ブームを牽引するのは、”コンセプト”

日本の中国茶業界の方と話している際、日本における「中国茶ブーム」の話をすることがあります。
大まかな流れは、以前、私の個人ブログでまとめています。

日本での中国茶の歴史を振り返る あるきちのお茶・旅行日記(旧館)

そちらでも記載しているのですが、現代における第1次ブームは、おそらく1970年代後半にあった「烏龍茶ブーム」ではないかと思います。
ピンク・レディーが関わったとか、関わらないとか諸説ありますが、「痩せる」「健康になる」のような中国茶全般の”健康”イメージが発端になったものです。

第1次ブームのコンセプトとしては、”健康茶”というところだったのでないかと思います。

続いて、2000年前後にあった第2次中国茶ブームですが、これは”健康”というイメージでは無く、むしろ、中国茶の多彩さという点に重点が置かれていたように感じます。
「中国、あるいは台湾には、非常に多彩な香りの高いお茶があり、そうした様々なお茶を少し蘊蓄を交えながら飲んでいく」という、”日用品”として日々消費するというよりは、どちらかと言えば”嗜好品”として楽しむ感覚であったように思います。
”中国や台湾のお茶を全土から取り寄せ、味わう”という飲み方は、現地においてすら流通事情の関係から、実現し得なかったことです。
このような飲み方・楽しみ方を後押しするかのように、『中国茶図鑑』などの書籍も刊行され、当時の愛好家はこうした書籍を手引きとして、様々なお茶を楽しんでいました。

第2次ブームのコンセプトは、”多様性”だったのではないかと思います。

 

ブームから約20年経ち、初心者には厳しい環境に

第2次ブームが2006年頃に収束して以降、日本では中国茶がブームという状況にはなっていません。

書籍の刊行もだいぶ少なくなり、幅広く様々な中国茶や茶器を扱う実店舗の数も少なくなっています。
2000年前後のブームで全国各地に中国茶を楽しめる茶藝館が出来ましたが、現在も営業を続けている店は、一握りになってしまっています。

その一方で、特定の産地やお茶に強みを持つ、カテゴリーキラー的なネットショップなどは増えています。
その中には現地への買い付けを行い、積極的に現地の情報を発信している方もおり、ネットなどに限れば、多くの情報を得ることも可能です。
また、第2次ブームで中国茶に関心を持った方が、中国の茶藝師などの資格を取得し、お茶の教室を始める方も増えています。
あまり目立ってはいませんが、以前からの愛好家の方はそれぞれのペースで、それぞれの楽しみ方をされているようです。

しかし、新しい愛好家の参入という観点から見ると、難しい状況にあるのは確かです。

まず、書店に行っても、中国茶の入門書の類いがほとんどありません。
「関心があるので、一通りまとまった本が欲しい」と思っても、かなり古い本しか見あたりません。
ネットで検索しても、ネットショップさんの商品説明情報か、安価で記事を請け負ったネットライターさんが、よく理解せずに文章を綴ったと思われるキュレーションサイトの質の低い情報にしか行き当たりません。

以前と比べれば、ネットショップや愛好家の間でやり取りされる情報は、飛躍的に高度になっています。

たとえば、台湾の烏龍茶でいえば、かつては”高山烏龍茶”ぐらいの括りで紹介されていたものです。
今ではより細かな産地名である”阿里山烏龍茶”、”梨山烏龍茶”という領域をさらに飛び越えて、より細かな集落単位の名称である”樟樹湖烏龍茶”、”翠峰烏龍茶”などのように複雑化しています。
このようになってしまうと、初見の方では、何のことかさっぱり分からないと思います。

こうした細かな情報については、既刊の書籍では全く追いつけていませんし、情報を網羅的に提供しているものがありません。
ネットショップさんの情報を頼りにするとしても、断片的な情報が飛び込んでくる形になるので、ベースの知識を有する方で無いと、整理が出来ない状況だと思います。

中国などで一気に有名になったお茶である”金駿眉”や”月光白”、”緊圧白茶”などは、そもそもお茶が存在していなかったので、書籍にも載っていません。
こうした見たことも聞いたことも無いお茶が、情報としてバンバン飛び交っていると、初心者の方はますます困惑してしまいます。

このような状況を招いているのは、ひとえに日本の中国茶業界の努力不足です。
個々の店や先生方は、各々の領域で懸命に努力しているのですが、業界全体を見たら、あるべき部分が抜けてしまっているということです。
これでは、新たな方の流入に繋がるブームも生まれませんし、業界の健全な発展は望むべくもないのです。

 

求められるのは新しい”コンセプト”に基づく知識の再構築

ここ20年ほどで、中国の茶業は急速に変化しました。
20年前とは全く環境が異なりますし、名茶の顔ぶれもだいぶ変わっています。
台湾でも茶業従事者の高齢化や人件費の高騰などがあり、台湾の茶業も岐路に立たされています。
そして、日本国内で流通している、お茶やお茶に関する情報は、ますます精緻さを増しています。

こうした状況では、20年前に書かれた書籍や、中国茶学習のための方法論は、正直、もはや役に立たないのではないかと感じます。
かつては、行きつけのお茶屋さんの受け売りを蘊蓄として披露すれば、中国茶に詳しい人というイメージになっていた時代もありました。

しかし、そのような”耳学問”では、もはや対応しきれないぐらいに爆発的に情報量が増えているのです。
より学問的なアプローチも含めた、知識の再構築が必要な段階に来ているのではないかと感じています。

問題は、「どのような形で再構築するか」です。
これについては、私に一つアイデアがあります。

それは、

「ワインやコーヒーなど、他の知識化で先行している”嗜好飲料”に共通している基軸を用いること」

です。

すなわち、”製法”、”品種”、”産地”という軸を中心に、今の中国茶・台湾茶の世界を仕切り直す、ということです。
中国茶に次のブームが起こるとすれば、”嗜好品としての深み”というコンセプトが重要ではないかと考えています。

 

「茶」を他の嗜好飲料と同じスタイルで学べるように

私は、近隣業界である、ワインやコーヒーの入門書で評判の良いものは片っ端から購入して目を通すようにしています。
これらの本は、アプローチの違いや見せ方の違いこそあれ、基本的には上記の3つの基軸に従って、整理を行っています。

中国茶に関していえば、この3つの軸のそれぞれが非常に曖昧であったり、整理されていないことが多いように感じます。
たとえば、製法の基本である「六大分類」についての整理・解説が不十分なことが多く、それ以外の付随する情報ばかりの本が多すぎます。
茶は飲み物なのですから、本来ならばその味わいと香りを作る、植物としての茶の特性であったり、製茶において茶のどのような成分が変化し、どのような結果になるのか、といった内容をきちんと論じ、解説するべきです。
しかし、そうした本来知るべき内容が網羅されている本・講座に、あまりぶつかりません。

この点は、私が中国茶を学び始めたときに、大いに不満を感じた点です。

まず、一通りの中国茶を飲む入門講座に通ってみても、どうもハッキリしませんでした。
最初ですから、様々な蘊蓄や伝説を聞くのも楽しくはあるのですが、どうも知りたい内容では無かったのです。

これ以上、さらに詳しいことを学ぶためには「指導者向けのインストラクターコースしかない」と言われました。
当時、あくまでお茶は趣味であり、指導者になるなどと言うことは全く考えていませんでしたが、「それしか勉強する方法が無い」と言われてしまうと、どうしようもないので、それにも参加しました。

確かに入門講座よりは、少し高度な内容を学ぶことは出来ましたが、お茶そのものの成分が化学的にどう変化しているのか?については、結局分からずじまいでした。
その後、参加した中国の国家資格である評茶員講座で、ようやくその全貌が分かり、「やっと嗜好飲料としてのスタートラインに立った」と感じたぐらいです。

この間、約3年の時間もかかりましたし、全ての講座の受講料と製茶旅行の渡航費などを含めれば、軽く100万円以上を投じることになりました。
このような時間的・金銭的な投資が、お茶を知りたい人には必要ということならば、後に続く方は、そうそう出て来ないだろうと思います。
とても、みなさんにお勧めできるような趣味ではありません。

 

ところが、ワインやコーヒーの入門書は、このようなことをいとも簡単に序盤の章で記述しています。
”製法”への理解がきちんとあり、さらには主要な”品種”についても紹介されています。
それらを比較するだけでも、ワインやコーヒーの世界の枠組みはきちんと理解できるように配慮されているわけです。
もちろん、実際の味を見るためには、商品を購入して飲むか講座に参加する必要がありますが、それにしてもハードルがだいぶ低いのです。

中国茶に限らず、お茶というのは、そもそも製法や品種の多様さがありますし、コーヒーやワインのように”果実”ではなく”葉”を用いる飲料であることから繊細な味わい・香りであるため、理解が難しい作物であります。
「だから、お茶は難しい。特別なのだ」という方の気持ちは分かるのですが・・・
書籍を記述している方や解説する方が文系の方が多いからか、どうも精神論であったり、文化論というところに着地させたがる傾向があります。
そのためか、他の嗜好品の文化に精通している方と話をしていても、「どうもお茶は・・・」と言われることもあります。

嗜好飲料としての教育水準においては、他の飲料に大きく差を開けられているように感じます。
この差を早急に埋めなければ、茶はいつまでも経っても、嗜好飲料の中でも特異な存在でしかいられないでしょう。

 

新しい学習プログラムの必要性

このような状況に一石を投じるべく、弊社では11月から「中国茶基礎講座」を開講することにいたしました。
これは既存の中国茶書籍や講座の焼き直しではなく、フルスクラッチで中国茶の捉え方を再構築した講座です。

目指すところは、「ワインやコーヒーなどの他の嗜好飲料と同等レベルに、中国茶を分かりやすく学んでいただくこと」であり、また「他の嗜好飲料と同じように、味わい深い中国茶を体験いただくこと」にあります。
上記の3つの基軸に従って、中国茶の全体像と整理しながら、全10回で60種類の異なるお茶を飲むというプログラムです。

中国茶は、非常に小さな芽を摘んだり、熟練の職人による丁寧な製茶作業が必要なことから、日本人が想像する以上に高価なものが多くあります。
しかし、そうしたお茶でも、他の嗜好飲料の効益(ベネフィット)と比較すれば、割高ではなくむしろリーズナブルであることに気づかされます。

そのような嗜好品的なお茶の世界をご紹介し、自分でお店で選んで買えるように、さらに自宅で美味しく淹れられることをゴールにしています。

初めての試みですので、他の嗜好飲料の講座ほど整理されたものにはならないかもしれませんが、この方向性が一つの解ではないかと感じています。
将来的にはテキストを一般書籍化して、初心者の方に手に取りやすい状況にしていくことや、全国各地で学べるような場を作っていきたいと考えています。

 

「中国茶基礎講座開講」のお知らせ

 

 

次回は11月1日の更新を予定しています。