第20回:国家標準で定義された「六大分類」

本によって記述が異なる「六大分類」の定義

前回の記事で、「人によって言うことが違う」のが、中国茶の世界であった、と書きました。

その端的なものと言えば、中国茶の本を開くと、最初に必ず書かれている「六大分類」の定義です。

「緑茶」「紅茶」という私たちに耳馴染みのあるお茶だけでなく、中国茶には「青茶」「白茶」「黄茶」「黒茶」などというものもある、と紹介されています。

一直線の矢印が描かれていて、発酵度の低い方から「緑茶」「白茶」「黄茶」「青茶」「紅茶」「黒茶」のように並んでいるイラストや図が掲載されていることもあります。

このような表記・表示は、本だけでなく、雑誌やWebなど、中国茶を紹介する、あらゆるところで用いられています。

 

ここで問題になるのが、これらをどのようにして分類したのか、という定義です。

ある本には、

中国茶は、製造工程での発酵度の違いで緑茶・白茶・黄茶・青茶・紅茶・黒茶の6つにわけられる。

とあります。

また、ある本には、

茶葉に含まれるカテキンの酸化発酵の度合いによって、「緑茶」、「白茶」、「黄茶」、「青茶」、「黒茶」、「紅茶」の6つに分類するのが代表的である。

とあります。

また、とあるWebサイトでは、

発酵の種類と程度によって分けられているといえますが、その茶葉の外観(色)によって、「緑茶」「白茶」「黄茶」「青茶」「紅茶」「黒茶」に分類されます。

などとされています。

それぞれ、記述が微妙に違います。
だいたい同じことを書いているように見えますし、どれも正しい記述であるかのように感じるかもしれません。

ところが、これらの定義は厳密に言えば、いずれも少し芯を外しているか、余計なノイズが含まれています。

 

「六大分類」とは「製法」による分類

元々、六大分類とは、1978年に安徽農業大学教授の陳椽教授によって提唱された茶の分類法で、お茶を「製法」によって分類するものです。

今やこの考え方は、中国だけではなく世界的に受け入れられています。
国際標準化機構(ISO)で制定されている「緑茶」「紅茶」の定義が、製法を基に行われているのは、その一つの証左でしょう。

ISO 11287:2011  Green tea-Definition and basic requirements

green tea

tea derived solely and exclusively, and produced by acceptable processes, notably enzyme inactivation and commonly rolling or comminution, followed by drying, from the tender leaves, buds, and shoots of varieties of the species Camellia sinensis (L.) O. Kuntze, known to be suitable for making tea for consumption as a beverage

ISO 3720:2011  Black tea-Definition and basic requirements

black tea

tea derived solely and exclusively, and produced by acceptable processes, notably withering, leaf maceration,aeration and drying, from the tender shoots of varieties of the species Camellia sinensis (L.) O. Kuntze, known to be suitable for making tea for consumption as a beverage

中国も、国際標準化機構(ISO)の加盟国ですので、国内における様々な基準(国家標準など)は、ISOに準拠した形で制定されています。

よって、中国国内でも、六大分類は「製法」による定義であって、それ以外の要素(発酵度、水色等)は排除されています。

具体的に中国の国家標準の記述を見ていただいた方が分かりやすいかと思います。

 

国家標準に書かれた「六大分類」

2014年10月より施行された国家標準『茶葉分類』GB/T 30766-2014 では、各茶類を以下のように定義しています。

2.9 緑茶(緑茶) green tea

生葉を原料とし、殺青、揉捻、乾燥などの加工技術を経ることによって、生産された製品。

2.10 紅茶(红茶) black tea

生葉を原料とし、萎凋、揉捻(切)、発酵、乾燥などの加工技術を経ることによって生産された製品。

2.11 黄茶(黄茶) yellow tea

生葉を原料とし、殺青、揉捻、悶黄、乾燥などの加工技術を経ることによって生産された製品。

2.12 白茶(白茶) white tea

特定の茶樹品種の生葉を原料とし、萎凋、乾燥などの加工技術を経ることによって生産された製品。

2.13 烏龍茶(乌龙茶) oolong tea

特定の茶樹品種の生葉を原料とし、萎凋、做青、殺青、揉捻などの特定の技術によって生産された製品。

2.14 黒茶(黑茶) dark tea

生葉を原料とし、殺青、揉捻、渥堆、乾燥などの加工技術を経ることによって生産された製品。

2.15 再加工茶(再加工茶) reprocessing tea 

茶葉を原料とし、特定の技術を用いて加工され、人々の飲用あるいは食用に供される製品。

(注)再加工茶は「花茶」「緊圧茶」「ティーバッグ」「粉末茶」を含む分類のこと
※「茶葉」「生葉」の用語の定義は 前回の記事 をご覧ください。

国家標準では、それぞれの製茶用語についても定義されていますが、ここでは割愛します。

これを見ると、日本で一般に流布している「六大分類」と違っているところは、

・「青茶」が「烏龍茶」に変更となったこと
・「花茶」は「再加工茶」の1つとなったこと
・分類には製法以外の要素(発酵度、水色など)は含まれないこと
・緑茶(不発酵茶)、青茶(半発酵茶)、白茶(弱発酵茶)のようなカッコ書き部分は、公式な定義では無いこと

などが挙げられます。

 

「発酵度の違い」「微発酵茶・半発酵茶・全発酵茶」では、何故いけないのか

これが中国における、六大分類の公式な定義なのですが、

「発酵度の違い」と説明するのでは、何故いけないのか?だいたい一緒ではないか?

と、疑問に思われる方もいることでしょう。

しかし、学問的な基礎となる定義が、曖昧であっては困るのです。
「1+1=2」であるのと「1+1=1.8~2.2」とされるのでは、積み上げていった結果は、全然違います。

 

これは、例外的なものを考えてみると分かりやすいと思います。

一番分かりやすいサンプルとしては、中国茶ではありませんが、ダージリンのファーストフラッシュです。

ダージリンのファーストフラッシュは、「紅茶」として流通しています。
が、中にはグリニッシュな青いものもあり、いわゆる「全発酵茶」であるようには思えません。
その点を指摘し、「ダージリンのファーストフラッシュは完全に発酵していない。すなわち半発酵茶だから、烏龍茶だ」と勝手に定義する方もいらっしゃいます。

しかし、ファーストフラッシュの製法をきちんと見ていけば、その製法は紛れもなく紅茶の製法です。
たまたま発酵程度が浅いため、いわゆる紅茶のような紅い水色ではないだけのことです。

「六大分類は、製法による分類である」という、六大分類の大原則を理解している方であれば、青いファーストフラッシュを「烏龍茶」と評することは、まず無いはずです。
もちろん、「烏龍茶のような香り、味わいです」と味わいを表現するのなら良いのです。が、茶の分類として「烏龍茶」としてしまうのは、六大分類の原則を無視した明らかな間違い、というわけです。

同様に、「微発酵茶」であるはずの白茶をしばらく寝かせておいたら、発酵が進んで、水色も濃くなった。
これは発酵度が高くなったのだから、「微発酵茶」から「半発酵茶」に昇格し「烏龍茶」になるのではないか・・・という話も、製法は白茶以外の何者でも無いのですから、間違いだと言うことができます。

このようにスパッと判断できるのも、前述の国家標準のような、ハッキリとした根拠があるからです。

「六大分類」は、中国茶を学ぶ上での、基本の「き」です。
ここがしっかり理解できていないと、積み上げて学んでいっても、どうしても不安定になります。

 

伝える人ほど、学び直しの機会を

上記のような定義は、国家標準とともに出来たわけではなく、元々、存在していたものです。
提唱者の陳椽教授をはじめ、多くの研究者としては一致した見解だったはずです。
が、民間で伝わるにつれ、伝言ゲームのように内容が少しずつ変質していったのだろうと思います。

このことが間違いであると、特にハッキリと断言できるようになったのは、2014年に国家標準という形で、公的な文書に掲載されてからです。
「○○という本に書いてある」「○○先生がこう言っている」という根拠よりも、はるかに強い影響力を持つのが、公的文書による定義の力なのです。

『茶葉分類』は、2014年の下半期に制定された標準ですから、上記の内容をご存じない方も多いと思います。
とりわけ、現在、中国茶を伝える・販売することを仕事にされている方は、かなり昔に学んだことであり、その当時の知識のままになっていることも少なくありません。

中国の茶業界は、この一件に限らず、非常にスピーディーに変化と進化を遂げています。
伝える立場にある人ほど、どんどん新しい情報(それもきちんとした根拠のあるもの)を得て、知識をリニューアルしていく必要性があるのではないかと思います。

現地の変化のスピードが速すぎるため、なかなか書籍などでは学べないことが多いかもしれません。
さらに中国での出来事ですので、最新情報を日本語で得る機会も少ないと思います。
そこを補うべく、当社でも「標準」を読むセミナーを開催しています。
ブログ記事の10倍以上の情報量と体験をしていただいておりますので、是非ご活用ください。

 

次回は7月31日の更新を予定しています。

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