第117回:量販店のお茶と専門店のお茶-それぞれの役割

量販店で気軽に買える中国茶の品質とは

最近、中国茶初心者になったつもりで、スーパーや輸入食品店など、一般の人が足を運びそうな量販店で買える中国茶を試しています。

中国茶専門店や中国や台湾など現地で買うようになると、この手のお茶には全く手が伸びなくなるものです。
国内で買う場合は、安さよりも美味しさや珍しさを優先しがちですし、安いものはむしろ現地に頼りがちです。
そんなわけで、この類いのお茶は、かれこれ10年以上、まともに飲んでいなかったように思います。

正直、「お徳用のものばかりで、色が付いているぐらいで香りも味わいも無いものが多いのでは・・・」と思っていたのですが、どうも、そういう商品はほとんど売場から淘汰されてしまっているようです。
品質の絶対値では専門店の茶葉には敵いませんが、価格を考慮に入れたコストパフォーマンスは納得できるものが多く、もう少しちゃんと評価されても良いように感じます。

今回は、量販店に置かれている中国茶と専門店の中国茶の役割と中国茶市場の拡大について、少し考察をしてみたいと思います。

 

量販店の棚から消えて久しい中国茶

初心者の方は、身近なお店で買えるお茶から中国茶の世界を垣間見ることが多いです。

とはいえ、最近はスーパーなどの棚に並ぶ中国茶・台湾茶の数は、往時に比べると大分減っています。
それなりにお茶の品揃えが多い店でも、ジャスミン茶、烏龍茶(多くは黒烏龍茶)、プーアル茶が、それぞれ1商品か2商品程度。全部で5~6商品あれば良い方です。
そのようなお店でも、紅茶やハーブティーの品揃えは充実していて、日本茶も一緒に数えるとお茶製品だけで100種類以上あったりします。
中国茶よりもルイボスティーの方が種類が揃っていたのには、軽くショックを受けました。

このような状況になったのは、もちろん中国茶の販売不振が原因だと思います。
2010年前後が一つの転機であったと思います。

その原因を挙げるとすれば、まず、2007年には段ボール肉まん事件や2013年の冷凍食品への農薬混入事件などで、中国製食品に対してのマイナスイメージが付いたこと。
さらに尖閣諸島問題に端を発した緊張状態が続き、両国ともに相手国に対してのイメージが低下したこと。
特に2010年は名目GDPで日本が中国に抜かれたタイミングでもあり、経済と軍事の両面で中国脅威論も高まっていた時期です。
中国に対して、あまり愉快に思わない雰囲気であったことは否定できません(今でもそうだと思います)。

供給サイドの問題で言えば、2013年頃に福建省産の烏龍茶から残留農薬の検出が相次いだことも大きいと思われます。
これによって製品の回収や廃棄に追い込まれた会社も多くあります。
さらに売り上げの不振や単価の向上も見込めないとなれば、中国茶の輸入から撤退しようとする業者が増えるのは必然です。
結果、大手量販店に対応できる物量と品質管理体制を有した輸入業者は、現在では非常に限られており、パッケージは違えど輸入元は一緒、というのはよくあります。

このような状況が数年続けば、量販店に並べられる商品アイテム数はどんどん少なくなり、さらに売場での存在感が減少。
売場に商品が並んでいないので、消費者の購入選択肢からは中国茶が完全に消える・・・という負のスパイラルに陥っているように感じます。

 

量販店の店頭に十分な商品が無いのであれば、何らかのきっかけで中国茶が注目されても、そう簡単に中国茶ブームは訪れないと思います。
ブームというのが、燎原の火のようなものであるとするならば、残念ながら今の中国茶市場は、すぐに燃え広がりそうな枯れ草一杯の草原の状態ではなく、ところどころに樹木のある砂漠のような状態です。
このままでは何らかの火の手が上がったとしても、ボヤ程度で終わってしまいそうです。

 

品質高まる中国茶専門店の中国茶

上記のような日中関係は、中国茶専門店の減少にも繋がっています。
主に2010年代は中国茶市場が縮小の時代だった、ということだと思います。

反面、良いこともあります。
ここ10年ほどで、小口輸入をしている中国茶専門店の茶葉の品質は、かなり向上しているように感じます。

この理由としては、まず現地に買い付けに行くバイヤーの方のスキルが向上しているということです。
2000年代は、現地への買い付けと言っても、その仕入れ先は中国であれば上海や広州など大都市の茶城(茶葉市場)、台湾であれば、台北市内の日本語の出来る店員さんがいる専門店、というケースがかなりありました。
しかし、2010年代以降は、いずれも茶産地に入り込み、もう少し上流からお茶を買い付けているバイヤーが増えてきています。
そのような仕入れスタイルになると、あまり多くの産地を訪問することは、物理的に不可能です。
必然的になんでも揃うような総合的な中国茶専門店というよりは、特定の産地や茶種に絞ったカテゴリーキラー的な店になっていきます。

こうした産地特化型の専門店が、それなりに成立するのは、何度かの中国茶ブームを経て、確実に味の分かる消費者が育っていることも見逃せません。
上記のような仕入れをしてくると、どうしても現地でも高価格帯のお茶が中心になりがちです。それにお金を払う消費者がいなければ、ビジネスにならないからです。
バイヤーの方自身が、現地で飲んで感動するクラスのお茶を仕入れてくるので、お茶のクオリティーも上がりますが、現地での買い付けグレード(価格)も上がります。

さらに中国は人件費の高騰がすさまじく、同じグレードのものは毎年1割ぐらいずつ値上がりするのが普通です。
仮に10年前と現在で同グレードのお茶を比較できたとしたら、価格は数倍になっていると思います。
デフレの日本では考えられないことですが、それが中国茶のリアルです。

結果、量販店の茶葉の価格と専門店の茶葉の価格は、相当な開きが出ています。
この両者のギャップがかなり大きくなっているため、中国茶に興味を持った方へ、どのような商品・お店を紹介するかは非常に悩ましい状況が続いています。
個人的には後者の専門店品質のお茶を推したいのですが、日本茶の相場観(100g1000円以上は高級茶という感覚)で凝り固まっている方には、非常にそれは難しいことになります。

 

量販店のお茶から、専門店のお茶までの流れをどう作るか

ここまで読めば、「日本の中国茶市場は暗い」という結論になるでしょう。
しかし、そこをどうにかしなければなりません。
「あきらめたらそこで試合終了ですよ・・・」と誰かが言っていました。

理想と現実のギャップを把握し、それを一つ一つ解決していくしかありません。
市場というのはそうやって作るものです。

ここで中国茶の市場を広げるという点で、好都合な状態というのをイメージしてみましょう。

まず、門戸となるのは、やはり多くの消費者が来店する量販店だと思います。

一定程度のクオリティーを確保しつつ、価格的にも量販店に並べられるようなお茶。
これがある程度の種類、バリエーションを備えて、店頭に並んでいること。
できればパッケージや飲み方なども提案し、限られた棚の有効活用を考える量販店サイドを納得させるレベルの商品が必要だと思います(品質だけでなく目で見て分かりやすいこと)。
※ただ、足を運んで「置いて下さい」という営業は今や通用しません。

この仕掛けでもって、中国茶の世界をできるだけ多くの方に覗いていただく。
すると、一定の割合の方は、さらにお茶に関心を持つと思います(全員は無理です。マーケティングは確率論です)。

その人たちに適切な情報を伝え、専門店グレードのお茶まで、徐々にステップアップするような道を示していく。
そこには歴史や文化も必要でしょうし、食事やお菓子と合わせることも必要でしょうし、美しい設えなども必要かもしれませんし、科学的でロジカルな説明も必要かもしれません。
これらは得意とする方が、それぞれの持ち場で腕を振るうことで、なんとなく実現できそうな気もします。

それぞれの持ち場を理解し、それぞれの立場を尊重し、それぞれのベストを尽くす。
市場を作るのに必要なのは、プロフェッショナルのそうした地道な努力なのではないかと考えています。

 

次回は4月16日の更新を予定しています。

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