第160回:お茶初心者が最初に投資すべきものは何か?

お茶に関心を持つ人が増えていることへの嬉しさと不安

最近、お茶に関心を持ってくださる方が増えているようです。
その理由には色々な要因があるようですが、まずは非常に良い傾向だと思いますし、これは大変嬉しいことです。

その一方で、「これは紹介する側の責任も重大だ」と感じます。
関心を持っていただいても、最初の入口の印象が悪いと、回れ右をして別の関心事へ向かってしまう。
そのようなことを、これまで何度も見てきているからです。

たとえば、お店での接客が他業種と比べて横柄に感じられるものだったら、どんなに良いものでも失望してしまうでしょう。
相手は「初めての世界に飛び込もう」と不安を持ちつつも、意を決して飛び込んできているかもしれないわけです。
そのあたりの心情をくみ取れる接客ができているだろうか、という心配もあります。
※正直、個人店の多いお茶屋さんの接客は、決してハイレベルで安定しているわけではありません(当たり外れが大きい)。

また、購入するお茶も、初心者の方ほど、価格的に手頃なものを求めがちです。
しかし、本来あるべき製法を施すには安すぎるお茶(つまり、名前ほどの美味しさは無い)というものが、世の中には数多く出回っています。
もし、そうしたものを手にしてしまったら「聞いていたほどは、美味しくないな」となってしまうのではないか、という懸念もあります。

さらには、淹れ方の心配も大きくあります。
お茶は茶葉を買っただけでは、飲むことができず、”淹れる”という最終工程を飲み手に委ねるものです。
最終工程でのコツがことごとく外れていれば、どんなに良い茶葉であっても真価は発揮できません。

このように、お茶に関心を持っていただけたとしても、実際にお茶を購入して、淹れて飲んでみて、

「美味しい!」
「他のお茶も飲んでみたい!」
「もっと色々知りたい!」

という反応を得て、お茶のファンになるためには、越えるべきハードルはいくつもあります。

そのあたりを踏まえて、「関心を持ってくださった方は、業界全体で大切に育てていきたい」と思うのですが・・・

 

初心者を狙う、様々なセールストーク

が、お茶の商売もビジネスの世界なので、やはりそこでは様々な売り込みトークが繰り広げられます。
既に多くのお茶や道具を持っている初心者を卒業した人よりも、様々なものを買う可能性があるわけですし、また上手に”教育”すれば自店のロイヤルユーザーになる可能性があります。
「ビジネスチャンス到来!」とばかりに、様々な情報を吹き込んでいくケースがあります。

たとえば、茶器をメインに扱う方ならば、「良い茶器で無いと、お茶の本当の味は出ない」だとか「茶の種類に合わせて、複数の茶器を用意すべきだ」「良いものを買えば、無駄に買い足さなくて済むから、結局はお得」などのトークを繰り広げます。

茶葉を扱う方であれば、お茶の全体像がどうなっているか?も分からない状態であったとしても、自店の在庫を片っ端からお薦めしたりします。
たとえば、武夷岩茶や鳳凰単叢のお店であれば、定番の品種や香型を勧めるだけでなく「全部、香りと味が違うから試してみて!」と勧めたりします。

あるいは茶藝の教室をされている方ならば、「美味しいお茶を淹れるには、茶藝を勉強するのが近道」というような話をしてきたりします。

困ったことに、今、上記で列挙したことは、全て嘘では無く、一面の真実ではあるのです。
お店の方が言っていることは、全く間違っていないのです。

茶器によっては、お茶の味は引き出せませんし、茶の種類に応じた茶器があった方が味は引き出しやすいですし、安物よりも高級品の方が汎用性が高いこともあります。
しかし、関心を持ち始めた方が、最初に投資できる金額の上限というのもあると思いますし、実際に失敗しながらでも学んだ方が身になることも多くあります。

同じ武夷岩茶、鳳凰単叢であっても、それぞれ品種や香型が違えば味や香りが違うのは事実です。
が、そのジャンルだけ集中して掘り進めるよりも、もっと別の茶類を飲んだ方が、中国茶自体の幅の広さは感じられたりします。
しかし、自店の在庫には無い商品を勧めるお店というのは、なかなか難しいでしょう。

お茶の淹れ方については、様々なコツがあります。
それらを教えるとなると、茶藝を学ぶというスタイルを取った方が教えやすい、という面は確かにあります。
が、茶藝は美味しく淹れることだけではなく、”演出”の面も有しています。
まだ、中国茶の世界がよく分かっていない人が、それを望んでいるかどうか?を見極めるのはやや困難です。

 

限られた予算は、どこに費やすべきか?

なにより、まだ”関心を持った”程度の方というのは、確固たる意思を持って、”中国茶に取り組みたい”と思っているわけではありません。

「面白そうだから、少しかじってみるか」

という程度ですので、大きな金額を費やすことは、あまり考えていません。
もし、実際に少し試してみて、「本当に美味しい・面白い・楽しそう」となれば、もっと本腰を入れると思いますが、まだその段階では無いわけです。
多少面倒なことや嫌な思いをすれば、すぐに回れ右をして、見切りをつけられてしまう可能性があります。

しかし、どうもそのあたりの事情をすっ飛ばして営業してしまうケースもあるようです。
これは事前に情報を入れて、自衛していただく以外に方法はありません。

初心者の方にとって一番頭を悩ませるのは、「予算配分をどうするか?」ということだと思います。
たとえば、「中国茶を試してみたい。でも、出せても予算は5千円かな・・・」となった場合、どこにどれだけ費やすのが、正解なのか?ということです。

この”正解”というのは、目的が何かによって当然変わってきます。
そこで今回は、これを「中国茶の美味しさや幅広さを少し感じたい」というところに置いてみることにします。

このように条件設定をすることで、投資すべきものは自ずと見えてきます。

 

中国茶の全体像を知りたければ、まずは茶葉に投資すべき

結論から言ってしまうと、中国茶の全体像を知りたいのであれば、まずは一定以上の品質を持った茶葉を幅広く飲むことです。これ以外にはありません。
お茶の美味しさは茶葉から出てくるのですから、美味しさの詰まった品質の良い茶葉を入手することが一番です。
そして香りや味のバリエーションの幅広さは、実際に飲んでみることでしか体験できません。書籍の文章などでは分からないのです。

茶葉に投資をするとなると、それ以外に投資はほぼできないと思います。
そこで、最初の茶器は、様々なお茶を淹れられる汎用性のあるもの(白磁の蓋碗、茶壺、飄逸杯や茶こし付きマグカップのような簡易茶器&程々の値段の茶杯と茶海)で、最低限の品質があれば十分です。
品質の良いお茶であれば、茶器のポテンシャルが多少低かったとしても、それをカバーするくらいの美味しさを提供してくれるはずです。良い茶器に投資をするのであれば、むしろ電気ケトルに投資した方が、お茶淹れの品質は高まると思います。
使っていくうちに、使い勝手の難点や自分の好みなどがハッキリしてくるので、そうなってから買い換えても遅くはありません。
むしろ、最初に「良いものはこれです」と教わって何の意識も無く使っているよりも、自分の使用体験からの茶器選びが出来るわけですから、十分に良い経験を積んだと言えます。
最初に購入した茶器も決して無駄な買い物ではありません。

お茶の淹れ方は、お店の方が淹れるのを見たり、YouTubeで勉強すれば十分です(予熱をしっかりして湯温に気をつける。茶葉量と湯量、時間を正確に測る)。
手取り足取り教えてもらいたいということであれば、いきなりコース制の茶藝講座に飛び込むのでは無く、1回か2回程度の単発で受けられるものを受講すれば良いでしょう。

 

一定以上の品質の茶葉を、どう見つけるか?

さて、「茶葉へ投資」という結論は実に簡単なのですが、実行しようとすると難しいのが、”一定以上の品質”の茶葉をどうやって見分けるかです。
これはお茶の種類ごとに適正コストが違うので、一概に「○gあたり×××円以上の茶葉」のように金額で足切りはできません。
なぜなら、小さな新芽のみを手摘みする緑茶のコストとやや大きめの葉を用いる烏龍茶のコストは全然違うからです。

このあたりを正確に把握する力が、いわゆる”相場感”というものですが、これは相当数のお茶を購入し、飲んだ経験が無いとなかなか付くものではありません。
ゆえに始めたばかりの方が頼るべきは、”クチコミ”ということになると思います。

ただし、大手ショッピングモールのレビューなどは、正直当てになりません。
実際にお茶に詳しいわけでは無い方が書いているケースが多く、ピントを大きく外した評価をしていることも多いからです。

市販の”凍頂烏龍茶”も品質と価格は千差万別。最初にどれを飲むかは重要。

 

よりお薦めをしたいのは、Twitterなどでよくお茶を飲んでいる人たちが「美味しい」と絶賛しているようなお店のお茶を購入することです。
一例としては、「#茶好連」というタグをつけてツイートしている方のお茶を辿ってみると良いでしょう。

このような方たちが絶賛するお店は、概して特定のジャンルのお茶に特化した”カテゴリーキラー”的なお店が多いです。
そうしたお店は、狭いジャンルの中で様々なランクのお茶を扱っていることも多いので、今度はどの商品を選んだら良いのか?ということになると思います。
”カテゴリーキラー”的なお店の場合は、商品自体の品質が全般的に高いことが多いため、基本的には一番下か下から二番目ぐらいのグレードのお茶で十分満足できると思います。
場合によっては、1gで100円程度するような高級なお茶の場合もあると思いますが、こうしたお店は少量での販売にも応じていることが多いので、少量ずつ試してみましょう。

 

「幅広く」は、どのくらい?

もう一つの問題は、「幅広く」飲む、という点です。
最初に飲むのであれば、日本茶や紅茶と比較してもキャラが立ちやすい烏龍茶が入手性も高く、感動もしやすいので良いと思います。

先に挙げたカテゴリーキラー的なお店では、たとえば台湾烏龍茶なら発酵や焙煎程度、品種の違いなどで沢山の品揃えがありますし、武夷岩茶なら多くの品種、鳳凰単叢なら多くの香型のお茶があるでしょう。
一度、美味しいと感じたお店なので、安心感もあることから、その店でだけ買い物をしていたい・・・となるとは思いますが、そのお店では扱っていないお茶も、中国茶の世界には多数あります。
一つのお店だけで、中国茶の世界を網羅するのは、ほぼ不可能です。

中国茶には、大まかに「六大分類」というジャンル分けがありますが、今、挙げた烏龍茶の種類だけでも、かなりの数があるわけです。
それ以外の茶類のお茶についても、当然飲んでみたくなると思います。

この場合は、できれば各茶類で5~6種類は飲んでみて、さまざまな味わいを経験したいところです。
たとえば、日本で入手できるものが比較的多い、緑茶や紅茶、烏龍茶は6種類ずつ、種類が比較的少ない白茶、黄茶、黒茶、花茶は3~4種類ずつのような感じです。
少なくとも30種類くらいは飲まないと、中国茶の幅の広さというのは体感しにくいかとは思います。

これらを一気に飲むのは、費用的にも時間的にもなかなか難しいので、1年などの時間を掛けて、徐々に飲み進めて行くのが良いと思います。
種類を飲むことを効率良くするためには、お店で出している少量ずつの飲み比べセットを購入したり、飲み比べのイベントや教室などを使うことも視野に入ってくるかもしれません。
お茶はソーシャルな飲み物なので、一緒に飲む人数がある程度いた方が安価に楽しむことができるためです。

 

一通り飲むと視野が広がり、味覚の変化にも気づく

このように一定以上の品質を持つ、様々なお茶を飲んでみると、自分の好みのお茶が見えてきたり、道具などへの関心の度合いも自然と高まってくると思います。

そして、お茶の味というのは大変淡いので、それに慣れない最初のうちは、お茶の味が良く分からなかったりすることもあります。
香りや味を言語化することが難しいと感じることもあるでしょうし、他の人たちが言っている「余韻」というものが良く分からない、となることも多いと思います。

しかし、それは決しておかしなことではなく、誰もが通っていく道です。
お茶の淡く繊細な味を何度も飲んでいくうちに、徐々に舌が鍛えられ、淡く繊細な味がハッキリしてくるようになります。
暗闇に目が慣れるのと同じようなな状況が、舌でも起こるのです。

そのようにお茶を飲み進めていくと、美味しいと感じるお茶が徐々に移ろっていくことに気づくと思います。
美味しいお茶というのは、飲んでいるステージごとに変わっていくものなので、これもまた自然な現象です。
最初は全然美味しいと感じなかったお茶が、舌が鍛えられてから飲むと美味しく感じる、ということは、かなりの方が経験していることです。

もし、誰かが述べた感想と自分が飲んだときの感想が違ったとしても、それは悲観すべきことではありません。
飲んだ経験による差というのは必ずあるものなので、その時々で感じた感覚を大事にして行くと良いと思います。

継続的に飲むことによって、初めて分かるものがあるのもお茶ですので、周囲の声に惑わされず、気長にマイペースに飲んでいくことが良いと思います。
”味覚が育つまでの時間に投資する”という観点も、また必要なのです。

 

次回は2月16日の更新を予定しています。

 

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