第177回:情報の”水道哲学”と無料情報の限界

久しぶりの更新となります。

ここのところ多忙であったことと、情報発信の方法について色々考えるところがあり、一時的に更新を中止しておりました。
今回より、従前の更新ペース(月2回)に戻して行きたいと思います。

さて、今回は再開するにあたり、この間に考えていたことを少し記しておきたいと思います。

「情報」のレイヤー

昨年の年頭に当社の事業目的について記載しました。

第158回:事業目的は何か?にお答えします

基本的にここからぶれることはなく、現在も同じようなことを考えています。

「これを実現するためにどうするか?」を考えていくことになるのですが、欠かせない手段・要素として「情報」があります。

この「情報」にも様々なレイヤーがあり、それを切り分ける形で情報発信を行っています。
ザッとこの種類を列挙すると、

a.全くお茶に関心を持っていない人の関心を喚起させる情報(普及情報)
b.興味を持った人に基本的な内容(淹れ方等)をお伝えする情報(基礎情報)
c.ある程度詳しい方に対し、さらに関心を喚起する情報(喚起情報)
d.茶業者などのプロフェッショナル向けの情報(専門情報)
e.学術的な研究に活かすための情報(学術情報)

などがあると考えています。

当社の場合、現在はbとcに特化しています。

bについては、Webサイト「Teamedia」とYouTube
cについては、Webサイト「中国茶情報局」と「Teamedia Salon」やメールマガジン、そして「Teamedia Online School」で実施している各種の講座、イベント等。

一部、講師の育成プログラムを実施したり、dの領域にも若干踏み込んでいますが、基本的には上記の2つのレイヤーが主です。

 

お茶の普及に必要なものは質の高い「基礎情報」

さて、お茶の普及ということを考えると、どんどんaの「普及情報」を出すべきではないか?と思われるかもしれません。
しかし、bの「基礎情報」がきちんと揃っていないと、せっかく関心を持った方は定着しません。

「こんなにお茶は面白いですよ」と言いながらも、どうやってお茶を楽しむのかは「教室で教えます」「この本を買ってください」など有償だと思いきれる人は少ないでしょう。
また、無料で提供されていたとしても、分かりにくかったり、見映えのしないものであれば、やはり手を伸ばしてはもらえないものです。

興味を持ったあと、それを実践するための「基礎情報」が整っていないと、いかに関心を喚起しても実にならないのです。
そして、この「基礎情報」はできれば無償に近い形で供給されるべきではないかと考えています。

それこそ、松下幸之助氏の”水道哲学”ではないですが、水道の蛇口をひねる程度の労力とコストで、すぐに得られるようでなければなりません。
また、水であれば安全性や味などが担保されている必要があるのと同じで、情報の品質も担保されていなければなりません。

たとえば、現代であれば調べ物はインターネットで行うことが一般的です。

「ネットで検索すれば、きちんと分かりやすい記事が出てくる。YouTube等で分かりやすい動画が出てくる」

という状態ができていないと、扉を閉ざしているのと変わりません。
パンフレットや冊子よりも、ネットで見つかることが大事です。

そして、できればコストの負担がなく情報を得られることが好ましいでしょう。
取得のハードルが低ければ低いほど、試してもらう機会は増えるはずだからです。

 

情報の無償提供の限界

安全な水道水を供給するには、浄水場や張り巡らされた水道管のような莫大な設備と高い専門技術を擁した多くのスタッフが必要です。
普通に考えると高額な水道料金を負担しなければならないところですが、生きるために必要なインフラでもありますから、水道料金は低廉に抑えられています。

さて、情報についてはどうでしょうか?
情報の発信も、本来はかなりのコストが掛かるものです。
取材や文章、写真撮影、動画の作成などを考えると、全くのゼロコストでできるものではありません。

個人発信などであれば、本業の合間に趣味の一環として行うこともできるでしょう。
しかし、専門的な情報発信を継続していくことは個人では限界があります。
本来あるべき姿としては、業界全体のことを考えられる業界団体などが、きちんと予算をかけて上手に情報発信を行っていくべきです。
情報発信のコストは、論文等で根拠を確認する・写真やイラストを専門家に依頼するなど、きちんとやろうとすれば莫大なコストが掛かるものだからです。

あるいは、専門店などの方が顧客サービスや自社製品のプロモーションの一環として情報発信をするケースもあります。
この場合は、諸々のコストは商品やサービスの売上で回収することになりますから、無償で提供しても問題は無さそうです。

しかしながら、どうしても自社製品・サービスを抱えている以上、内容は自社製品・サービスの優位性のPRになってしまいがちです。
ポジショントークが多分に含まれることは、情報を受け取る側の方が注意しなければいけないところです。

しかし、始めたばかりの方は、何が正しく、何が間違っているか分からない状態で、このような情報に接することになります。
「情報の真偽を確かめよう」と言ったところで、そもそも判断基準がないわけですから、どうしようもありません。

実際、このようなケースは最近非常に多くなってきており、講座などを受講いただいた方が、深刻な考え違いをしているケースも多々あります。
自社製品の説明・優位性の解説には使えるが、世間一般の常識と乖離した情報というのは、非常に多くあるのです。
そのような方は、他で出回っている情報とのギャップを処理しきれず、混乱に陥ってしまうことがしばしばです。
現地の情報を正確に消化できないような思考になってしまいます(現地の茶業者との意思疎通が困難になります)。

具体的な質問を発してくださったり、個別の授業などであれば、事細かく説明をして、スッキリと問題を解決できるのですが・・・
残念ながら同じような誤解やモヤモヤを抱えたまま、挫折をしてしまい、お茶から離れていく人は少なくありません。

愛好家の裾野を広げていくという観点に立つと、このような誤情報は無くなって欲しいのですが、表現の自由が認められていますので、そうも行きません。
より分かりやすく、明解な情報発信をし、それができるだけ人目に触れるような形(検索で上位表示される等)にしていき、新しく始める人にきちんと届くようにして行く。
そして、正確な知識や情報を持った人の割合を少しずつ増やしていくしかありません。

いずれにしても、無償の情報提供は良いことではあるのですが、副作用も相応にあることは把握しておくべきことでしょう。
なお、当社の場合は講座の収益やメディアの運営による収益を原資として、極力公平な情報発信を行うように努めています。

 

学術・専門情報~喚起情報~基礎情報の整合性を取り、基礎情報の品質を高める

上記のような状況であることを踏まえ、情報発信のスタイルを少し変えていくこととしました。

まず、大事なことは、専門情報~喚起情報~基礎情報までの整合性を取るということです。
「分かりやすさを優先する」という名目で、あまりに単純化してしまったり、適切では無い比喩を用いて説明を行ってしまうケースが散見されます。
しかし、このような形で学んでしまうと、後々、より高度な内容を学ぶ際の障害となることもあります。
このようなことがないように、きちんと専門情報にも当たって根拠を確認した後、それをよりブレイクダウンして分かりやすく落とし込む、ということです。

これは従来も徹底して行ってきたことですが、今後もこの方針は徹底していきます。
また、専門情報を必要とする専門店や講師の方もいらっしゃいますので、その方々に情報提供ができる仕組みも検討しています。

次に、基礎情報の品質を高めるということです。
具体的には、TeamediaやYouTubeの更新を再開していきます。
内容としては、いずれもほぼ必要な項目は網羅しているのですが、同じ事象でも様々な角度から説明することで理解が深まることもあります。
そのような切り口を変えた記事や動画を投稿していきます。
そして、更新を頻繁に行うことでメディアとしての注目度を高め、場合によってはプロモーションなどに利用いただけるようにします。

必要な人に、必要な情報をきちんと届けられるようにしたいと考えておりますので、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

次回は2月20日の更新を予定しています。

 

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