第158回:事業目的は何か?にお答えします

あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

年頭ということもあり、いま一度、当社のスタンス・事業目的についてお話ししておきたいと思います。

裾野を広げ、土台を高くすること

当社では、中国茶を中心とした情報をネット上で発信するとともに、中国茶に関する各種の講座・セミナー等を運営しています。
事業というものは必ず目的があるはずですから、それがどこにあるのか?というのが気になる部分かもしれません。

一般的な事業モデルとしては、「情報や知識をネットで広めて、最終的には自社の茶葉や茶器をご購入いただき、そこを収益源とする」というものがイメージしやすいかと思います。
しかし、当社では茶葉や茶器の販売を行っておりませんから、「販売が最終目的ではない」ということになります。

それならば、「いわゆる流派的な組織を構築すること」が目的なのか?となりますが、これもまた該当しません。
特段、資格のようなものも発行していませんし、家元制度や徒弟制度のようなことも、特に実施しておりません。

「そうなると一体、何が目的なのか?」ということになるわけです。

これについては、非常に明快に答えることができます。

それは「茶の愛好家の裾野を広げ、その土台を高くする」ということです。
これによって、”茶業界のマーケットサイズを大きくする”というのが、当社の目的です。

 

“中国茶”ではなく”茶”、”消費者”ではなく”愛好家”

サラッと書きましたが、いくつか意外に感じられるところもあると思います。

中国茶・台湾茶は、茶への関心喚起の入口

まず、「中国茶だけではないのか?」という点です。

当社で現在、実施している事業は中国茶・台湾茶に関するものがほとんどですが、最終的には”茶”全体の愛好家が増えることが目的です。

”茶”の愛好家が増えるための入口の一つとして、中国茶・台湾茶は非常に適していると考えています。
それは、製茶の技法が数多くある点(六大分類が揃う)、数多くの品種がある点(大葉種から中小葉種、タリエンシスのような近縁種まで)、環境の極端に違う産地がある点(地域ごとの味)などが掛け合わさって、もっとも”茶”という植物から作られる飲料の可能性を感じやすいためです。
また、日本茶や紅茶ほど、馴染みのあるものではありませんし、既に確立した理論や研究者が多いわけでもなく、”学ぶ”という環境が作りやすいという面もあります。

”茶”の可能性をもっとも感じてもらいやすく、また異国のものとして”学ぶ”という意識を持ちやすいもの。
それが日本の現在の市場においては、中国茶・台湾茶なのではないかと考えています。
※私自身が、日本茶や紅茶ではなく中国茶・台湾茶に可能性を感じたということから、同じように考える方が多いのではないか、という仮説です。

実際、中国茶の愛好家の方が、急に日本茶や紅茶などにも関心を示すことはよくあります。
幅広い茶に対して適応してきた中国茶・台湾茶の愛好家にとっては、国境を越えたさまざまなお茶を楽しむことは、延長線上にあるのです。

”消費者”と”愛好家”の違い

もう一つは、”消費者”ではなく”愛好家”であるという点です。

”消費者”は文字通り、”消費”をする”者”です。
この場合は、ニュアンスとしてどのような形であっても”消費”をしていれば、消費者です。
特段、お茶に対して大きな関心を払うことは無くても、”消費”さえすれば良いという考え方でも、マーケティングは成立します。
例えば、慣習的に飲むように仕向ける、健康の機能性をPRし健康機能食品として浸透させる、などです。
20世紀から続く、マスマーケティングが有効な世界です。

しかし、このような方向性に行けば、コモディティ商品になるわけですから、より安価な産地との競争・より簡易な方法での摂取に向かいます。
その商品に特別な思い入れなどの感情を特に持っていないのですから、より安いものを求める流れには抗えず、茶価の下落は免れないでしょう(実際、そうなっています)。

 

一方の”愛好家”は、こちらも確かに”消費”をする存在ではありますが、ややニュアンスが異なります。
その商品を”愛”して”好”むわけですから、商品に対しての”思い入れ”が違います。

従来型のマスマーケティングだけではカバーしきれないような、製品のストーリーや細かな情報すらも、商品の魅力の一つとなります。
価格の安さということを優先するよりも、生産にあたってのストーリーや産地の環境、歴史や文化など、そうしたものもひっくるめて”商品”として受け取ってくれる存在です。
商品の価格だけを見て選ぶのでは無く、生産者がした努力なども汲み取って選んでもらえるという、生産者に寄り添う存在でもあります。

しかしながら、特定の商品にそのような熱量を傾けてもらえる人数は、当然、少なくなるはずです。
また、細やかな情報提供などが必要になりますから、マスマーケティングには向かない対象です。
場合によっては、熱量が過ぎるあまりの過剰な要求をするケースもあるので、今までは比較的疎んじられていた存在かもしれません。

とはいえ、商品に対して、付加価値を感じるポイントが明らかに多いわけですから、茶価が多少高くなっても、それに見合う価値を”愛好家”が感じれば成立します。
仮に愛好家の人口が、これまでの”消費者”の1割程度でしかなかったとしても、10倍の茶価でも受け入れられるとなれば、茶の市場は全体として倍に成長するということです。

これまで、店のロイヤルユーザーを育成するということは、どこのお店もやってきたと思います。
しかし、本当の意味での”愛好家”を育てる活動は、まだまだ不十分だったのではないかと感じます。
「ここは改善できる余地があるのではないか」と感じています。

 

どのようにして”愛好家”の裾野を広げるか?

では、具体的にどのようにしたら”愛好家”は生まれるのでしょうか?

愛好家は”作り出す”ことはできない。”育てる”ことは可能。

これに関しては、正直、人為的に産み出すことは、なかなか難しいと思われます。
”水を飲もうとしない馬に水を飲ませることはできない”のと同じで、関心が無い人に何を働きかけても意味が無いからです。
むしろ、「お茶は、なんだか鬱陶しい」「説教臭い」と逆効果になり得ます。

しかし、伝統ある飲み物というのは、必ず一定数は”興味・関心を持つ人”が出て来ます。
こうした方に適切にアプローチして、負担に感じないような方法で的確な情報を提供したり、お茶を体験できるような場を提供していく。

適切な情報や知識を体験と結びつけていくことで、興味・関心は自然と深まっていきます。
ある程度の経験を積み、自分で判断しながらお茶を選んだり、淹れたりするようになれば、立派な”愛好家”として育っていくはずです。

順調に行っている嗜好飲料などでは、このようなサイクルが確立しています。
このような新規の方が入ってくるサイクルができていて、既存の方の関心喚起を続けられるような仕組みがあれば、自然とマーケットは成長していきます。
しかし、残念ながら、お茶にはそれがありません。
「何が足りないのか?」を考えて、これを埋めていく作業が必要になります。

理論と実際のギャップ

上手く行かない理由はいくつかあります。
例えば、以下のようなものです。

  • ”茶”という嗜好飲料についての説明が十分ではない(日本茶、紅茶、中国茶を貫くような科学的な説明ができていない)
  • 情報が初心者に分かりやすい形で提示されていない(分かりにくいか、分かりやすくても本質を捉えていないので子供だましに見える)
  • 初心者が気軽に低コストで触れられるような情報が薄い・不十分(書籍、Web、YouTube等)
  • 気軽に入れて相談できる専門店がない(店舗数が少ない、全国チェーンに慣れているとサービスレベルが気になる)
  • 基本的な情報とマニアックすぎる情報が並列されていて、初心者には混乱を招く(銀歯をしているとお茶の味が分からない、安物の茶器は茶の味を損ねる 等)
  • フレッシュな情報がきちんと提供される信頼できる情報源が少ない(クセのありすぎる情報を提供している、体系化されていない、メジャー感が無い 等)

自分が初心者になって、何も分からない状態だったら、どう思うのか?という視点に立った整備が色々されていないわけです。
このあたりをどのようにして解消するか、あるいは取り組んでいる方をどう支援するか、というのが、当社のやっている事業になっているわけです。

 

先を見据えた「0→1」「1→10」を目指す

最近、ビジネス界隈で使われる用語で、「0→1」や「1→10」という表現があります。

「0→1・ゼロをイチにする」とは、今回の話に置き換えれば、全く関心の無かった人にきっかけを与えていくということです。
非常に良い言葉なので、0→1を目指すというのは、普及に携わる方がよく話されることです。

しかし、やみくもに0を1にすれば良いわけではありません。
興味を持った人にできれば、より深いところに関心を持っていただきたいわけです。
それが「1→10」の部分になります。
お茶の場合は、「専門店で好みのお茶を専門用語に臆せず買うことができ、自由自在にお茶を淹れられる」というあたりが10かもしれません。
大体これができれば、一人で自由にお茶の世界を楽しめるはずですので。

そうなると、「0→1」をする際に、「1→10」のステップもスムーズに通り抜けていくことができるような、きちんとした知識や情報をお伝えしておくに越したことはありません。
自分の店舗の独自の解釈では無く、どこでも共通して使用できるような「0→1」の知識・技術を教えてあげる必要があります。

ここの部分が、まだまだ不十分だと個人的には感じています。
当社では極力、「0→1」「1→10」の部分にフォーカスして、情報発信を行っていきたいと思います。
また、そのフェーズを担えるような人材の育成やお店等の支援も行っていきたいと考えています。

先に述べたような、”どこでも共通して使用できるような知識と技術”が、容易く手に入るようになったら、土台が底上げできた、と言えるのでは無いかと思います。

 

次回は1月16日の更新を予定しています。

 

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