第63回:お店が発信できる最も有益な情報とは

現在、弊社で運営している「中国茶情報局」のリニューアル作業をしています。

その作業の中で、国内の中国茶のお店をWebを使って調べていたのですが、初心者の方の気持ちを考えると、「これではお客様から信頼を得られないだろうな」と感じることがありました。

 

実店舗を訪れるときの初心者の心理

これまでお茶に興味の無かった方が、何かの拍子で「中国茶、面白そうだな」と思えば、どのような行動を取るでしょうか?

昔であれば、「書店に出かけて中国茶の本を探す」だったかもしれません。
が、今の時代は、みなさん手元にあるスマートフォンか、パソコンでGoogleなどを使い検索をかけると思います。

しかし、検索をかけて、すぐにネットショップで茶器と茶葉を購入・・・という方は、そう多くありません。
多くの方は、「茶器や茶葉を買って失敗するのもなんだから、まずは身近で体験できそうなところに行ってみよう」と考えます。

そのような方の最初の受け皿になるのが、地元や職場の近く、見知ったよく行く街などにある、中国茶のお店です。

いきなり購入であれば、販売店でも良いのですが、「中国茶や茶器は、どのくらいの値段がするものかの見当も付かない」という方がほとんどだろうと思います。
「分からないもの」は、どんな人でも怖いのです。いくらぐらい請求されるのか分からないのでは、お店に入るのも躊躇します。
そうなると、やはり向かう先は、喫茶をやっているお店です。
気軽な値段で体験するのであれば、やはり喫茶、という選択肢になります。

とはいえ、喫茶のお店でも、「お茶だけ飲みに来る」というのは、やはり初心者にはハードルが高いように感じられます。
お茶”のみ”ということになると、「お茶についての専門的な知識が必要ではないか?」「店員さんから色々聞かれたらどうしよう??」と感じてしまうからです。
初心者の方にとって、良く分からない世界の、しかも「専門店」というものは、お店の方が思っている以上に怖いと感じてしまう場所なのです。

そこで、「点心などが付いたランチを食べつつ、食後に少しお茶を飲むことができるようなお店」だったり「スイーツが名物になっているようなお店」を探すことになります。
これならば、普通の中華ランチを食べたり、スイーツ屋さんに行く感覚で来店できるので、客側にとっても、気負いは少なくて済みます。
料理が美味しいか不味いか、お店の雰囲気が良いか悪いか、は消費者としてさまざまな店に行っているわけですから、比較的、自分のテリトリーです。
そのような部分がある店の方が、安心できるのです。

 

営業日・営業時間すら分からない店

そのようなお店を、たとえば「食べログ」や「ぐるなび」などのサイトで見つけたとします。
サイトのクチコミなどをチェックして、「何となく、ここは初心者でも訪問できそうだ」と感じました。

これらのサイトに掲載されているお店の営業情報(営業日・時間など)は、最新でないことが良くあります。
それは客側でも分かっているので、念のため、お店のホームページも確認します。

そして、各お店のWebサイトに飛んでみると・・・

オープンの時に綺麗に業者が作ったものの、最終更新が5年前で止まっているWebサイト。
1年以上も更新していないブログ。前回の更新は、「2017年あけましておめでとうございます」。

などが目に入ります。

お店が忙しい、Webサイトを更新する方法が分からない、など、お店側に色々な事情はあるのだろうと思います。

しかし、客からすると、このようなサイトにぶち当たれば、

「本当に、この店はやっているのだろうか?」

と訝しく思うことでしょう。

FacebookやTwitterなどのSNSのアカウントを持っていれば、そこで営業状況の確認もできるのですが、それすら無いこともあります。
そうなると、「このお店に行こう」と考えていた思考に急ブレーキがかかります。

友達を誘おうにも、営業日が良く分からないのでは、誘うわけにはいきません。
誘っておいて無駄足になるのでは、友達に申し訳ないからです。

それなら、「電話で問い合わせれば良いではないか」と思われるかもしれませんが、なにしろ、最近は家族や友達との連絡もLINEなどで済ませる世の中です。電話は苦手という人も増えています。
見知らぬお店、しかも、このようなお店は個人店でしょうから、もしクセの強いオーナーさんだったら・・・と考えると、電話をする気も起きません。
電話を掛けるということのハードルは、お店の人が思う以上に高いのです。
ネット予約が、なぜ流行るのかは、その表れの一つです。

結局、「このお店は止めて、他のお店にしよう」ということになります。
選択肢のある大都市なら、まだ良いですが、地方だと「県内に専門店はここしか無い」ということも、よくあります。
そうなると、誰かから誘われない限り、自分からアクションを起こす気にはなりません。

そうこうしているうちに「中国茶、面白そう」のマイブームは冷め、他のものに興味が移っていってしまいます。

営業状況が確認できない店は、このようにしてお客様を失っているのです。
そして、そのことは店の中にいても、分かりません。

 

マーケットが小さいということは・・・

日本における、中国茶というのは非常に小さなマーケットしかありません。
きわめてニッチなマーケットです。

マーケットが小さいというのは、すなわち「客数が少ない」ということです。

「客数」というのは、もう少し分解すると、

「来店客の絶対人数」と「その人の来店頻度」

を掛け算にしたものです。
マーケットが小さいというのは、来店客の絶対数も少ないし、来店するスパンも長めだということです。

このような中で、きちんとお店を運営できるだけの収入を確保するならば、

1.広域から集客する(地元だけではなく、遠方の人も取り込むことで、絶対数を増やす)

2.お店のファン化する(来店頻度を上げる、紹介をしてもらえる工夫をする)

ということは必要不可欠です。
常連さんをきちんと確保しつつ、新規のお客様を獲得していくことが、新しい文化である中国茶を広めていく唯一の方法です。

もっとも、固定客の数が少なくても、毎日のように来てくれれば、店の運営に必要なだけの売上は確保できるかもしれません。
この場合は客単価をあまり高くできませんし、飲み物だけでは難しいので、ランチやモーニングなど、食事の需要も店に取り込むことで来店を促進することになります。
※地元の喫茶店というのは、大体こういうイメージで、一見さんには心地よくないのですが、常連には心地よい店です。

あるいは、「わざわざ遠くから来てもらっても、満足してもらえる特別な店」にしていくという道もあります。
この場合は、特別なロケーション・内装であったり、料理、お茶など、”他では味わえない、この店だけの魅力”が必要になります。
そのかわり、客単価は「時々する贅沢」という扱いで、少し高めにとることはできるでしょう。
新しい方も遠方からでも「評判を聞いて」という形で来店しやすくなります。

お店の戦略として、どちらを目指すのかはオーナーの考え方次第です。
台湾の茶藝館をみても、街中で食事需要を取り込む店もありますし、九份などの観光地でちょっと特別な空間を楽しむ店もあります。前者は比較的手頃な価格であることが多いですが、後者は高単価になりがちです。
普段なら使わないな、と思う金額でも観光地だから成立するわけです。

 

日本において、現実問題として考えると、多くのお店はこれらの要素をミックスしたお店になると思います。
地元のお客さんに来てもらいたいけれど、やはり広域のお客さんも欲しいし、なにより新規のお客様が欲しい、というお店がほとんどでしょう。

一度来たお客様を常連にしていくというのは、お店自体の魅力ですし、お店の店長さんやオーナーさんの人柄という所が多いように思います。
しかし、遠方の方や新規の方にまず来てもらおうとするのであれば、無駄足を踏ませないためにも、少なくとも営業情報をリアルタイムにお伝えする仕組みは必要でしょう。
ご新規さんや遠方の方ほど、お店が開いていなかったというダメージは大きく、二度と来てもらえなくなる可能性は高くなります。
「評判も良い」「近くに行く用事がある」などの要素の上に、「行きたい日に確実にやっていそう」が組み合わされば、訪問してみようか、となってくるわけです。

 

やらない理由・出来ない理由は、もはや通用しない時代

営業情報を広くお伝えするというのは、以前であれば、高額な費用を払って、Webデザイン会社にWebサイトを発注する、という形か、頑張ってWebサイトを自作し、更新する、という手段しかありませんでした。
これは個人店にとっては、あまりにも金銭的にも技術的にも、重い負担です。

お店というのは、日々、お店を開けて閉めるだけで大変な労力を使うものです。
端から見ていると簡単にできるように思えるのですが、実際にやってみると、「とてもそれ以上のことはできない」と感じる方が多いようです。
そのような状況を知っているだけに、「ホームページを作ってください」「こまめに更新してください」と言うのは、憚られるものでした。

 

しかし、最近は時代が変わりました。

FacebookやTwitterなどのSNSを使ったりすれば、休業の情報発信を行うのに金銭的なコストはかかりません。
わざわざパソコンを開かなくても、スマートフォンを片手で操作するだけで簡単に情報を発信できるようになっています。
急な発熱で寝込んでいても、布団の中からメッセージを投稿することもできるぐらいです。

固定の営業日変更であれば、Googleのマイビジネスにお店を登録するという方法もあります。
あるいは、食べログなどのサイトの店舗会員となり、店舗の公式情報として告知する方法もあるでしょう。

このように、”お金を掛けずに情報を発信する方法”というのは、インターネット上にいくらでも転がっている時代です。
いかにニッチなビジネスであったとしても、金銭的な理由でできません、というのは、もはやお客さんにも納得してもらえないようになっています。

「いやいや、パソコンやスマートフォンのような機械は苦手で・・・」

というオーナーの方もいらっしゃるかもしれません。

それならば、古風ではありますが、昔からの商売の基本として、一度掲げた営業日・営業時間をきちんと守り通すことだと思います。
こういうお店は、お客さんも安心して訪問ができます。

しかし、多くのお店は、個人で経営されています。
複数のスタッフがいる店ならば何とかなるかもしれませんが、突発的な病気や用事などで、どうしても営業変更せざるを得ないことがあるものです。

そのような場合に、きちんとSNSなどを使って告知をしているかいないかで、客側の印象はまるで違います。
ニッチなマーケットなので、このようなことがあることは、お客さんも重々承知しています。

どこかできちんと告知していれば、訪問して空振りに終わったお客さんも、「事前にSNSをチェックすれば良かった」と店側の問題ではなく、自分の問題として納得してもらえます。
が、店の休業の情報は、調べてもどこにもない。それなのに、「わざわざ店に来たのに、やっていなかった」となれば、客側は納得するでしょうか?
常連の方ならば、「ああ、今日は何かあったのかな。大丈夫かな」と好意的に受け取ってくれるかもしれません。が、新規のお客様であれば、ほとんどの方は腹を立てることでしょう。

 

実際、私も営業日があまりに不定期で、あまり行かなくなってしまったお店があります。
良いお店なのは間違いないと感じるのですが、営業カレンダーが当てにならないとなると、だんだん足は遠のくものです。
個人でやっているお店なので、突発的な事情があるのは分かるのですが、「それなら、どこかにちゃんと書いておいてよ」と感じるのです。

 

そもそも、客商売をするのなら、自分の店の営業情報をお伝えすることは、当然やらなければならないのです。

会社や学校を休む際、「連絡も入れず、無断で休んでしまう主義だ」という方は、ほとんどいなかったはずです。
それと同じことを、自分のお店でもやれば良いのです。
その際の連絡先が上司や先生ではなく、広くお客様一般になり、その連絡の方法が電話ではなく、インターネットになったというだけの話です。

 

「電話を掛けたくないから、連絡しなかった」という理屈が通らないのと一緒で、「機械が苦手だから掲載しません」も、もはや通用しなくなっています。
台湾や中国に行くと80歳か90歳の方でも、スマートフォンを使いこなし「(Facebookや微信の)友達申請をしていいか?」と聞いてくるような時代です。

それでも「苦手」「できない」と言い続けるのは、もはや「克服する気が無い」「お客さんをおもてなしする気が無い」と思われても仕方ありません。
詳しい方に相談して、できるだけ簡単にやれる方法を教えてもらうなりして、最低限、お店を休む告知ぐらいはできるようにしたいところです。

 

「行きたいときにお店がやっているかどうか」こそ、最高の情報提供

ブログやWebサイトで、「中国茶の情報発信をします!」と気負って始めるものの、結局、ネタを集めて書くのに疲れてしまう。
そして、お店が忙しくなると更新が疎かになり、いつの間にか、開店情報すらも掲載しなくなってしまう・・・というのは、良くあるケースです。

そもそも、専業でやっていても、ネタには困るものです。
お店を営業しながら、お店と直接関係の無い、情報発信まで手がけようとするのは、かなり難しすぎるハードルです。
よほど、文章を書くことが苦にならないか、役割分担ができていないと実現できないでしょう。

そのような情報よりも、お客さんにとっては、「行きたいお店が、その日、やっているかやっていないか」ということこそ、最も求めているものです。
しかも、その情報は、お店の方しか知らない、誰にも書けない情報なのです。

お店が開いているかどうかを、タイムリーかつ的確にお伝えすること。
これこそが、最大の顧客サービスですし、その積み重ねこそが、お店の信用・信頼にも繋がると思うのですが、いかがでしょうか。

 

次回は2月12日の更新を予定しています。

 

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