意外と高い?台湾の茶藝館

台湾に行かれた方にお話を聞くと、「茶藝館って意外と高いのね」というお話を聞くことがあります。
日本人の方は、どうしても「お茶」と聞くと、1杯数百円ぐらいの「喫茶店」のようなイメージを持っている方が多いからかもしれません。
が、台湾の著名な雰囲気のよい茶藝館は、おおむね茶水費という形で席料を取り、食事のメニューも多く、お茶もやや高めのイメージになっていること多くあります。
そのため、支払う客単価を考えると、日本のお店のタイプでいえば「喫茶店」というよりは、「居酒屋」に近いイメージです。

むしろ、日本人の方がイメージするぐらいの「喫茶店」的な単価を担っているのは、街中に多数あるティースタンドの方です。
こうしたお店では、1杯50元(約200円)前後で、気軽に飲めるようなお茶を購入することが出来ます。
チェーンの珈琲店の客単価をイメージするのであれば、こちらの方がイメージには近そうです。
ただし、ゆっくりとくつろげるスペースは無く、あっても簡易なベンチ程度です。

客の立場にしてみると、「チェーン店ぐらいの1杯の価格で、長居できるようなお店があると嬉しい・・・」と感じるのですが、正直なところ、お茶の本場の台湾であっても、それではお店として経営が成り立たないのです。
「お店の収益構造」という観点から、このことを少し考えてみたいと思います。

 

一般的な飲食店の収益構造

当たり前の話なのですが、お店というのは採算がきちんと取れていないと、決して長続きすることはありません。
そこで重要になるのが、お店の収益構造です。

まず、日本の一般的な飲食店の収益構造を、ざっくりと表現すると、

食材費 30%
人件費 30%
家 賃 10%
その他 20%
利 益 10%

というイメージです。
家賃は通常、売上の10%までが適正とされており、逆の言い方をすれば、月20万円の物件を借りるのなら、月200万円の売上が必要になるということです。

いわゆる「原価」とされる食材費は俗に「仕入れ3割」と言われますが、この数値は、お店の業種業態によって変動します。
たとえば、回転寿司のように、食材にどれだけお金をかけるかがお客さんから選ばれるポイントになる業種では、原価率が40%を超えることもあります。
こうしたお店では、その分、人件費を抑える(職人の社員ではなくアルバイトが調理する等)ことで、帳尻を合わせます。
業種業態によって食材費のかけ方が違うことも踏まえて、飲食店の経営を見る際には、食材費(Food Cost)と人件費(Labor Cost)を合わせたFLコスト(Food & Labor Cost)というモノサシを使うことも良くあります。これが60%以下に収まっているかどうか、で収益体質を見るのです。

一般に、サービスや雰囲気あるいは駅前や繁華街・オフィス街などの一等立地に出店することを売りにするようなお店は、食材費をより低く抑え、その分をスタッフの人件費や家賃などに回します。
カフェなど、ドリンクが売上の主体となるタイプの店は、こちらの分野に入ることが多く、20~25%程度の原価率になっているお店もあります。
極端な例を示すと、都心にあるサラリーマンが昼寝をしているような、長居がいくらでもできるタイプのカフェなどは、原価率は10%台ということもあります。
こうした店は、何人ものお客さんに来てもらうことよりも、お客さんに居心地よく長居をできる空間を提供することを重視します。
その当然の対価として、やや高めの飲み物代や席料(テーブルチャージ等)を請求して、原価率を低下させ、収益を成り立たせているわけです。
飲み物よりも空間と時間を売っている店、と言えるかもしれません。

売上とは、客数×客単価。客数は席数×回転率

お店の売り上げを計算しようと思えば、「客数」×「客単価」で求めることができます。
そして、客数とは、お店の客席数に回転率を掛けることで、求めることができます。

回転率という言葉は、一般の方にとっては耳慣れない言葉かもしれません。
30席のお店が全部埋まれば、1回転したと言い、90名のお客様に来て欲しいのなら、回転率は3回転が必要、というように表現します。

回転率が高いお店というのは、基本的には、パッと入ってパッと食べて出る、という滞在時間の短いお店です。
牛丼チェーンやファストフード店、低価格のカフェチェーンなどは、基本的にこちらのイメージです。
回転率を高めるためには利便性の高い場所にある方が有利なので、駅前の一等立地にあるようなお店は大体こちらのタイプです。
安くてもたくさんのお客さんに入ってもらうことで収益を成り立たせる、薄利多売方式ともいえます。

一方、回転率の低いお店というのは、基本的にはお客さんが長居してくれるようなお店です。
回転率の高い店は忙しない印象を受けることも多いのですが、こうしたお店はのんびりとした空間・時間が売りになります。
立地についても、回転数を追わない分、二等立地であっても繁盛しているお店はあります。
ただ、回転率が低ければ、当然、それなりの客単価にしないと収支が合いません。

低回転率の茶藝館、高回転率のティースタンド

このような飲食店の収益構造に照らしてみると、のんびりとした時間や空間を売りにする茶藝館は、当然、低回転率のお店になるので、客単価を高めにせざるを得ません。
経済原則に照らしてみれば、雰囲気の良い茶藝館のお値段が高いのは仕方のないことなのです。

もっとも、お茶の本場の台湾といえども(だからこそとも言えますが)、お茶だけでお客さんに多くのお金をお支払いいただくのは難しいのです。
そこで、食事メニューを充実させたり、グループ客を取り込めるようなプランを用意したり、旅行気分で散財してもらえそうな観光地に立地するなど、高めの客単価をいただけるような工夫が随所になされています。
また、喫茶だけではなく、イベントや講習会、作家物茶器の展示即売会などを実施して、飲食だけではない収益の柱を立てるなどして採算を取っているお店もあります。
農家の一角を開放する茶藝館などは、賃料負担を小さくするとともに、従業員を家族で賄うなどで、様々なコストを抑えて経営していますが、それでもお客さんの数は少なくなりがちなので、決して安い金額を提示しているわけではありません。

 

一方、ティースタンドの場合は、高回転率を追究する薄利多売型の店です。
回転率といっても、ティースタンドはテイクアウトが中心になるので、席数という売上を制限する概念が無くなります。
満席なのでお客さんが入れない、ということが無いのです。
そのかわり、お茶をどれだけ効率良く、手早く作って行くかという生産性の良し悪しが、売上の天井を決めることになります。
飲食店というよりは、食品製造業の様相が強くなるのです。

ティースタンドの経営においては、あとはどれだけ多くのお客さんに来てもらえるか(どれだけ売れるか)が鍵になります。
この点を左右するのは、看板の力(ブランド力)であったり、立地の良さ(駅前にある等)、メニューの魅力、コスパの良さ等です。

様々なティースタンドチェーンが乱立している台湾では、こうした要素を確保するのは、もはや個人経営では難しくなっています。
開業希望者は、大手のフランチャイズチェーンに加盟してその看板の力を使ったり、集中的な仕入れによってコストを抑えたり、専門の商品開発部隊が頻繁に開発する新商品をどんどん投入して目新しさを競ったりします。
台湾のティースタンドのマーケットは成熟しており、チェーン同士の熾烈な争いになっていますから、選ぶ側の消費者の目も肥えています。
「安くて、美味しい」は、もはや当たり前になっていますから、少しでも商品開発競争に遅れた店・チェーンは淘汰される運命にあるのです。
この点は、日本の低価格カフェチェーンの状況と似ているかもしれません。

 

ここまで見てきたように、茶藝館とティースタンドというのは、同じお茶を提供する店ではあるのですが、収益構造が全く違います。
いずれも台湾というコスパに厳しい外食産業と茶業界の中で、お茶をビジネスとして採算に乗せる方法を追究していった先に生まれたスタイルなのです。

昨今は日本でも、スターバックスに似た雰囲気のお茶カフェをオープンされるケースも増えてきました。
しかし、単にスタイルを真似ただけの店では、おそらく長続きはしないのではないかと思います。
スターバックスの創業時がそうであったように、新しいスタイルの喫茶文化を切り拓くという気概とオーナーの情熱こそが、パイオニアには必要です。

 

次回は海外取材にかかるため、4月30日の更新を予定しています。