記事を多く配信している理由

  5. 第65回:中国紅茶の代名詞化する金駿眉

  6. 第9回:中国の内需拡大に学べ

無料メルマガ登録(月1回配信)