「お茶を買うノウハウ」セミナー

今年の2月から「台湾でお茶を買うノウハウ2019(実践編)」というセミナーを全国各地で開催し、たくさんの方にご参加いただいています。

内容はもちろん「台湾で美味しいお茶を買うにはどうしたらよいか?」というお話をしているのですが、実際にご参加いただくと、おそらくイメージとは違う展開になっているのではないかと思います。

おそらく、タイトルからイメージするのは、

「どこの店の何が美味い!」
「どこの店が安い!」

というような話だと思うのですが、そういう話は「ノウハウ」ではなくて、ただの「情報」です。
「情報」は簡単に移ろってしまうものなので、これだけでなく、もう少し上流の部分についてお話を多めにしています。

 

何でもそうですが、

「彼を知り、己を知れば、百戦殆ふからず」

でありまして、簡単に言えば、

・台湾のお茶が今どういう状況にあるのか?(彼)
・それぞれのお茶屋さんのキャラクターはどのようなものか?(彼)

ということをきちんと体系立ててご説明しつつ、

・自分の好みはどのようなお茶か?(己)

をいくつかの代表的なタイプのお茶を試飲し、整理していただく。

という流れでお話を進めています。

結果的に「お茶の買い方」という非常に卑近な内容かと思いきや、

「いま、台湾の茶産地・生産現場で何が起こっているのか?」
「お茶の流通の仕組みはどうなっているのか?」

という、割と専門的なことまで、整理してお話をしています。
上流の話をきちんとしているので、今後もぶれない軸ができるという意味では、「ノウハウ」という名前も大げさではないかと思います。

120分ずっと話し続けてもギリギリになるぐらいのボリュームですが、写真を多めに使って説明していますので、初心者の方から台湾リピーター、専門店の方まで、それぞれの関心事に合わせて活用いただけているようです。

実際、「よい買い物ができました!」という声もいただきますし、台湾から帰国したばかりの方からは「この話、台湾に行く前に聞きたかったです・・・」という感想をいただいています。

 

”かしこい消費者”とは?

つまるところ「お茶を買うノウハウ」とは、”かしこい消費者”になることに他なりません。
弊社が実施しているセミナー・ワークショップの目的は基本的に、ここに置いています。

”かしこい消費者”というと、ややもすると「お得な情報に目ざとい」のように思われがちですが、必ずしもそればかりではありません。
私がイメージしているのは、「作り手・流通の担い手と飲み手(自分自身)のそれぞれの事情を理解し、最適な購買行動を取る人」というものです。

”最適な購買行動”というところがポイントです。
”最安の購買行動”ではありません。

たとえば、ただ単に安いものばかりを消費者が追うようになってしまうと、生産側や流通側の疲弊を招き、持続可能な茶業にはなりません。
持続可能性が乏しいということは、長い目で見れば、品質の高いお茶を生産・流通させる担い手を市場から退場させることになります。
目先の「安さ」に目を奪われると、品質の高いお茶が飲めなくなるという、消費者にとっては致命的な不利益をもたらします。

また、激安を実現するためには、生産現場だけでなく、販売現場でもコストダウンを強いられることになります。
そうなると試飲による味の確認ができない・パッケージの魅力の喪失など、購買体験の品質が下がり、総合的な満足度は下がるかもしれません。

どのようにしたら、”最適な購買行動”ができるかですが、これは消費目線だけでなく、生産現場の目線、流通現場の目線など、それぞれの目線を提供して、それぞれの事情を理解しておく。
そうすることで、総合的に見て、どのような購買行動を取ることが、いちばん”おトク”になるのか。
そのラインを見極めつつ、「値段に見合った品質(茶葉そのものだけでなく、購買体験全体)のものを自身の好みに合わせて選択できる」ことこそが、”かしこい消費者”ではないかと考えています。

一例を挙げると、今回のセミナーでは、台湾で買うことだけではなく、日本で購入した方が良い場合も紹介しています。
現地の商習慣と日本の商習慣は違うため、日本的な買い方をするのならば、日本のお店で買った方が良いからです。
目先の”安さ”が必ずしも正解とは限りません。

 

”かしこい消費者”は、どのようにしたら増えるか?

”かしこい消費者”を増やしていくためには、生産・流通・消費の3つの現場の状況を、公平な立場で分かりやすくお伝えする必要があります。

消費者は正しい情報がきちんと与えられていれば、基本的には合理的な判断を下します。
それぞれの現場の事情が分かれば、どのように振る舞えばよいのかは自分で判断ができますし、強要されることを嫌います。
問題なのは、その現状を分かりやすく伝える手段や場が極端に少ないことなのです。

状況を伝えていく上では、様々な状況に明るい”専門家”というものが必要になってきます。
しかし、非常に膨大な情報を切り取って伝えると言うことは、どんな立場であってもバイアスはかかります。
ある程度の主義・見方がないことには、情報を集約し、要約してお伝えすることはできないですし、一人の人間が全てを知ることは不可能だからです。
とりわけ、その”専門家”が特定の現場に入り込みすぎているとあまり上手く行きません。

たとえば、販売店舗の方であれば、どうしても自店の商品を購入してもらうことが落とし所になってしまいがちです。
販売店の方にとっては、自社の取扱商品こそが、自分が得てきた知識と経験を総動員して下した結論・回答になるので、この傾向はやむを得ません。
いくら客観的・論理的に説明しているつもりでも、商品という具体的な”回答”が手元にあると、どこかで我田引水になる部分が出てきます。
この部分は、受け手側が他の専門家の情報を得るなどして補正していかなければなりません。
一人の意見を真に受けすぎることほど危険なものはありませんし、日本では、お茶の専門家=茶商という位置づけのことが多いのですが、客観性を担保する上では、お茶を売らない専門家も必要です。

本来、専門家であれば、出す結論については、微妙な見解の相違はあるにせよ、結論はほぼ同じになります。
科学的な歴史的な積み上げをきちんと行ったとすれば、経過の差異はあっても、突拍子もない結論にはたどり着かないものです。
専門家の中には、差別化のためか「私しか知らない真実」のようなことを言う方もいますが、あまりに違う結論を唱える場合は、どこかで論理の飛躍や足りない情報があるはずです。
このあたりは、専門家と名乗る方々の自助努力によるところが大きいのですが、こうした専門家の層を厚くし、オープンな議論を行うような場を整備していくことも、”かしこい消費者”を増やすためには必要です。

作り手(生産者)、担い手(販売業者)、飲み手(消費者)ということは議論されがちですが、それぞれの専門性が高いからこそ、もう一つの伝え手(専門家)の重要性も見直されるべきではないかと感じます。

 

次回は7月22日の更新を予定しています。