第157回:現代の中国茶情報を理解するために必要な基礎知識とは?

「中国茶情報局」スタートの経緯

当社で運営しているWebサイトの一つに 中国茶情報局 があります。

https://cttea.info/

「中国茶ファンのためのデータベース&ニュース」と銘打っている通り、コンテンツは中国茶の用語集や国内の専門店・書籍の情報といったデータベース的な内容と国内外のニュースが中心となっています。
サイト自体がスタートしたのは、当社の設立より遥か昔の2009年のことです。

このサイトの特徴的な点は、中国の茶業界のニュースをほぼタイムリーな形で、日本語で紹介しているところにあります。
当時、日本国内で流通していた中国茶の情報というのは、多くが書籍の受け売りのものが多く、新鮮みに欠けるものが多くありました。
喩えるならば、換気もせずに閉め切りにした部屋の中で扇風機を回しているような状態であったわけです。

ところが、現地で実際の中国茶に触れてみると、とてもダイナミックに動いています。
10年くらい前に書かれた本の情報が、お決まりの蘊蓄として語られている日本の状況とは、かなりのギャップがありました。
そもそも、茶の名前は有名でも、そのお茶がいつ茶摘みをされるのか、今年の産況はどうか?等の、嗜好品ならば当然必要な情報が伝わってこないという状況だったのです。

そのような状況を変えるために、このサイトは始まっています。
文字通り、”窓を開けて換気する”ようなイメージのWebサイトでした。

 

1日数十件のニュースを読み続けて得られたもの

日本ではお茶に関するニュースはさほど多くはないと思いますが、中国の場合は、現地の茶業ニュースサイトを見ると、平日は1日に数十件の記事がアップされます。
また、現地の茶業関係者からWeChatなどでシェアされるニュースなどもあります。

これらにざっと目を通し、

・日本の愛好家の方が求めている記事(日本でも人気・知名度のあるお茶、ハウツー等)
・まだ日本で紹介されていないお茶の記事(新しい銘柄、ブランド等)
・すぐには役に立たないが、将来的に流れを作りそうな出来事の記事(標準や法令の制定、現地の茶業イベント、政策変更等)

に該当するような記事を見つけるという作業を行っていきます。

その際、数多ある現地の記事でも、正確性に疑問符がつく記事や単なる地元政府の広報に属する記事などは省いていきます。
そうすると、だいたい1ヶ月に10件程度の記事が紹介できるということになります(春の製茶シーズンなどは多く、冬場は少なくなります)。

このような地味な作業を、かれこれ十数年しているわけですので、相当数の現地ニュースを浴びるように見ています。
そうすると、中国の茶業界のニュースの傾向やこの十数年ほどでの現地の記事のトーンの変化なども見えてきています。

たとえば、初期の頃は、比較的自由に民間メディアが発信している傾向が強かったのですが、最近は政府の意向に従った記事が随分多くなっています。このようなことは、特に災害時などに顕著です。
かつては水害や霜害などがあれば大きく被害状況が報じられましたが、現在は被害状況の報道よりも、いかに地元政府がよく対応しているかを広報するような切り口の記事が多くなっています。

また、サイトの運営当初は、インストラクター資格や高級評茶員資格は持っていたにせよ、ほぼ見識が無い状態で始めました。
しかし、浴びるように記事を見ていれば、さすがにそれなりの見識がつくものです。
「現地のニュースを読み解く上では、このような知識が必要だ」と感じることも出てきました。

 

現地の記事を読み解くのに必要な能力

現地のニュースをきちんと読み解こうと思った場合、いくつか知っておくべき基礎知識があります。
これを有していないと、不確かな記事などに安易に引っ張られたり、記事の正確性が分からず混乱することになります。

それを思いつくままにざっと列挙すると、以下の通りです。

・中国のお茶の製茶についての基礎知識(製茶の各工程における化学変化に関する知識)
・お茶の育種・栽培に関する基礎知識(茶樹の植物学的な知識)
・中国の標準制度・原産地保護制度の仕組みについての基礎知識

・中国の地理に関する基礎知識(地域ごとの気候や風土、さらには人々の気質等)

・中国の歴史・文化に関する基礎知識(特に新中国の設立以降の歴史)
・中国の政治体制と意思決定のシステム、現在実施されている政策に関する基礎知識 など

前半の3つは、主にお茶に関する基礎知識となるのですが、日本で書籍などから得られるものだけでは全く不十分だと感じます。
製茶の科学的な部分に突っ込んでいるものは非常に稀ですし、中国のお茶が標準制度の下で規範化されつつあることは、ほとんど紹介されていません。

私自身が現地のニュースを読み解こうと思ってから、最初にぶち当たった壁がこの点です。
現代の中国茶を知る上では、このあたりの基礎知識の強化は必要だと痛感しました。

幸いなことに、私は評茶員資格を取得していたので、うっすらとした基礎はありました。
そこで色々と記事を読みながら猛勉強を行い、どうにか読み解けるようにはなってきたと思います。

その成果は当社で実施している「中国茶基礎講座」や「標準を読む」で紹介しています。
これらを受講いただいた方であれば、おそらく最低限の基礎知識は備えているものと思われます。

ただ、これだけでは現地ニュースを読み解くのには不十分です。
そのニュースの有用性や業界に与える影響を判断するには、後半の”中国に関する全般的な基礎知識”が必要になります。
・・・とは言っても、これは政治や経済、歴史や文化と本当に幅が広いため、私自身でもどこまで深められているかは自信がありません。
徐々に身につけて行っている過程だとは思いますが、学んだ分だけ相応に解像度が上がっている感覚はあります。

ストックの知識とフローの知識を循環させる

さて、先に挙げた”基礎知識”の部分は、いわば”ストック”としての知識です。
何事かを理解するための知識のベースであり、様々なことを調べるための”道具”となる知識です。
大きな水のタンクに、水を入れるというイメージで、考えていただくと良いと思います。

これらは、ある程度、講座などの形式で集中的に学習することが可能です。
中国茶に関して言えば、当社で実施している「中国茶基礎講座」「標準を読む」「中国茶研究講座」などは、それを行うものです。
これらによって、タンクの中に水を補給する、すなわちお茶を嗜好品として自在に飲んでいくことはできると思います。

一方、問題なのは、最新の事情などを都度学んでいく”フロー”としての知識です。
中国の茶業界は急成長産業ですから、中国茶は変化が早く、次から次へと新しい商品や概念が出てきます。
10年前の知識はほぼ役に立たない、ということも往々にしてあります。

これをやはり水のタンクで喩えると、一度は貯めた水も、長年放置していけば、澱んでしまいます。
蛇口をひねって、新鮮な水を常に補給し、古い水は排水していかなければなりません。
その過程で、補給する量が排水する量を上回れば、知識のタンクの水の量は、より増えていきます。
”フロー”というのは、そのようなイメージです。

フローの知識は、当社では”中国茶情報局”や、本ブログ、メルマガなどで紹介をしています。
特に情報量が多いのは”中国茶情報局”になるかと思いますが、基本的には解説を行っていないので、

・そのニュースの何がポイントか?
・このことによって、今後どのような変化が見込まれるか?
・今後のお茶にどのような影響が出てくるか?

といった部分については、残念ながらお伝えできていませんでした。
そのため、”中国茶情報局”でお届けしている情報は、十分に活かせていないように感じていました。

そこで、来年からは四半期に一度の割合で、中国茶に関する最新ニュースの解説を行う「中国茶時事ニュース解説講座」を開講していくことになりました。
この講座によって、記事についての詳細を解説できるほか、ニュースとして紹介されているもの以外のバックボーンについても、解説ができるかと思います。

「中国茶に関しては、一通りの内容を学んだ」

という状態になると、次の目標が見出しにくくなってしまうものです。
そのような方は、是非、こうした最新の中国茶のニュースに目を向けていただくと、ダイナミックに動く中国茶の世界が、より面白く感じられるのではないかと思います。

新しい情報が入ってくると、自ずと今までの情報を書き換えていくことや再認識することもあると思います。
そういった方のためには、来年からTeamedia Online School「研究生」制度も用意しています。
復習したくなったときに、当社で実施しているオンライン講座のVTRが見放題になるサービスですので、こちらも活用いただくと、ストックの知識とフローの知識を上手く循環させられるのではないかと思います。

新年からの新しい学びをお考えの方は、ぜひ活用いただければと思います。

 

次回は、新年1月5日の更新を予定しています。
どうぞよいお年をお迎えください。

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