第81回:インバウンド消費への対応力

先週は遅い夏休みをいただいて、北海道の東部を旅行してきました。

中華圏からの個人旅行者も多い

道東エリアは、2008年に公開された人気映画「非誠勿」(邦題:狙った恋の落とし方)の舞台となったことから、中国・台湾・香港など中国語圏の観光客が多く訪れる地域です。

既に10年以上前の映画であり、さすがに以前ほどの盛況さはありませんが、日本人観光客が訪れることも少ないような場所でも、未だに中国からの個人旅行者の姿が見受けられました。
人気映画の影響力とは本当に大きいものです。

映画ロケ地の一つである能取岬(網走市)

こうした場所を訪れる方の多くは個人旅行者であり、多くの日本人がイメージするような”団体ツアーの爆買い中国人観光客”という印象とは全く違っています。
グループで楽しそうにしていますが騒々しいわけでもなく、マナーも大変良くて、日本人観光客以上にきちんとしているかもしれません。

そもそも、中国人旅行客の中でも、日本に個人旅行が出来るというのは、所得水準の面でも文化水準の面でも高い水準にある方が多いのです。
彼らは、団体旅行の爆買いなどではなく、文化的な水準の高い旅行を嗜好していますし、宿泊や食事などのグレードも日本人観光客以上のものを要求されることが多いと感じます。

先日、中国当局が台湾への個人旅行を制限するというニュースがありましたが、これは中国人観光客の中でも、いちばんの上客となる層を制限されたわけで、台湾の旅行業界の関係者は、かなり苦しくなるものと思われます。
代わりに日本人観光客が行けば良いでは無いか、という声もありますが、彼らとは落とす金額が違うので、とても敵いません。

 

個人旅行客とのミスマッチ

道東地域は、このような非常に有望な観光客が大挙として訪れたはずなのですが、そうした方々を上手にリピーターに出来なかったのではないか、と感じました。
同じ映画のロケ地としても重要な場所になっている阿寒湖温泉などは、やはり高度経済成長~バブル期の団体旅行に最適化された旅館・ホテルが多く、彼らのような水準の高い旅行客とは、いささかミスマッチのように感じます。

土産物などは典型で、道の駅から土産物品店、ホテルの売店まで、色々見てみましたが、彼らのような文化的水準の高い観光客の琴線に触れるような商品はあまり見かけませんでした。
店側がそのような商品をこれまで扱ってこなかったし、そのノウハウがない、というのもあるかもしれません。
が、訪れる観光客のニーズを的確に捉えていない、あるいはあまり関心を払っていないかのように感じることもあります。
端的にいえば、研究不足の感が否めません。

 

インバウンド客向けの日本産高級茶があってもいい

お茶という観点でみれば、北海道は茶産地では無いこともあり、やはり”抹茶”を使ったお菓子程度しか、店頭で茶を感じることは出来ません。
これは非常に勿体無いことでは無いか、と感じています。

というのも、個人旅行をするような文化的水準の高い中国人観光客は、最近の常識として、茶や茶文化についての関心が高い方も多いのです。
このような方々は、一般にイメージされるような爆買い観光客とは違い、安易な抹茶のお菓子程度では飛びつくことはありません。

その一方で、日本もお茶の国だという認識はあり、その茶文化というのは相応のものがあるという意識はあります。
そこに訴えかけるようなお茶やお茶関連商品がなぜないのだろうか、と感じます。

たとえば、日本のお茶の中にも、苦渋味が少なく、香りの良い、中国人好みのお茶というものもあります。
そうしたお茶を中国人向けに徹底的にマーケティングを行い、中国人が飲んでも美味しい日本の高級茶として売り出していく。
それらを地元ならではのパッケージデザインで販売するなどすれば、茶の産地が北海道でなくても、十分に土産物や個人の消費茶として受け入れられる素養はあるのではないかと感じます。

地元の業者の方からすれば、地元にあるものを売るのが土産物、ということになるのかもしれません。
しかし、海外からのインバウンドの観光客にとっては、それが少なくとも「日本」のお茶であり、北海道らしい雰囲気のある商品であれば、道産であるかどうかはあまり関係がありません。
インバウンド客は、地図の縮尺が国内の観光客とは全く違うのですから、それに合わせて、商品も企画する必要があるように感じます。

これは異端の考えのように感じられるのかもしれません。
が、そもそも、ダージリンの生産者は、地元の消費者のことを念頭に置いて商品を作るわけではなく、海の向こうの消費国の顧客に合わせて商品を開発しています。
「そんな文化は地元にないからダメだ」ということは考えません。
グローバルな商品開発というのは、そもそもそういうものなので、茶産地であろうがそうでなかろうが、こうしたスタンスで商品開発を行うメーカー・販売店が出てくれば、茶業界の革命児になり得るかもしれません。

 

次回は9月10日の更新を予定しています。

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