第22回:産地からの情報発信は次のステージへ

偽物・コピー商品の最大の被害者は誰か

ご存じのように、中国はあっという間にコピー商品が出回る国です。

良く言えば「機を見るに敏」であり、市場のニーズにいち早く応えるフットワークの良さ、速さがあるということになります。
悪く言えば、知的財産などへの意識が低い、売れれば何でも良いの拝金主義・・・と、いくらでも表現することはできそうです。

日本も含めた、海外の企業のコピー商品(と呼べないほど劣化したコピーも多くありますが)が、日本でもよく報道されます。
そのため、「コピーされるのは、海外の優れた商品ばかりでは・・・」と思われるかもしれませんが、実際にはコピー商品の被害にいちばん遭っているのは、優れた商品を生産している中国企業です。

これはお茶でも例外ではありません。
今やお茶の価格は1斤10元程度~1斤1万元を超えるまで、価格の幅が広がっています。
高額な茶葉ほど、利ざやは大きくなりますので、知名度が高いお茶ほど、そのターゲットになりやすくなります。

西湖龍井などを例に挙げると、清明節よりも前に摘まれる明前の西湖龍井の価格は1斤数千元に上ります。
このお茶を騙った、より南方の産地(浙江省南部や四川省など)のお茶が、茶摘みの前に店頭に並んでいる・・・ということも、かつてはありました。

しかし、現在は 前回のブログ にもあった、地理的表示製品としての保護が進んだことや、地理的表示製品を管理する団体(西湖龍井茶協会など)による摘発、産地側の様々な取り組みによって、このような露骨なコピー商品は激減しています。

 

偽造防止のシステム開発

産地側の取り組みの1つとしては、偽造防止のためのITを使ったシステムがあります。
現在、西湖龍井茶の正規の販売店(もしくは茶農家)で茶葉を購入すると、このようなシールが貼られていることがあります。

シールには、QRコードと銀色のスクラッチ部分があります。
スマートフォンでQRコードを読み込むと、西湖龍井茶のブランドを管理する協会のWebサイトが表示されます。

そこにスクラッチ部分の下に書かれている、11ケタの番号を入力し、検索ボタンを押します。
すると、そのお茶が本物であるかどうかとこの番号は何回検索されたか(番号の使い回しができないよう、確認のため)が表示されるほか、さらには生産者(販売者)の名前や住所、保有している茶園面積などの情報が出てきます。

このお茶は梅家塢の農家で購入した西湖龍井茶のものですが、その購入した農家の情報がハッキリと出て来ます。

西湖龍井の場合は、真偽判定と生産者の特定までですが、ほかの名茶の産地の中には、生産者の情報だけではなく、農薬の使用履歴や茶葉の場所まで特定できるようなシステムを開発しているところもあります。

よく「お茶は信頼の置けるところで購入するべき」と言われますが、その信頼の部分を地元の公的な協会などがシステムという形で担保しているわけです。
信頼とは目に見えないものですし、初見の人にとっては全く分からないものです。
が、このような形で明示されると、少しは信頼も補完されますし、なにより、初めて購入する人にとっては、一つの目安となります。
新規ユーザーを獲得していく、消費者に安心してもらうという点では、面白い試みだと思います。

 

産地が行うメディア戦略

こうしたシステム以外にも、茶産地が行っていることとして注視すべきなのは、メディア戦略です。

西湖龍井や洞庭碧螺春などの、著名な名茶の産地では、その年の新茶が出回る前に、何回か報道関係者を招いて、記者会見を行っています。

そこで、今年の新茶の作況や茶摘み日の発表などを行っています。

元々の狙いとしては、産地側で例えば「今年の茶摘みは3月20日」と決定した情報を伝えることで、それ以前に出回っている製品は、すなわちニセモノであるというアナウンス効果を期待したものでした。

しかし、最近では、この機会をさらに有効に活用してきているようで、「産量が減少することや人件費の増加などから値上がりする見込み」など産地側が、価格に影響を与える要因について言及を行いながら、茶商の価格見通しを組み合わせて報道されたりしています。
消費者にとってみれば、この情報は、そのお茶の相場観を掴むことになりますので、「そこからあまりに乖離した価格のお茶は、本物ではないのではないか?」という判断材料を得ることになります。さらには、作況などが伝えられることにより、年ごとの味わいの違いを楽しむという感覚も生まれてくることになります。
産地側にとってみれば、このように作況や価格に影響する動向をメディアを通じて示すことで、価格の決定権を流通業者側に握らせず、生産者側に留めおくことができます。

もっとも、まだ知名度の低い新興産地などでは、ニュースとしての価値が薄いため、そもそもメディアに採りあげてもらえません。
そこで、人目を惹くような「茶摘み祭り(開茶節)」などを実施し、一風変わったコスプレ風の茶摘み風景や茶芸コンテストなどを一緒に行い、写真や映像映えするような場を作り出したりしています。さらには中国ならではですが、地元の有力な共産党幹部を引っ張ってきたりして、ニュースとしての採りあげてもらえるような工夫を行っています。

 

このように、当初は偽物の防止を目的として行ってきたかのような産地による記者会見でしたが、今ではブランドの構築には必要不可欠なものになってきており、消費者が産地の情報を得ながら茶を消費するという点でも、不可欠な存在になりつつあります。

日本国内では、茶に関しては、情報・メディア戦略が比較的立ち遅れており、メディア側からのアプローチを待つような受け身的な報道ばかりが目立ちます。積極的な情報発信戦略・メディア戦略を持つことも、今後の茶業を考える上では大切になるかもしれません。

 

次回は8月21日の更新を予定しています。

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