第148回:台湾の茶業統計を見ると分かる、ちょっと意外な事実

中国や台湾の茶業統計に関する情報が、ほぼ無い理由

日本人に中国茶や台湾茶は比較的馴染みが深いのに、意外と知られていないのが、現地の茶業統計です。

中国茶や台湾茶の動向や概略を知る上では、現在の生産量や栽培面積、産出額などのデータとその推移は、本来欠かせないものです。
しかし、おそらく見ることは、ほぼ無いと思います。
それには非常に明確な理由がきちんとあります。
少し長い前置きになりますが、最後の部分に繋がっていく話ですので、しばらくお付き合いください。

 

まず、現在、中国茶や台湾茶に関する情報源は、ほぼネットの情報になっていると思います。
ネットの情報は誰が発信しているものかというと、新聞などのメディア企業か公的機関や業界団体、あるいはその産業に属する会社、そして個人のブログ等(Wikipediaなどもこれに該当)の情報です。

中国茶・台湾茶に関する情報ということで考えると、メディア企業が積極的に詳しい情報を報じることはほとんどありませんし、業界団体もほぼありません。
他国のものですので、公的機関からの日本語情報も期待できませんから、結局、情報発信をしているものは、販売店の情報か個人のブログの情報、あるいは広告収益目的のキュレーションサイト(いわゆる「いかがでしたか」ブログ)、Wikipediaぐらいになります。
この中で、信憑性がありそうな情報ソースとなると、専門性を有していそうな、お茶の販売店さん・・・ということになるかもしれません。

そこで、これはネットメディアに接する人であれば、必ず用心した方が良いことですが、ネット上にアップされるコンテンツには、情報の質的な偏りが必ず生じます。
なぜなら、ネット上にコンテンツを作ることには結構な労力とコストがかかるので、その労力とコストに見合わない情報というのは、ネット上には上がってこないのです。

その典型例が統計でして、重要であることは間違いないのですが、調べる労力の割に、得られる見返りがあまり多くない情報です。
なにしろ、一般の人は、知らなくても良い情報です。
そんなことよりも、販売しているお茶の詳しい情報だったり、美味しい淹れ方を紹介してもらった方が、客の立場からすれば、よほど役に立ちます。
コンテンツを作るという同じ労力を掛けるのであれば、そのような情報を優先するのは自明のことです。

ゆえに、ネット上には、

・一般の人が求めている内容(アクセス数が見込める)
・自社の売り上げに貢献しそうだと思われる情報(プロモーションに役立つ)
・他のサイトや書籍の内容をまとめて転載することのできるもの(コンテンツの生成コストが低い)

ぐらいしか、基本的にはありません。

例外は、採算という面を度外視した、個人のブログやSNSぐらいかと思います。
しかし、個人となると、情報の信憑性がどうか?という話になってきます。

話を元に戻しますと、統計情報というのは、個々の専門店が発表しても、お店にはほぼ何のメリットも、もたらさない情報です。
ゆえに、ネットではほぼ見つからないのです。

そのような情報の質的な偏りは、栄養が偏るのと同じような結果をもたらします。

個々のお茶などのミクロな情報については妙に詳しいのに、全体的にお茶がどのくらい作られているのかなどのマクロな情報はほとんど分からないという、何とも不思議な状況に陥ってしまいがちになるのです。
分かりやすく喩えるならば、外国人観光客に日本の美味しいお店の情報は教えられるけれども、日本という国の概略を掴むために必要な人口や面積などの客観的なデータは聞かれても答えられない・・・という状況に似ています。
日本で生活している中では、人口や面積を知らなくても全く生活に支障は無いのですが、他者に全体像を説明しようとすると、途端に困ってしまうわけです。
また、全体像が見えないことによる、さまざまな誤謬も起こりやすくなります。

健全に情報を積み重ねていく上では、ミクロの目もマクロの目も、どちらも必要なのです。
そのことは、実際にマクロの情報に触れてみると良く分かります。

 

現地の統計はどうやって得るのか?

さて、海外の統計データというのは、本当に基本の情報ではあるものの、ニュースなどで分かりやすく紹介されていないと、どうにも取り扱いにくい情報です。

具体的な手順としては、現地の統計機関のWebサイトにアクセスして、お目当ての情報を検索し、引っ張り出すという技術が必要になります。
慣れている人にとっては大したことでは無いのですが、その技術を分解してみます。
まず、最低限の語学力(文字が読めれば良いので、漢字圏の日本人は有利です)とどこにその統計があるかを知っている必要があります。
そして統計サイトの検索画面では、専門的な用語も少し出てくるので、そもそも統計に何が書かれているかを事前に知っている必要もあります。
そんなこともあって、一般の方が日本語で中国や台湾の茶業統計を得ることは、比較的難易度が高いと思われます。

というわけで、こういう場面こそ、「中国茶アナリスト」の出番でもあります。
このブログや中国茶情報局では、中国の茶業統計は積極的に紹介をしている方です(中国の方がダイナミックで、個人的に面白いと感じているからです)。
一方、台湾の方は手薄でしたので、今回、改めて調べてみることにしました。

具体的には、台湾の行政院農業委員会のWebサイトにアクセスし、簡単に引き出せる2008年~2021年の生産量、産出額、栽培面積(作付面積)と単価の推移を調べてみました。

 

2008年~2021年の台湾の茶業統計

栽培面積

行政院農業委員会発表データよりTeamedia制作

栽培面積については、2013年頃までは明確な右肩下がりになっていました。
しかし、そこからはほぼ横ばいで推移しています。
高齢化などで小規模な茶農家の廃業が相次いでいるのは、日本とあまり変わらない状況なのですが、その一方で台湾農林など大手の大規模な茶園開発も見られるからです。
そのようなこともあって、約1万2千haほどのラインでの攻防が続いており、意外な印象があるかもしれません。

生産量と産出額

行政院農業委員会発表データよりTeamedia制作

生産量については、全般的には右肩下がりですが、年による増減がかなりあります。
2021年の急減は深刻な雨不足の影響、新型コロナウイルスの流行で茶摘みを担う外国人労働者の入国が困難になったことなどが影響していると思われます。
マクロの数値で見えることをミクロの状況と当てはめることで、グラフの凹凸の理由が見えてきます。
一方、産出額については、意外にも右肩上がりの状況に見えます。
これは次の単価を見ると明らかです。

単価

行政院農業委員会発表データよりTeamedia制作

単価を見てみると、明らかに上昇傾向にあることが分かります。
このあたりは、日本の茶業の状況と比較してみると、大分違う点かもしれません。
「きっと、台湾も日本と同じような状況だろう・・・」と思っていた方には、意外に感じられる点かと思います。

しかし、台湾の市中での茶葉の販売価格は、あまり大きな上昇をしていないことに思い当たる方もいるでしょう。
これは一体・・・と考えていくと、「これは境外茶の問題かもしれない」と思い当たり、輸入統計を見てみよう・・・というようになるはずです。
まとまったデータを見ることで、仮説を持つことができるわけです。

 

マクロの情報とミクロの情報を見比べて、仮説を立てることで理解は深まる

長い前置き部分で申し上げた、マクロの目とミクロの目を持つことの重要性は、上記のグラフをご覧いただければ、ご理解いただけたのではないかと思います。
細かく見るだけではなく、俯瞰をして全体を眺めることで、台湾茶全体の趨勢が分かりますし、今後起こるであろうことも見えてきます。

これはお茶に限ったことでは無いですが、どうしても多く流れてくる枝葉末節の情報ばかりに囚われてしまい、全体像が見えなくなることも多いものです。
時には、こうしたマクロの情報に触れることも必要かと思います。

上記のような統計情報の数値データは、今後は当社の運営する中国茶を学ぶ人のためのオンラインコミュニティ・Teamedia Salonで公開し、学習にお役立ていただく予定にしております。
こうしたデータに関心のある方は、ぜひ登録の上、ご覧いただければと思います。

 

次回は8月16日の更新を予定しています。

 

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