第126回:中国茶・台湾茶の個人輸入にある多くの障壁

長引く状況に痺れが切れる?

新型コロナウイルスの流行が世界的に始まってから、1年半以上が経過しました。
これまで普段の生活で日常的にしていたことが出来なくなる、出来たとしても様々な制約が課されるなど、未だに不自由な状況は続いています。
特に旅行、とりわけ海外への渡航も出来なくなっていることは、海外にしょっちゅう行っていた方にとっては閉塞感を覚えていることでしょう。

中国茶や台湾茶の愛好家の方の中には、旅行の楽しみとして、中国茶や台湾茶を現地のお店などで購入していた方も多くいらっしゃいます。
毎シーズン、現地を訪れて、その新茶を現地で味わうことを楽しみにしているとすれば、昨年の春と、今年の春で既に2シーズン。
台湾茶のように春茶・冬茶のような年2回のシーズンがあるものならば3シーズンを逃しており、さらに今後も何シーズンかは見送らざるを得なさそうです。

このようになってくると「せめて、お茶ぐらいは現地から取り寄せができないか」と考えるのは、心情的に大変共感できるところです。
「日本ではお茶の値段が高い(後で説明しますがフェアプライスが多いです)」と感じているケースもあれば、「日本では取り扱っていないお茶が飲みたい」というケースもあるでしょう。
実際、そのようなお問い合わせや質問を受けることも多くなってきました。

そこで、今回はこのことについて少し考えてみたいと思います。
個人的にも、日本未発売のスマートフォンやカメラ、ガジェットなどを香港やアメリカの業者から、個人輸入する程度には個人輸入歴はあります(茶葉や茶器も何度か取り寄せています)。

まず最初に2つのことをお話ししておかなければなりません。
一つは、何かモノが国境を超えることは「輸入」に当たるということ。
もう一つは、茶葉のような「食品」あるいは茶器のような「食器」は口に入るものなので、輸入に際しては厳格なルールがある、ということです。

 

輸入には2種類ある

まず、大事なことは海外からモノを取り寄せることは、単なる「買い物」ではなく、法律上は「輸入」という行為になるということです。
輸入というと、非常に難しいもののように感じますが、国境を越えて何かを購入したら「輸入」だということです。

輸入も大きく分ければ2つの輸入形態があります。
「個人輸入」と「商業輸入」です。

「個人輸入」というのは、個人が使用する目的で輸入するものです。
この場合、輸入禁制品等で無い限りは、購入した商品に何らかの問題があったとしても自己責任と解釈されます。
本来であれば、輸入において様々な規制があるものであっても、比較的容易に入手することが可能です(何かあっても自己責任なので)。
ただし、個人輸入でも、輸入には違いないので、輸入に際して関税がかかる商品の場合は、関税がかかります。

「商業輸入」というのは、輸入したのちに第三者に販売する目的で輸入するものです。
この場合は、輸入したものが日本国内で商品として流通することになります。
仮に何らかの問題がある商品(たとえば有害な成分が含まれていた等)が国内で流通してしまうと国民の人体や生命に危害を及ぼす可能性もありますから、こうしたものは関連法で規制されています。
これらの関連法に適合するものであるかどうかを、輸入時に所轄省庁に届け出て、必要な検査等を行って、問題が無いことを証明しなければなりません(検査費用等は輸入者負担)。
問題無い商品であるとなれば、輸入許可が下り、初めて国内で流通させることが出来ます。

今回のケースのように、自分が消費する目的でお茶や茶器を現地から購入するのであれば、「個人輸入」扱いとなりますので、輸入金額によっては関税(と消費税)を支払う程度で済みます。
商品代金と送料が併せて1万円以下の少額であれば、関税も発生しない可能性がありますので、普通にネット通販をするのとあまり変わらない感覚で輸入が出来ます。
ただし、個人輸入か商業輸入かを判断するのは、原則、税関が行います。
量があまりに多かったり、取り寄せ頻度が多かったりすると、商業輸入扱いにされてしまう可能性もあります。

 

食品・食器の商業輸入には厳格なルールが

個人輸入であれば問題無いのですが、仮に商業輸入となると、食品衛生法に基づく規制がかかります。
食品衛生法では、販売の用に供し、又は営業上使用する全ての食品、添加物、器具、容器包装又は乳幼児用おもちゃの輸入について、そのつど厚生労働大臣に届け出なければならない旨を定めています(無償配布、頒布の場合も必要)。
茶葉や茶器はこれに該当しますので、商業輸入を行う際は、検疫所に「食品等輸入届出書」を提出し、輸入許可を得なければなりません。
この際、残留農薬や茶器の成分の検査報告書などの提出を要求されることもあり、その費用負担を輸入者が負わなければならないことも生じます(農薬の検査費用だけで1サンプル数万円+検査に必要な量の茶葉の価格です)。

個人がやるには、非常に面倒な手続きで割に合わないのですが、このような仕組みがあることで、日本国内では健康被害の出るような食品の流通が水際で止められているわけです。
※かつてはダイエット茶などの個人輸入で被害が出たケースもあります。少し古いですが、神奈川県の調査結果を参照ください。 個人輸入によるお茶の調査

商業輸入を行った茶葉が、現地の茶葉価格よりも高額になるのは、現地からの送料だけでなく、この食品輸入許可に係る費用などが付加されるためです(後述しますが、台湾は輸出時の検査も必要)。
個人輸入の茶葉よりも、商業輸入の茶葉が高くなるのは、こうした制度が敷かれているからであり、決して不当な利益を乗せている訳ではありません。

 

最低限、以上のことを踏まえた上で、個人輸入に挑戦する必要があります。

もし輸入とか関税とか難しそう、と思うのであれば、止めておいた方が良いと思います。
素直に日本の業者さんが商業輸入した茶葉を少量ずつ購入した方が、憂いなくお茶を楽しむことができるでしょう。

それでも挑戦してみたいという方は、以下のような障壁を越えていく必要があります。

 

台湾からの個人輸入の場合

個人輸入を行う上で、比較的やりやすいのは台湾からの輸入です。
ただし、いくつか留意すべき点があります。

茶葉の輸出制限・2kg以下について

台湾から茶葉を輸出(台湾国内から海外に発送)する際、2kg以上の茶葉は輸出許可証の取得が求められます。
輸出許可証の取得には、農薬検査を行って証明書を添付するなど、煩雑な輸出手続きが必要になります。
ある程度の数量・金額になる商業輸入であれば、現地の業者の方で対応してくれるでしょうが、少量の個人輸入でこの対応を求めるのは現実的ではありません。
そのため、台湾からの個人輸入を行うのであれば、いくつかの種類を購入するにしても、全体量を2kg以下に留める必要があります。

決済方法について

台湾もオンラインショッピングが普及しており、現地のネットショップから直接発送してもらおうと考える方も多いかもしれません。
しかしながら、現地の決済システムが海外発行のクレジットカードを受け付けてくれないケースも多く、決済代金のやりとりで止まってしまうことが少なくありません。
日本向けのWebサイトを持っていたり、決済方法にPayPalや日本の銀行口座を持っているなどがあれば対応は可能ですが、そうでなければ非常に難しくなります。
※現金を郵便で送れ(台湾では禁止)、友人に振り込んでくれ(トラブルの可能性)、カード情報を伝えてくれれば台湾の店の端末で決済する(危なすぎます)などの話には乗らないようにしましょう。また、現地の銀行口座に海外送金となると、送金手数料の高さに目を丸くすると思います。

上記のような制限事項があるので、現地のローカルな茶荘や茶農家から取り寄せるのは、なかなか難しいというのが個人的な印象です。

台湾からお茶を取り寄せるのであれば、

・海外発送が可能かどうか?
・決済方法があるか?

を確認にて、取り寄せるという流れになるかと思います。
一部、日本人向けの通販サイトを設けているお店もありますので、そうしたお店を見つけると良いと思います。
※個人的に購入したことのある店が無いので、ここでの紹介は避けます。

 

また、Webサイトなどに明記されていなくても、比較的、取り寄せしやすいのは日本人観光客が多く訪れる、台北などのお茶屋さんです。
こうしたお店では日本語での問い合わせ・対応が出来るお店もありますし、常連客から定期的に取り寄せの注文が入るなど、お店の方も慣れています。
決済方法なども用意されているケースが多いので、そうしたお店に一度相談をしてみるというのが、現実的かもしれません。

いずれにしても、お茶の通販は、お店の味が分からないとなかなか難しいものです。
お店の新規開拓をするというよりは、今まで行ったことのあるお店に、信頼しているのでお茶を送って欲しい、とオーダーするのが一番スムーズかと思います。
一度、お店に来ているお客さんからのリピート注文であれば、現地のお店の側でも安心できるかと思います。

個人的な経験でも、何度か訪問したことのあるお店から、日本の指定の口座に振り込むなどして取り寄せたことは複数回あり、非常にスムーズな取引が出来ています。
※業務用には使用できないので、個人用途のみですが。

 

中国からの個人輸入の場合

中国は台湾以上にECが盛んな国ですが、一部の日本人向けにサービスをしている(Webサイトを作っている)お店を除いては、コネのない日本人が個人輸入するのは非常に難しいと思います。

一つは、台湾以上に業者の信頼度を確認することが難しいこと。
さらに言えば、信頼度の業者がある大手業者に注文すると、日本で買うものとほとんど品質と価格が変わらないこと。
もう一つは、台湾のところでお話をした通り、決済手段の問題です。

従来から知り合いのお店などと微信(WeChat)などで繋がっていれば、直接やり取りをして注文し、茶葉を送ってもらうことは可能です。
決済方法もWeChatPayかAlipayが使えるのであれば、それで瞬時に決済可能なので、ストレスは無いでしょう。

しかし、これには中国語がある程度出来ることとWeChatPayとAlipayが使用できるという、日本人にはかなり高いハードルがあり、あまり現実的ではありません。
出来る人は既にやっていると思います。

おそらく、一般の方ができるのではないか?と考えるのは、AliExpressや淘宝網(タオバオ)あるいは天猫(Tmall)あたりのお店で購入し、それを送ってもらうことだと思います。
日本向けのタオバオ画面では、クレジットカード決済が出来たりしますし、代行業者・転送業者を挟めば可能ではないか?と考えるのだろうと思います。
しかし、個人的にはあまりお薦めできない方法です。

信頼できる業者を見つけるのが、とにかく難しい

まず、一番の問題は数多くある店舗の中から、信頼できる業者を見つけるのが難しい、ということです。
正直なところ、中国の商習慣は良くなってきているとはいえ、未だにピンからキリまでの幅が広いものです。

特にネットショップは、実体が伴っていなくても、写真やWebページの出来さえ良ければ、良さそうに見えてしまうものです。
レビューを参考にするといっても、中国の業者の製品にサクラレビューが横行するのは、日本のAmazonを見ていても良く分かる通りです。

また、日本の楽天などのネットモールでもそうですが、売上や人気ランキング上位に来るのは、多くの広告を投入しているか値段が安いものばかりです。
粗悪品を販売する業者も未だに多く、写真とは全く別物のお茶を送りつけるとか、緑色の鮮やかな安渓鉄観音を買ったら、着色だった、など「それ、安全性は大丈夫?」と思うものもあります。
真面目で良心的な業者ももちろん多数出店しているのでしょうが、そういうお店ほど写真やページのクオリティーが低かったり(かといって、写真やページのクオリティーが低い店が当たりかというと、やる気が無いだけの店であることも)して選択肢に入らないなど、玉石混淆が甚だしいので、良い店を選ぶのは本当に至難の業です。

日本のネットショップでも、良いものを扱っているかどうかを判断するには、その店のブログだったり、発信内容だったりを逐一チェックして、信頼性を確認するものです。
中国語がよほど堪能な方ならば、それも可能でしょうが、一見の日本人が判断するのは難しいでしょう。

大手業者の茶葉は割高すぎる

それならば、比較的大手企業が出店しているTmall(天猫)のメーカー直営の旗艦店(フラッグシップショップ)で買えば良いのでは?と思うかもしれません。

が、現地に通っていれば分かることですが、大手茶業者のマージン率の高さはべらぼうと言って良いレベルです。
彼らは現地の一般的な茶農家などで購入する価格の3~5倍程度の値段で茶葉を販売しているので、「この値段で、この価格?(もちろん悪い意味で)」と思う茶葉が正直、多すぎます。
3~5倍の掛け率となると、これは日本の茶業者さんが販売している価格とほぼ変わらないか、むしろ安かったりします(現地の空港の免税店で、お茶を買うのに等しいと思ってください)。

大手茶業者はこうした高いマージン率で得た利益をブランド化の費用に投下し、豪華なパッケージや広告宣伝にバンバン使って、地元の茶業を引っ張るという使命を負っているためです。
そのような状況が分かっていても、知名度のある茶葉が良いということで大手茶業者のお茶を購入するのであれば止めませんが、お茶を現地で買えば日本よりも安くて良いのでは?と思っているのであれば、大きく期待を外すことがあります。

決済方法が困難。代行業者も食品は対象外が多い

もう一つは、決済方法です。
海外向けのタオバオなどでは、茶葉を取り扱う店も検索対象に出てきて、クレジットカード決済もでき、あたかも購入できるかのように見えます。
しかし、実際に注文をしてみると、海外には送れないとキャンセルされることもあります(もちろん、そのまま注文が通ることもあります)。

それならばと転送代行業者を介して注文をしようとすると、代行業者の多くは食品は取り扱い対象外にしていることが多いです。
理由は明確で、もし個人輸入名目で注文されたのに、それが販売に回されたりして(販売に回した時点で、申請時の個人使用目的ではない「目的外輸入」となり、いわゆる「密輸」となります)、健康被害などのトラブルが生じれば大変です。
輸入業務に携わった転送代行業者は「密輸の幇助」に当たる可能性もあり、わずか数%の手数料で請け負う仕事としては、リスクが大きすぎるからです。

馴染みの中国の茶業者からは、「わざわざ来てくれなくても、注文すれば茶葉を送るよ」と良く言われます。
そのため、越境だろうが何だろうが、注文が入って、お金が受け取れれば、日本にでも発送するのはやぶさかではないようです。
しかし、そこには決済という問題が大きく立ちはだかるわけです(代行業者を挟むと商業輸入レベルの対応になり、個人輸入の範疇を超える)。

どうしてもということであれば、現地の馴染みの業者に声を掛けて相談してみる、というのが現実的な線かと思います。
※日本人御用達のお店などでは、海外送金など上手く対応してもらえる方法を持っている可能性があります(こういうものはあまり大っぴらに宣伝しないものです)。

 

輸入の煩雑さを考えると国内の業者を再度見直すことも

以上のように、現地からお茶や茶器を取り寄せるという行為は思った以上に大変なことであると感じたかもしれません。
実際、商業輸入として検疫・通関を行うことは、かなり大変な作業で、ほとんどの茶業者の方が「やらなくて良いのであれば、やりたくないし、その分の費用を浮かせて、安く消費者の方に買ってもらいたい」と考えているはずです。
しかし、それでは日本の国民の安全が守られないので、やむなく販売価格に転嫁せざるを得ないのです。
日本のカップラーメンは台湾に行くと約3倍の値段になって販売されていますが、食品が国境を越えるには、このくらいのコストがかかるのは極めてフェアな金額であると消費者側でも認識しておく必要があるでしょう。

今回は、個人輸入について考えるテーマでしたが、国内の中国茶専門店などで商業輸入された茶葉を積極的に活用するというのも一つかと思います。
確かに輸入コストがかかるぶん、現地で購入するよりは割高です。
しかし、少量ずつ、色々な茶葉を購入できることや、お茶のプロフィールについてより詳しく教えてもらえるなど、メリットも少なからずあるのです。

現地で安く茶葉を購入して、ガサッと入れるのが醍醐味だという方もいらっしゃるでしょうが、一つの行動変容として少量ずつ、色々なお茶を丁寧に試してみる、というのも悪くないと思います。
この時期に、さまざまなお茶を飲んでおくことは、次に現地を訪問したときの経験値として役に立つことでしょう。

 

※本記事は筆者の経験に基づくお話のみですので、実際の輸入行為を実施する際は、税関、検疫所等の情報を参照し、法令に従って実施してください。

 

次回は、9月1日の更新を予定しています。

 

関連記事

  1. 第26回:消えたはずの大禹嶺

  2. 第153回:中国茶に関する情報の環境変化と教え方の変化

  3. 第32回:中国の国家標準『抹茶』の概要

  4. 第35回:品種化の進む中国茶

  5. 第80回:持ち味は何ですか?と問われれば

  6. 第118回:10kgの生葉が約1.8億円。高騰続くプーアル古樹茶の世界…

無料メルマガ登録(月1回配信)