若者需要を喚起すると期待される台湾のティースタンド。現在進化中。

昨今、「若い世代で、急須の無い家庭が増えた」「だから、リーフティーが売れない」という話をよく聞きます。

このような状況をマスコミは「若者のお茶離れ」と見出しを打ち、これこそが茶業不振の原因とばかりに報じます。

 

本当にそうでしょうか??

 

事実では無い「イメージ」だけで業界の戦略を考えてしまうと、まず間違いなく失敗します。
「最近の茶業の不振は、イマドキの若者がお茶を飲まないからだ」というのは、あくまでもイメージに基づく仮説だからです。

本当の意味での業界戦略を立てるのであれば、イメージではなく、客観的なデータに基づいて、過去の成功要因や現状、そして将来の戦略を考えなければいけません。

 

今回は、そうした現状把握に役立つ統計の1つをご紹介します。

マーケティングを少し解する人なら、必ず当たる統計である「家計調査年報」。
総務省統計局のWebサイトから、誰でも閲覧可能なものです。まったく特殊な情報ではありません。

しかし、元データを見て、ほんの少し分析してみると「通説」が如何に当てにならないのかが分かります。

 

イメージとは違う統計の数値

話を単純にするために、若者の単身者と高齢者の単身者を比べてみます。
報道などでは「消費量」を見ることが多いのですが、「市場規模」という観点で行くと、「金額」の方がより重要です。

そこで、「単身世帯」の「34歳以下の世帯」と「60歳以上の世帯」の茶類の支出金額。
これを2005年と2015年で比較をしてみますと、以下の通りとなります。

 

単身世帯の茶類への支出金額(2005年と2015年)

総世帯:34歳以下 総世帯:60歳以上
2005年 2015年 2005年 2015年
緑茶 543 592 5,784 4,060
紅茶 321 371 327 386
その他のお茶 125 239 729 663
茶飲料 9,442 9,977 2,241 3,103
茶類 合計 10,430 11,180 9,082 8,212
コーヒー・ココア 10,376 11,883 4,220 6,314
他の飲料  22,124 23,592 11,195  13,846
酒類  13,700  16,986 20,043  23,388

【出典:「家計調査年報」(品目分類)第10表・単身世帯 より抜粋】

 

2005年と2015年の10年間で、34歳以下のいわゆる若者単身世帯の茶類への支出金額は、1割弱「増加」していますが、60歳以上のいわゆる高齢者単身世帯の茶類への支出金額は、1割弱「減少」していました。

なお、もう1つの年齢層である35~59歳の支出金額は2005年の12,388円から2015年には10,464円へと、1割強も減っています。
つまり、この3世代(単身世帯)の比較でいえば、若者世代の支出金額が最も多いのです。
もちろん、茶飲料を含めての数字ではありますが、お茶に最もお金を払ってくれているのは、意外にも若者なのです。

若者層の支出金額が増えたといっても、ほぼ茶飲料の伸びの分なのではないか?と訝しがる向きもあると思います。
そもそも、リーフで平均500円程度の支出ということは、たとえば10人に1人が年間5000円ぐらい遣うだけ。残り9人は全く飲んでいないのではないか。やっぱり「若者のお茶離れ」ではないか、と。

これは確かにその通りなのですが、これ以前(単身世帯は2002年以降に集計開始)の統計を見てみます。
すると、昔も今も、若者層はリーフへの支出金額は500円前後と実に微々たるものなのです。
最近になって急に若者がお茶を飲まなくなったかのように報道されますが、そもそも、単身の若者というのは、昔からお茶を大量に消費するような消費者層ではないのです。
ゆえに市場規模に占める割合は、きわめて小さく、ここを不振の原因として大きく採りあげすぎるのが、そもそも、おかしいのです。

しかし、ことさらに「若者のお茶離れ」と言われるのは、なぜなのでしょうか?

おそらく、「急須が無い」という見出しはキャッチーでセンセーショナルなので、マスコミが使っているだけだと思います。
マスメディアの見出しはインパクトが命であって、事実を歪めることもよくあります。

きちんと戦略を考えるのであれば、そのような言葉に釣られてはいけません。

 

「若者のお茶離れ」よりも問題なのは・・・

事業戦略で考えれば、高齢者世帯の緑茶のリーフ離れの方が、マーケットに与えるインパクトはずっと強烈です。
若者層よりも元々の支出金額が高いのに、なんと、約30%の減少。代わりに茶飲料の支出が38%あまりの増加となっています。
高齢者層ほど、急須で淹れるリーフティーから、どんどん茶飲料にシフトしていると思われます。
元々の支出金額が大きかっただけに、市場規模に与える影響は当然大きくなります。

この世代の特徴として、コーヒー・ココア類への支出額が約1.5倍へと急増しています。
要因を分析すると、2005年には60歳以上の統計に入ってこなかった団塊の世代(1947~49年生まれ)の存在がありそうです。
この世代の方々は、それ以上の世代よりも、パン食など欧米的な生活を比較的志向してきた世代で、お茶よりもコーヒーなどを愛飲します(そのためか、紅茶は微増しています)。
さらに「団塊」というぐらい人口が多いので、統計に与える影響は大きくなりがちです。

 

この統計だけ見るならば、昨今のリーフティーの売れ行き不振の原因は、よく巷で言われるような「若者のお茶離れ」ではなく、むしろ、これまでリーフティーを飲んできていて、消費を牽引していたはずの

「高齢者のお茶離れ」が原因

ということになりそうです。

もっとも、これはいささか短絡的な結論です。
実際にマーケティング戦略を立てるときは、それ以外の統計も色々分析していきます(地域性、男女別、構成別など)。

しかし、この1つの統計を見るだけでも、いかに「通説」「イメージ」というものが当てにならないか。
そして、そうした「通説」をもとに経営戦略を考えることが、どれだけ危険なことか、お分かりいただけると思います。

 

茶の市場を拡大するには、どうしたら良いのか

手っ取り早く日本のお茶のマーケットを拡大するためにはどうしたら良いのでしょうか?

ここからは事実を元にして、各自が様々な仮説を考え、それを市場にぶつけるという作業になります。
仮説ですから、答えは色々あって良いのだろうと思います。

 

私ならどう考えるか?

ここまで見てきたように、今の若者、意外にお茶からは離れていないようです。
これは好都合なことです。

茶飲料であれ、何らかの形でお茶を飲用してきた今の若者世代に、新しい魅力を伝える(たとえば「ワインやコーヒーのように違いを楽しめるものだ」ということを整理して示し、ファッショナブルにも飲めることを伝える)。
そうすると、年齢が上がって可処分所得が増えるに従い、消費の拡大に向かうのではないか?という仮説が1つ。
ある程度の年齢になると「お茶が急に美味しく思える」ということは誰しも経験しますので、そのタイミングにピタリと合えば、お茶のヘビーユーザーになっていただける可能性があります。

 

もう1つは、お茶に古くさいイメージを持っているかもしれず、過去の支出額もあまり大きくは無かった、団塊の世代の人たちであったり、その子供世代にあたる団塊ジュニア世代。
この2つの世代は日本の人口におけるボリュームゾーンでもあり、この人たちの動くところで、日本の消費は牽引されてきました。
これらの人たちに対して、お茶というものをどう魅力的に、わかりやすくプレゼンテーションし、自然にお茶を飲むという雰囲気(「喫茶文化」と言っても良いかもしれません)をつくるか。

この2つが上手く出来たら、これらの世代の人口比と今後のライフタイム・バリューを考えても、国内マーケットは劇的に改善しそうです。
ただし、その時、販売される商品は、今までのお茶とは、少し違ったものになっているかもしれません(たとえば、「量より質」の時代になり、消費量が激減して単価が急上昇するかもしれません)。

 

あとは、もはや無視できない海外マーケット。
生産・物流コストの関係で、他国産よりも割高になるであろうはずの日本のお茶です。
そのコストを負担しても惜しくないと思わせるような”楽しみ方”であったり”魅力”を開発し、広める。
「本物はこうだ」「日本の茶道文化」だけで押すのではなく、地元の人たちの味覚に沿って、お茶の魅力を提案する。
そういうことができれば、これも可能性がありそうです。

 

以上のような、3つぐらいの方向性は、すぐに思いつくところです。
これが全部機能しただけでも、日本の茶業界は空前の好況になることでしょう。

餅は絵に描こう

「そんなのは絵に描いた餅ではないか」と思われるかもしれません。
その通りだと思います。かなり大ざっぱな”絵に描いた餅”です。

しかし、建物を建てるためには設計図が必要です。
まずは絵を描いてみないと何事も実現しませんし、リアルで魅力的な絵は共感する人たちを増やします。
餅はどんどん絵に描いた方が良いし、どんどん精密に描いていけば良い、と個人的には思います。
できるだけリアルで、現実感のあるものにしていけば、それが詳細な設計図になります。

 

実際に”絵に描いた餅”を現実にしていこうとすれば、実に膨大な新しい仕組みや商品・マーケティング手法・人材・ノウハウが必要になります。
一部は既存のものが活かせるかもしれませんが、多くは新しく作らなければならないものです。
今まであるものは、かつての時代に合わせてコツコツと作ってきたものなので、時代が変われば、そぐわない部分を廃棄し、新たに作り替えていくのは当然のことです。

その構築に要するであろう作業量・時間を考えると、個々のお店や会社、個人、単独の自治体あるいは国が頑張るだけでは、どうにもなりません。
茶に携わるさまざまな人(生産者・卸・小売などの茶業者のみならず、茶に関する様々な専門家、あるいは消費者も仲間に引き込まなければいけません)が、ある程度ビジョンを共有し、あるべき理想像(絵に描いた餅)に近づいていくよう、小さな積み重ねを日々進めていく必要があります。

 

いずれにしても、まず起こすべきは「新しい喫茶文化をつくる」というムーブメントではないかと思います。

 

次回は1月31日の更新を予定しています。