第121回:中国茶をお得に買えるのは、現地か国内か

業務用からハイエンドのお茶まで国内で購入した1年

例年、この時期は中国や台湾に出かけていることが恒例でしたが、昨年の2月以降、出国できない状況が続いています。

そこで昨年からは、オンライン講座の教材用の茶葉や動画で紹介する用のお茶などは全量、国内の中国茶専門店やネットショップなどから購入しています。
この間に購入した茶葉の量は数十種類で約30kgほど。基本的には嗜好品レベルの高級茶がほとんどですので、高級茶に限定した買い手で見れば、そこそこの購入量・金額だと思います(個人消費ではないので)。

当初は現地の知り合いの茶業者から送ってもらうことも検討しました。
が、受講生の方に頒布する教材として使用することを考えると、きちんと正規輸入の手続きをとる必要があります。
人の口に入る食品の輸入手続きは、きわめて厳格かつ煩雑で、農薬検査費用などの負担もあり、多品種少量の輸入では、かえって高額になります。
また、コロナ禍で厳しい状況に置かれている国内茶業者の方の支援の意味合いもあり、昨年は全量を国内で調達しました。

かなりの時間を掛けて厳選したこともあり、現地で購入するよりも高品質なお茶を入手することもできましたが、購入したお茶が全て良かったわけではありません。
なかには、初めての業者から少量をサンプル的に購入して取り寄せたところ、そのお茶の良さが全く出ておらず、とても教材としての使用には耐えないと感じるお茶があったり、値段は割と高いのに品質が著しく低い、というお茶もありました。

実際に購入して品質を確かめてみると、やはり日本国内の中国茶にも「相場」があると感じましたので、少しその経験をシェアしたいと思います。

 

教材茶に求めるもの

お茶を購入する場合は、自分がそのお茶に求めるスペックを明確にしておくことが求められます。
私の場合は、「教材として使用する」という条件が付されています。

ただ単に「美味しい」だけでは、教材茶としては相応しくありません。
”そのお茶が本来持っているべき特徴”を表現できているお茶でないと、基本的には採用できないと考えます。
また、教材茶は中国茶に不慣れかもしれない方に、自分でいれていただくお茶です。
いれやすさを兼ね備えたお茶となると、必然的に雑味が少ない高品質なお茶が要求されます。

上記のような条件の下で、実際に商品を探してみると、予算との折り合いが付かないお茶というのが、いくつも出てきます。

たとえば、金駿眉の特徴がハッキリと表れている、桐木産の一番茶を調達しようと思っても、価格が折り合いません。
しかし、現代の中国紅茶を紹介するのに、金駿眉を抜きにして語ることはできません。
折衷案として、やや水色などの特徴は異なるものの風合いを感じられる武夷山産の夏茶に切り替えるなどして対応していきます。

あるいは、「どうしても武夷岩茶の”岩韻”をお届けしたい」ということになると、正岩茶区のきちんとした岩茶を用意せざるを得ません。これは現地の価格でも、全く安くありません。
また、東方美人に関しても、現地で絶賛されるような青心大冇種の細かな一芯二葉のお茶の味わいを体験したことがなければ、東方美人は紅茶みたいなお茶、の一言で片付けられてしまうことになるでしょう。
このように”本来の魅力を伝えなければならないが、その品質のお茶は現地の価格も非常に高いお茶”の場合、完全に予算オーバーになります。
が、そこは紹介する以上、敢えてきちんとしたものを購入します。
その差額分は、価格が高くなくても特徴を感じられるお茶(黒茶など)でバランスを取る、ということになります。

このように、数多くの種類の教材茶を予算内に収めて準備するのは、想像以上にハードな作業となります。

 

特徴が出ているお茶の一つの目安は、100g 3,000円

中国茶は、茶摘み一つを取っても、小さな芽だけを手摘みするものから、機械で刈り落とす”茶刈り”に近いものまであり、原材料である生葉の茶摘みにかかるコストは雲泥の差です。
そして、茶摘みコストの差は、そのまま茶葉の価格に大きく跳ね返ります。小さな芽を手摘みしたものは高いですし、機械で摘んだものは比較的安くなります。
また、その後の製造に掛かる手間やブランドプレミアムがあるお茶・無いお茶とさまざまなお茶があり、それぞれのお茶の適正な相場というのは、全く違ってきます。

そのような性質のものであるということを踏まえつつ、敢えて誤解を怖れずに目安を示すとするならば、日本国内では、100gあたり3,000円が一つのボーダーラインになるように感じます。

この価格を下回るものは、手摘みではなく機械摘みだとか、一部の黒茶のように”茶刈り”で生葉のコストが低い、茶摘みの時期がやや遅い時期である、などの例外を除けば、上記の教材基準に達しないお茶が多いように感じました。
「決して不味いわけではないけれども、この名茶の特徴を表しているかは疑問」というお茶が多くなります。
一般的な消費用途であれば、これでも問題ない品質なのでしょうが、中国茶の魅力を紹介するための教材という視点に立つと不十分です。

さらに、日本茶の世界では一つの目安とされる、100g 1,000円以下のお茶になると、看過しがたい雑味が目立つお茶がほとんどでした。
食事と合わせて飲むのなら多少の雑味は許容されるでしょうが、お茶単品で味わうのには不向きなお茶ばかりです。
ワインやコーヒーのような”嗜好品”として中国茶を紹介するのが趣旨なので、このようなお茶では紹介できません。

 

上記の100g3,000円というお茶の価格は、高いように感じられるかもしれません。
しかし、これでもあくまでベースラインであり、現地のそもそもの相場価格が高いお茶は、これ以上になることも珍しくありません。
たとえば、小さな新芽を摘むような中国緑茶は100g1万円を超えてきても、全く不思議ではありません。
武夷岩茶の正岩茶を購入しようとすれば、100gで2万円超えが妥当な水準です。
台湾茶でも梨山のような超高山のお茶や稀少品種、特殊な製法などであれば、100g 1万円でも正当な価格だと思います。

現地の真正な茶葉の相場と小口輸入の際の輸入経費がどのくらいかかるのかを考慮しても、この数値はほぼ妥当な線ではないかと思います。

 

中国茶は安くない趣味だが、高すぎる趣味でもない

この際、ハッキリさせておいた方が良いと思うのですが、良質な中国茶は高価なものです。

そもそも、現地での価格が高騰しています。
2000年頃の中国茶ブームの頃とは、現地の人件費がまるで違うので、その頃出版された書籍に書かれているブランド茶は、多くがもはや高嶺の花になっています。
中国の都市部の中間層や台湾の一人あたりGDPは、今や日本を上回っています。
当時と比べれば、日本の購入力が落ちているわけで、「高くなった」というよりも、「日本が世界の経済成長から置いていかれているので、相対的に高く感じるようになった」というのが現実でしょう。

さらに輸入品となれば、より高価になります。
お茶は食品であり、人の口に直接入れるものです。日本国内に持ち込む際には、客観的に安全性を証明しなければなりません。
そのためには、検査費用など種々のコストがかかりますし、煩雑な通関手続きもあります。
日本で販売しているカップラーメンは、台湾の現地では3倍の価格で売られていますが、食品が国境を正規に越えるのには、このくらいのコストがかかります。

この価格は嗜好品の中で、どの程度のポジションでしょうか?
ワインやウイスキーほどでは無いかもしれませんが、スペシャリティーコーヒーと同程度には高価なものだと思います。
中国茶は1回の飲用にかかる使用量が少ない(せいぜい3~8g)ので、たとえば100g 1万円の茶葉だったとしても、5gしか使用しなければ1回500円です。
少し多めにトッピングをしたスターバックスのコーヒー1杯分の価格程度で、そのテーブルを囲む数人が1時間程度、口福な時間を過ごせると考えれば、割安とさえ言えます。

2000年前後の中国茶の相場感のままの方からすれば、「そんなに高騰しているなら、もう中国茶は買わない」となるかもしれません。
それはそれで仕方が無いかと思います。現地の価格が高騰しているのですから、どうしようもありません。

旧来のファンにしがみつくよりは、むしろ”お茶がもたらす価値を正確に認識していただける消費者の方”にシフトしていくべきなのだろうと思います。
感性の高い方であれば、良質なお茶のもたらす香りや味わいの豊かさは、映画を一本見たのと同じくらいの感動を与えることもあります。
そこまでは大げさだとしても、ある程度の品質のお茶であれば、一日の終わりのご褒美のビールと同程度の幸福感を、多くの方にもたらしてくれると思います。

その対価として、上記のような価格が妥当であると感じていただける方を見つけていくことが、健全な成長に繋がるのだと思います。
現に、中国の消費者は、漫然とお茶を消費するだけではなく、お茶の持つ効用を理解して選択している方も増えてきており、そうした新しい消費層が市場を牽引しています。

 

高価な中国茶をどうリーズナブルに楽しむか

さて、そうは言っても、私たち一般庶民としては、できるだけリーズナブルに無駄なく中国茶を楽しみたいものです。

そのためには、

・極力、無駄打ちをせず
・必要なものを必要なだけ購入する

のが最も効果的だと思います。

「無駄打ちをしない」というのは、「良く分からないから、とりあえず買ってみる」を無くし、「自分の好みを把握し、情報収集をしっかりした上で購入する」という消費行動に変えることです。
適切な”情報”と好みを選択できるだけの”体験”を積むことで、これは実現可能です。

個人的なお話をすれば、私が今までの中国茶の経験を振り返って、「余分にお金を費やしてしまったな」と考えるのは、まさにこの部分です。
良く分からず、手当たり次第購入したものの、大失敗だった、という経験も多くあり、「あの分をもっと有効に活用できていたら・・・」と大変後悔しています。
趣味の世界では、「それが授業料だ」となるのですが、この授業料は安ければ安いほど、より多くの良質な体験に投資ができます。
さまざまな情報を、手に取りやすい形でシェアしているのは、そのような苦労を後から中国茶の世界に入ってくる方にしていただきたくないからです。

 

もう一つの「必要なものを必要なだけ購入する」ですが、今の日本の状況は、それに適した消費環境になりつつあると感じています。
というのも、現地の価格が高騰していく中で、日本の中国茶業者の方は、少量パックでの販売を積極的に行うなどで、買いやすさを確保するように努めています。

具体的にはパックの大きさが小さくなっています。
以前は100gや50g単位で販売していたものが、25gや10g、中には5gや8gなどのサイズで販売するお店が出て来ています。

これは大きくマージンを取っている中国の茶葉小売企業(小罐茶など)では行われていますが、台湾や中国のローカル茶荘などでは未だに実施されていない形態の販売方法です。
この方法は販売側に負担がかかるので、効率を考えるならば、やりたくない販売方法です(やる場合は、小罐茶のようにかなり大きなマージンを確保してやります)。
しかし、現地の良質なお茶取り扱っている専門店ほど、多くの方にその味わいを体験してもらうために、こうした試みを行っています。
しかも、そのマージン率は中国国内の小売り茶葉企業よりも低廉なので、結果的に見ると、中国の大都市で購入する価格とほとんど変わらなかったり、むしろ安かったりします。
少量ずついろいろ試したいという消費者サイドにとっては、この環境は、非常にありがたいものです。

こうしたお店を積極的に利用することが、巡り巡って、さまざまなお茶を少量ずつ気軽に楽しめる環境を維持することに繋がります。
少し安いからといって、日本の販売店は高いから、直接現地から購入・・・となると、販売ロットは必然的に大きくなるので、少品種大量の購入スタイルにならざるを得ません。
特定の日常茶を安く購入したいのであれば、現地調達は適した方法かもしれませんが、「さまざまな種類を気分に合わせて楽しみたい」という消費スタイルの方であれば、日本の中国茶専門店を活用した方がより豊かな中国茶体験ができるのではないかと思います。
※個人的には産地の現場を見るという必要性が高いので、コロナが明ければ現地調達になると思いますが。

 

なお、日本でも現地価格とほぼ変わらない価格で、少し容量の多いお茶を購入することも可能です。
それは、大手の輸入業者が取り扱う、著名なブランド(たとえば、中茶の胡蝶牌など)のお茶を購入することです。
こうしたお茶の場合、100g 2,000円程度で十分な品質を保っていることもあります。

これは小規模な輸入を行うのも、コンテナなどで大規模に輸入するのも、輸入にかかるコストに大差は無いため、その分の諸経費が軽いためにコストパフォーマンスが良くなるからではないかと思われます。
※たとえば、10kgを輸入するのも、1トンを輸入するのも、農薬検査費用はほぼ変わらず数万円なので、1gあたりの検査費用負担が軽くなる。
そして、販売マージン率が、中国の茶葉小売店よりも日本の輸入業者の方が低く設定されているので、内外価格差は小さくなるというわけです。

 

こうしたお茶もピンポイントで組み合わせていけば、「想像していたほど、現地調達(現地の大都市で)の価格よりも高くはならない」というのが、この1年間、多くのお茶を国内で購入してみた正直な感想です。
おそらく、お茶という”物質”を買うだけならば、現地の方が額面では安くなるでしょう。
しかし、無駄打ちや少量で良いのに多く買うしか無かったなどのマイナスや、国内の実店舗での交流など、それ以外の”体験”を考えると、価格差はもっと小さくなるのではないでしょうか。
与えられた条件の中で、いかに最良の方法を探るか、情報を集めるのかも、趣味の楽しみの一つだと思います。

 

次回は6月16日の更新を予定しています。

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