第100回:本格化する福建美人茶の生産

中国大陸で台湾の烏龍茶が生産されている理由

台湾の烏龍茶が中国大陸で生産されていることが良くあります。

「凍頂烏龍茶」「高山烏龍茶」「金萱茶」などの銘柄は、中国の茶舗でも手頃な値段で取り扱いがあります。
多くは中国の国内、特に雲南省や福建省などで生産されているものです。
これらのお茶の多くは、大元では台湾の茶業者が関与していたことが多く、単なる”コピー商品”とは一概に片付けられません。

たとえば、雲南省では、過去、環境の良さなどから有機での茶栽培を行うことを目的に台湾の茶業者が進出しました。
その際に、青心烏龍種や金萱種などの品種を持ち込んで栽培を試みたり、製茶機械を持ち込むとともに台湾の製茶師を招いて、製茶をさせている茶園もあります。

また、福建省は台湾の茶業者の原籍地(祖籍地・先祖の出身地)であることも多く、親類縁者がいるなど、縁の深い地域です。
福建省政府側でも台湾からの投資を呼び込むために、2005年以降、税制などの優遇措置を用意した台湾農民創業園を設置し、誘致を図ってきました。
※台湾農民創業園は茶業だけに限らず、現在は中国全土にあり、様々な農業が営まれています。海峡両岸農民合作網(中文)

「日本の自動車メーカーがアメリカで現地生産を行う」のに似た状況で、台湾の烏龍茶の品種や栽培法、製茶技術の移転が進んだわけです。
”単なるコピー商品とは言い難い”というのは、このような事情からです。

もっとも、今は独自で中国側が主体で経営する茶業者も増えており、必ずしも台湾の茶業者が関わっていないことも増えているようです。
徐々に”現地化”しているというのが、中国における台湾烏龍茶の一つの側面です。

現在では、台湾風の烏龍茶を規定する国家規格(国家標準)である『台式烏龍茶』という新しい基準が検討されています。
この基準の策定には、中国側だけでは無く、台湾側から台湾茶葉学会も起草者に名を連ねています。
草案では、台式烏龍茶とは「台湾の特定の茶樹品種の生葉を採用し、台湾烏龍茶の伝統的な加工技術で製造された製品」と定義され、製品の種類としては、「製造技術の違いにより、清香型、熟香型と、蜜香型に分けられる」となっています。
この草案はパブリックコメントの募集を行う段階に入っており、年内にも公布される見込みです。

 

規格化が行われた”美人茶”

最近、この手の台湾ルーツの烏龍茶の中で、にわかに動きが活発になってきているのが、”美人茶”です。
台湾の名茶である東方美人茶を中国大陸、とりわけ福建省や雲南省などで生産しているものです。

大きな産地になっている福建省三明市の大田県では、当地の”大田美人茶”をプロモーションするイベントなどが開催されています。

【中国茶情報局】第1回大田美人茶開茶節が開催される

この記事の中にもある通り、現在、福建省では三明市大田県のほか、龍岩市漳平市、泉州市徳化県、寧徳市周寧県などでも東方美人茶風の烏龍茶の生産が行われています。

このお茶の規格化(標準化)も進められています。
2019年11月2日には福建省と台湾の茶業者の交流を進めている海峡両岸茶業交流協会が、”美人茶”に関する4つの団体標準(団体規格)を公布し、同日から施行しました。
4つの規格とは、製品を定義する『美人茶』(T/CSTEA 00005-2019)のほか、『美人茶栽培技術規程』『美人茶加工技術規程』などの製法に関するものと鑑定方法についての規格です。

規格化がされたということは、ここから一気呵成に産業として育成していく方針のようです。

 

美人茶の定義とは

今回、団体標準『美人茶』(T/CSTEA 00005-2019)を入手できたので、少し内容を見てみたいと思います。

まず、前文ですが、この基準の策定にあたっては、大田県が主になって進めたようです。
起草者には、大田県茶葉学会、大田県海峡茶業交流協会、大田県農業農村局、大田県市場監督管理局などのように続き、そのあとに福建省内の美人茶製造メーカーが名を連ねています。

本文で最も重要な美人茶の定義ですが、以下のように記載されています。

ウンカ(小緑葉蝉)に刺されて吸われた茶樹の新梢の一芽一葉~一芽二、三葉を原料とし、独特の製法で製造された烏龍茶製品。その品質特性は、外形は自然に巻かれて縮まり花びらに似ていて、色は紅、黄、褐、白、緑の五色が入り混じる。香りは天然の果蜜香があり、味わいは甘くて蜜韵があり、茶湯は琥珀色で、茶殻は柔らかく伸びやかに広がる。

ウンカの咬害に遭った茶葉を用いることを明記しています。
葉っぱの大きさについては、台湾では一芽二葉を原則としていますが、より茶摘みコストのかかる一芽一葉とより茶摘みコストの低い一芽三葉までを許容するとしています。製品としての幅は出て来そうです。
外観や味わいについては、台湾での東方美人とほぼ同じものと考えて良いと思います。
が、最近の新竹などの東方美人茶がやや発酵を低めに抑えた黄金色に近い水色を追求しているので、そこから見るとより伝統的な水色を目指しているようです。

 

福建美人茶の味わい

ちょうど手元に日本の茶業者さんが扱っている泉州市徳化県の美人茶がありましたので、飲んでみました。

このお茶の値段は、100gで約3000円の売価設定がされています。
輸入コストなどから現地価格を計算すると、台湾の現地では1斤1600元ぐらいで販売されているランクに該当すると思います。
正直、この値段では、唸るほど美味しい東方美人茶は購入できませんので、普段飲みのお茶であるという前提で飲んでみたいと思います。

外観については、白毫もあり、褐色、黒、黄色と色合いも混じっているので、基準通りだと思います。
大きさ的には繊細とは言えない部類ですが、価格を考えれば、値段なりだと思います。

味わいについては、発酵による甘い香りはきちんと出ており、また発酵不良などの青みなどは抑えられているので、製茶は比較的上手にされているように感じます。
品種は香りと味わいの傾向から、おそらく青心烏龍茶か、その亜種が中心だと思います。
甘みについては、茶葉の力が足りないため、正直今ひとつですが、価格を考えれば十分に水準以上です。
少し冷めると甘みが増すので、ティースタンドなどで売り出すには良いかもしれません。

茶殻は一芽一葉から三葉まで少しバラツキがあります。コストゆえの問題ですね。
芽が少し細いものが多いので、時期的に少し遅い時期のお茶なのでしょう。そのため、甘みが今ひとつと感じたようです。
もう少しコストを掛けたお茶を購入すると、印象はまた違うかもしれません。

個人的に青心大冇種の東方美人茶が好きなので、どうしても評価は厳しくなるのですが、価格で考えると、このお茶が1斤1600元だったら、十分に安いと思います。
むしろ、1~2ランクぐらい高い値段で売られていても不思議ではありません。コスパは良いと思います。
味わいの傾向としては、品種や発酵程度から新北市産(坪林、石碇)に似ているので、そのあたりの低価格茶を買うのであれば、こちらを積極的に選びたいぐらいです。

 

今回は、比較的手頃な価格帯のサンプルでしたが、量産品として一定の品質は保たれているようです。
高級品がどのような品質になるのかは、まだ未知数です。
が、大田県などは高山烏龍茶の産地としても知られており、先天的な茶産地の条件としては、台湾の産地より恵まれているかもしれません。
現時点では、まだ台湾の方にアドバンテージがありますが、今後、技術的な進化が進んでいけば、本家を凌ぐお茶が出てくる可能性もあります。
その日が来るのは、案外近いかもしれません。

 

次回は7月16日の更新を予定しています。

 

 

 

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