第55回:「一帯一路」を契機とした茶文化の輸出は成功するか?

中国向けの論文テーマを考えた

先日、中国の茶に関する研究団体に論文を提出する機会がありました。
中国向けの文章ということなので、テーマを何にするかは、少々気を遣って考えなければならないところです。

何でも受け手があってこそ・・・と思いますので、こちらの書きたいことを書くというだけでは、あまり意味がありません。
あくまで向こうが知りたいこと、知っておいた方が良いこと、今後に役立つであろうことをテーマにしたいと思いました。

現在、中国は国策として「一帯一路」に取り組んでいます。
その構想や将来が良いものかどうかという評価はとりあえず置くとして、現実問題、茶業界でも「一帯一路」に絡めたプロジェクトが多数動いています。

何故、そのようになるのか?は、その方が政府からの受けが良いから、です。
何らかのプロジェクトを進めるにあたり、「これは一帯一路を実現させるためのものです」という話をするのとしないのでは、進み方が全く違います。
いずれも社会正義に大いに資するとされるプロジェクトが2つあったとして、予算がどちらか一方にしか投じられないのであれば、より国策に乗った方が優先されます。
これが中国の政策決定のリアルなので、一帯一路に絡められるところはとりあえず絡めてくる・・・というのが中国流です。
要するに「流れが来ている」というキーワードなのです。繰り返しますが、その国策が良いかどうかは別の問題です。
自分のやりたいことを実現させるために、乗れるものには乗っておく・・・というのが、彼の国の処世術です。

 

「茶文化の輸出」というキーワード

そのような流れから、最近では、中国でも「茶文化の輸出」というキーワードが、浮かび上がってきています。

中国の茶の生産余力を考えると、国内の需要を対象とするだけでは、いささか多すぎるのです。
今はどうにか国内で消費し切れても、先々を考えると、やはり海外への販路を開いておくべきではないか・・・というような危機感が政府側の一部にはあります。

そこで「一帯一路」です。
この流れに乗る形で、既に「万里茶路」などには多くの投資が行われ、茶園や観光地開発などが進んでいます。
これによって、茶産地として再興してきている地域もあります。

 

そこから、さらに進めて「一帯一路」の沿線国家に、中国で飲まれているお茶を輸出していく・・・という看板を掲げれば、それはどんどんやりなさい、という追い風を受けることができます。

しかし、そのままの状態で輸出したところで、中国茶は国際市場での価格競争力は、さほどありません。
紅茶であれば、ケニアなどのアフリカ産の茶葉の方がはるかに価格競争力があります。人件費の高騰もあり、その勝負を挑んでも勝ち目はありません。
そこで中国独特の「茶文化」(高級茶を楽しむ習慣を含む)ごと輸出して、新たに市場を開拓できないか・・・というのが、一部で掲げられている主張です。

もっとも、これは現実の茶業者たちは、あまり積極的ではありません。
なぜなら、現時点では国内市場の方が遙かに開拓しやすく、余地も大いにあるからです。
その果実を得てから取り組んでも遅くはない、と中国の茶業者は比較的後回しにしている項目です。
なにより、異国に文化を植え付けていくというのは、一企業ではどうにもならないような重いテーマです。
実務家である茶業者は現実的に判断します。

 

異国に茶文化が根付くということ

このような状況を踏まえた上で、日本の状況を見ると、かなり面白いケースなのではないか、と思います。

自国独自の茶文化があるところに、中国茶や紅茶(とりわけ英国式)などの茶文化がある程度、根付いているわけです。

日本人は、元々お茶を飲む国民なのだから、よその国のお茶を飲んでも当然ではないか!と思う方もいらっしゃるかもしれません。
が、確かに植物レベルでは同じかもしれませんが、茶器や飲まれ方は全くの別文化です。
もっと言うならば、日本茶は飲まずに、いきなり中国茶や紅茶からお茶を飲み始めるという人も存在します。

日本茶と紅茶と中国茶は、それぞれ単純な延長線上には無いのです。
それぞれ、別のカルチャーであると捉える方が、より現実的な考察だと思います。
※もちろん、それぞれのお茶を自由に行き来する方もいらっしゃいますが、これは伝統的な日本茶の消費者で括れない消費傾向です。

当然ながら、このような状況は、全て歴史の結果です。

誰が、どのようにお茶を導入し、そこでどのような人々・茶業者がどのように奮闘したのか。
さらにいうなれば、その当時の時代背景や人々のライフスタイルはどのようなものだったのか。

こうした歴史を包括的に見て、要因を分析すること。
さらに、今後の動向(人口動態や流通環境など多岐にわたる項目)を分析することによって、今後どうなるのか、あるいは今後どういった手を打つべきなのかが明確になるのです。

 

・・・という、裏付けをもった上で、「日本における現代中国茶の普及の歴史と展望」という小論文を書きました。
日本での現代的な中国茶は、2度のブーム(日中国交正常化後、2000年前後の香港・マカオ返還時を契機としたもの)によるものであり、それぞれは違う要素を持ったものであるということ。
さらに、今後、第3次ブームが起きるのかどうか?という点について、現在の動きなどを整理して考察しています。

あくまで中国向けに書いた文章ですが、機会があれば、日本の方にもアレンジした上で、ご紹介したいと思います。

 

次回の更新は10月31日を予定しています。

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