凶悪な値段の著名産地の茶

中国では、名産地のお茶の高騰が続いています。

たとえば、老班章の普洱茶。
そのなかでも、樹齢1280年と言われる”茶王樹”の初摘みの頭春茶は、昨年2017年のオークションで1kg32万元(約576万円)の値段をつけました。
そして今年のオークションでは、その最高価格をさらに更新したというニュースが入ってきました。
なんと1kgで68万元(約1224万円)の価格がついたそうです。

この価格はマグロや夕張メロンの初競りのように、ご祝儀相場的な部分も多分にある価格です。
とはいえ、こうした価格に牽引されるように、著名産地である老班章の古樹頭春茶は、1kg1万元程度の値段で取引されることも珍しくなくなりました。

茶館でも著名産地の普洱茶は高価

著名産地の名前やブランド、樹齢などをありがたがる風潮も

このような話題が出てくると、一部の愛好家の間で自慢合戦がヒートアップしていきます。

「○○(茶産地)の古樹普洱茶を持っている」
「○○(有名茶師)が作ったお茶をいつも飲んでいる」
「樹齢300年の老叢のお茶を飲んだことがある」

等々。
お茶は趣味の世界のものであるので、一部の愛好家のこうした動きは良くあることです。
特に最近関心を持ち始めたばかりの方ほど、分かりやすいブランドバリューのあるキーワードを並べ立てる風潮があります。

こうしたお茶は「希少価値」ゆえの価格の高騰もあるので、価格は品質に対して妥当な水準では無くなるケースもあります。
古くから茶業に従事している茶商などは、こうした傾向に眉をひそめることが多くあります。
一方で、新しく参入した茶商ほど、こうした分かりやすいキーワードでもって仕入れを行う傾向があります。

ビジネスとなると問題になるのは、”市場の大きさ”と”持続可能性”なのですが、この点について、少し見てみたいと思います。

 

騒がれているお茶は、ごく一部

先の普洱茶の例にとってお話をすると、2017年の普洱茶の生産量は13.9万トンほど。
そのなかで、今、もてはやされている古樹茶の生産量は5000トンを超えることは無いと言われています。

ざっくりと計算しても、普洱茶全体の4%に過ぎない程度の量のマーケットです。

そして、今後の展望としてみると、古樹茶というのは急には増えません。
今植えても、古樹になるのはずっと先の話だからです。
当然といえば当然なのですが、産量が急激に増えるということは無いでしょう。

産量が増えないなかで市場規模が拡大するとすれば、産量ではなく単価が上がることで実現するしかありません。
とはいえ、今の価格でも経済的な合理性を見出すのは難しい状態です。
価格の上昇傾向がこのままずっと続くかというと、やはり疑問符が付きます。

 

飲み手の”成熟”

もう1つ言えることがあります。
それはお茶と真面目に向き合って飲んでいる方は、だんだんと味覚が変化していくことです。

たとえば、最初のうちは、口に含んですぐに華やかな香りや味が感じられるようなものを好みます。
しかし、徐々に飲み慣れていくと、飲んだ後に残る余韻や戻りの香りなど、徐々に淡麗ながらも茶気の強いものに惹かれていくようになります。

そのようなときに、件の著名産地のお茶や老叢などのお茶を飲むと、確かにこの点で満足させられるものがあります。
ゆえに味が分かる人こそが飲むお茶、という特別感があるのかもしれません。

が、そこからさらに追求していくと、今度は「このお値段で、この味わいは悪くないぞ」というような、コスパの面も含めた茶の評価に進む人も出てきます。
著名な産地の名前や○○年老叢、名人の作ったお茶、というようなキーワードではなく、もう少しお茶の本質の部分を見ていき、フェアにお茶を捉えるようになってきます。

これは、お茶を飲み進めて行くなかで、それだけ判断基準が増えたからこそ、の現象なのかもしれません。
詳しくない分野のものはどうしてもスペックやキーワード重視、デザイン重視などで選んでしまいがちです。
中国が力を入れている「ブランド化」は、そうした本質にたどり着かずとも「イメージ」で販売をしていく、という方向を目指しているのだろうと思います。

しかし、もし飲み手が”成熟”していくとなれば、このようなキーワード頼みの商売は厳しくなっていくのではないでしょうか。
仮に”成熟”しなかったとすれば、おそらくそれは関心が表層的なものに過ぎなかったことなので、よりキャッチーで見栄えのする、コーヒーなどの他の嗜好品に流れてしまうだけのような気もします。

 

一過性の商売であれば、こうした”浮ついた”需要で商売をすることも可能でしょう。
しかし、長い商売をするのであれば、嗜好品ならではの”飲み手の成熟”という点も考慮に入れながら、さまざまな戦略(意図的に飲み手の成熟を促していくなど)を立てていくことが求められそうです。

 

次回は6月10日の更新を予定しています。