「中国茶は歴史のあるもの」というイメージがあります。
これ自体はそれほど間違いでは無いようには思いますが、現実に流通している個々のお茶を見ると、決して歴史が長いとは言えないお茶も多くあります。

たとえば、人気の中国緑茶の1つである、安吉白茶。
このお茶の原木が見つかったのは、1982年のことであり、それが量産化されてきたのは1990年代に入ってからです。
今では、西湖龍井茶などと並ぶ、著名な緑茶の一つになっていますが、実際の歴史はそれほど長くはありません。

実は、いつの間にかこのような新興のお茶が、かなり増えてきています。
とりわけ、21世紀に入ってから登場し、市場での存在感を際立たせているお茶があります。
しかし、そうしたお茶は日本の書籍などに反映されていることが少なく、どうも今ひとつ正確な情報が伝わっていないようです。

今回は、そうしたお茶を整理し、いくつか紹介してみたいと思います。

 

金駿眉

先日もご紹介しました が、今や中国紅茶の代名詞になっている紅茶です。
紅茶の発祥地であり、正山小種の原産地でもある、福建省武夷山の桐木村を中心に生産されています。

元々は「価格の低迷する地元産のお茶を何とかして、正当な評価を受けられるお茶にしたい!」ということから、正山小種を作り続けてきた正山堂のほか、何人かの著名な茶師が加わるプロジェクトチームが結成されます。

開発メンバーの1人・梁駿徳氏

烏龍茶の製造技法なども取り入れた結果、2005年に芽だけを使った甘い香りを持つ紅茶の開発に成功。
まさに21世紀に生まれたお茶です。

市場に出回り始めると、その甘い香りと味わいで瞬く間に人気を集めますが、

1.生産地域が狭く、生産量に限りがあったこと。
2.商標権の問題で産地内の足並みが揃わず、製品の定義が後手に回ったこと

などから、模倣品の氾濫を招き、現在も市場に出回るほとんどの製品が本来の金駿眉とは異なる製品になっています。
2013年には「金駿眉とは一般的な茶の名称である」という判決が出てしまいますが、2015年にようやく業界標準『金駿眉茶』(GH/T 1118-2015)の制定に漕ぎ着けます。

その定義によれば、金駿眉茶とは武夷山市星村鎮桐木村を中心とする武夷山国家級自然保護区565平方キロメートル内の高山茶樹の単芽を原料とし、萎凋、揉捻、発酵、乾燥の独特の製造技法で製造され、”湯色金黄、湯中帯甘、甘里透香”の品質特性を有する紅茶とされています。

また、同様の製法で原料を一芽一葉、一芽二~三葉で製造したお茶も生産されており、銀駿眉、銅駿眉(あるいは小赤甘、大赤甘)などというラインナップも登場しています。
これについては、これまで厳密な定義がありませんでしたが、2019年3月に中国茶葉流通協会が団体標準「駿眉紅茶」(T/CTMA 002-2019)を公布しており、一応の基準が制定されることになりました。

このお茶の登場をきっかけに、中国では一気に紅茶ブームが起こります。
2009年にリリースされた、信陽毛尖の産地である河南省信陽市の「信陽紅」や洞庭碧螺春の産地である浙江省蘇州市の「碧螺紅茶」など、高級緑茶の産地で高級紅茶を作る動きが加速しています。
これらは、金駿眉の登場を見てからの開発ですので、まさに21世紀のお茶です。

また、輸出の不振から名前が歴史に埋もれかけていた往年の名紅茶(寧紅など)も、この機会を捉えて復興に向かっています。
茶業界全体への波及効果を考えると、金駿眉は21世紀のお茶の中では特大級のインパクトをもたらした紅茶だと思います。

 

緊圧白茶

以前にご紹介していますが、緊圧白茶も21世紀のお茶です。

2013年頃に「白茶月餅」として、緊圧した白茶を月餅がわりに贈る、というプロモーションがきっかけだったように思います。
白茶の散茶は大変嵩張りやすいものですが、緊圧するとかなりコンパクトになります。

また、白茶は殺青工程を行っていないので、経年変化も楽しめる、という触れ込みで、収蔵品としての価値を訴えるものがありました。
それが、「一年茶、三年薬、七年宝」というキャッチコピーで、これによって消費者は投資的な要素を見込んで購入しますし、販売側も在庫リスクを小さく抑えられるという観点から、一気に市場が拡大していったものです。

緊圧白茶の成功は、他の茶類(黄茶、烏龍茶等)でも緊圧茶のブームを巻き起こしました。
このお茶も、また21世紀のお茶であると言えましょう。

 

黄金芽

最近の中国の緑茶で注目を集めている品種に黄化品種があります。
その代表格が、黄金芽というお茶です。

黄金芽に代表される黄化品種は、その名の通り茶葉が黄金のような黄色をしており、アミノ酸の含有量が豊富な点に特徴があります。
一般的な緑茶のアミノ酸含有量は2~3%程度ですが、安吉白茶などの白化品種は5~7%とされます。
ところが、黄化品種は9%を超えるものもあり、自然なうまみ・甘みの強さと見た目の美しさという、中国の消費者が緑茶に求めるものを高い次元でクリアしています。

もっとも決して丈夫な品種では無いことや産量も多くはないため、生産コストは高くなりがちです。
そのため、このお茶が出回ることが出来るようになったのは、高価格のお茶を受容できるだけの消費層が育ったからと言えるかもしれません。

このような黄化品種は黄金芽だけでは無く、各地で独自品種の選抜や黄金芽、中黄1号、中黄2号などの品種の導入が進んでいます。
著名なところでは、浙江省麗水市の「縉雲黄茶」、安徽省宣城市郎渓県の「黄魁」、安徽省黄山市の「黄山黄茶」などがあります。

なお、これらのお茶は名前は「黄茶」となっていますが、製法的には悶黄などは無い全くの緑茶であり、この点を取り違えてしまう日本人の方も多そうです。

 

紅玉紅茶

1999年に品種登録された台茶18号を用いた紅茶です。
台茶18号は、台湾の山茶とミャンマーの大葉種系シャン種を交配してできた品種であり、独特のメンソール香が特徴的な大葉種紅茶です。

独特の特徴があることから、茶葉の実勢価格はやや高めに設定されています。
台湾全土で生産されていますが、とりわけ、南投縣で1999年に発生した921大地震からの復興を目指す日月潭などでは、このお茶を主力品種として育成してきました。
出回り始めたばかりの2000年前後は、まさに幻の品種でした。
が、現在では日月潭で最も生産面積の多い品種は台茶18号(紅玉)であり、非常に生産量の多い品種となっています。

これもまた21世紀のお茶と呼ぶにふさわしいお茶だと思います。

 

蜜香紅茶

蜜香紅茶は21世紀になって生まれたお茶です。
生産のきっかけになったのは、1999年に茶業改良場・台東分場が開発した蜜香緑茶です。

台東や花蓮など東部の茶産地は、低海抜の産地が多く、1990年代以降の台湾の高山茶ブームの中で非常に苦戦を強いられていました。
一時は低価格路線に舵を切ったのですが、ベトナムやタイなどから低価格の台湾風の烏龍茶が流入してくると、コスト的に太刀打ちが出来ず、茶業が危機的状況にありました。
そのような中で、東部の産地の1つの生きる道とされたのが、無農薬無肥料などの有機栽培(いわゆる無毒農業)です。
そうなると、1つ技術的にクリアすべき課題があり、それがウンカの被害に遭ってしまった茶をいかにして製茶するか、というものでした。
そこで、台東分場ではウンカの害に遭った茶葉を、東方美人のように厳密な茶摘み・製造を行わなくても商品化できる技術を研究し、その結果生まれたのが蜜香緑茶であったわけです。

ただ、蜜香緑茶は烏龍茶優位の台湾の市場を変えるほどのインパクトは残念ながらありませんでした。
が、このお茶の製法を活かして、花蓮県の茶農家が開発したのが蜜香紅茶です。

ウンカの害に遭った茶葉の特徴である甘い香りと紅茶の香りが大変良くマッチし、独特の甘みのある紅茶となりました。
この製法は、現在では台湾各地に広がっており、標高以外の競争を行う手段として、生産が広まっています。

 

このように、比較的店頭で見かけるお茶、人気のあるお茶でも、開発されたのは21世紀のお茶というのも意外に多いのです。
日本にいると「茶業とは伝統産業であり、あまり変わらないもの」という印象があるかもしれません。
が、中国では茶業は急成長産業ですから、本当に目まぐるしく変わりますし、台湾も茶業の生き残りをかけた変化の途上にあります。
古い情報をいかに更新していくかも大事な視点となってきそうです。

 

次回は8月20日の更新を予定しています。