第95回:”常識”をアップデートするチャンス

新しい情報サイトのスタート

4月5日より、弊社で新しい中国茶・台湾茶の情報サイト「Teamedia」をスタートしました。

このサイトは、比較的初心者の方でも読みやすい内容とするべく、会話形式の内容としたり、写真を使ったりしながら、できるだけ分かりやすく中国茶・台湾茶の世界を紹介していくことを目的としています。

毎日、1本ずつ記事を更新しており、現在、六大分類などの中国茶の基本をご紹介しているところです。

このサイトのオープンの直接的な理由としては、新型コロナウイルスの流行に伴い、当面、中国茶基礎講座などの講座を開講出来ない状態になっていることがあります。
受講をお待ちいただいている間に、予習・復習をいただけるような情報発信をしておき、再開までお待ちいただこうというのが、一番の理由でした。

「できれば実際に教材となるようなお茶を飲んでいただきながら、見ていただけると良いなぁ」と限界を感じることもありますが、まずは文章でイメージをつけていただければと思っています。

 

情報のアップデートが滞っている中国茶の世界

もう1つの目的があり、それは「誰にでもアクセス出来るインターネット上に、確かな中国茶の情報を掲載しておきたい」というものです。

というのは、日本で流通している中国茶の知識・常識というものがあまりに時代遅れになってしまっており、さまざまな点で齟齬が出てくるようになっているからです。

典型が、何度もこのブログでは指摘している「六大分類」の定義です。
日本では多くの書籍や雑誌記事、Webサイトなどで「発酵程度の違いで六大分類を分ける」と紹介されていますが、これではお茶の世界の説明がままなりません。

一例を挙げると、これもよく指摘していますが、ダージリンのファーストフラッシュの説明が付かないのです。
ファーストフラッシュは、生産者は紅茶として生産していますし、世界的にも紅茶であり、紅茶の世界の方であれば、迷わず紅茶であると断言出来るものです。
しかしながら、中国茶の世界では「発酵程度が全発酵ではないから、これは烏龍茶だ」というオリジナルな定義を主張される方が散見されます。

同じカメリア・シネンシスを原料とし、世界的に流通している紅茶ですら、見解がインドと中国で違うなどということは、本来、どう考えても有り得ないことです。
しかし、そのような主張をする方がいるとなれば、”中国茶の世界は論理的でなく、非科学的な主張がまかり通る世界”ということなります。

これは他の嗜好飲料、たとえばコーヒーやワインを勉強したから見れば、お茶は非常におかしな世界だと感じられるでしょう。
イタリアとフランスでワインの定義が違うなどということは、まず有り得ないからです。

 

実のところ、お茶も国際標準化機構(ISO)の定義などを見れば、お茶の分類(いわゆる六大分類)は、中国の陳教授により提唱された六大分類法と同様で、”製法によって分類する”ものとされています。
ISOの緑茶、紅茶の定義がそのように明文化されているのです。

ところが、現状は、中国茶を伝える側にいる人たちが、こうした情報収集や知識のアップデートを怠っているように見えます。
大昔に一度覚えた「発酵度によって分類」という常識を更新せずに、自分たちのやり慣れた方法で伝え続けています。
結果、このような誤情報がぐるぐる回って、説明の付かない事象も強弁しているというのが、今の中国茶をとりまく状況です。
これは、伝え手の”知的怠慢”以外の何者でもありません。

 

このような指摘をしますと、「何の問題があるのか!」と逆にお叱りを受けることもあります。
中国の国家標準の話を持ち出せば、「中国の国内の決まり事が何だ!」という具合です。
が、このような矛盾を放置しておくことは、真面目にお茶を知りたい、勉強したいと考えている消費者・学習者にとっては、害悪以外の何物でもありません。

真面目に知りたいと願う人が、論理的に考えれば考えるほど、辻褄が合わなくなるからです。

辻褄が合わないことで生まれる疑問を、突っ込んで質問しても、満足な回答は得られません。
なぜなら、ちゃんとした答えを知らないため、答えようがなく、はぐらかされるような回答になるからです。

このような対応が何度も続けば、当初抱いていた”お茶をもっと知りたい”という前向きな好奇心は段々と萎んでいきます。
ひいては、お茶という業界に失望してしまう人がどんどん出てくることでしょう。
コーヒーやワインなどの他の嗜好飲料は、きちんと科学的かつ論理的に説明されるのですから、熱心な方ほど、そちらに流れてしまうのは避けられません。

 

誰にでもアクセス可能なところに、まとまった情報を

このような状況を変えるためには、誰にでもアクセス可能なところに、正確な情報をある程度ストックとして置いておくことが必要です。
その情報に触れることによって、「お茶の世界にも全体を論理的に説明出来るようなロジックがある」ということが分かれば、お茶の世界に希望を見出せるのです。

本来であれば、こうした情報が書籍などのしっかりとした形で提供されていれば良いのですが、残念ながら、新しい常識に基づいた書籍はほぼ皆無です。

ましてや、現代人が何か分からないことがあれば真っ先に調べるはずのインターネット上は、混乱の極みにあります。
本の記述を寄せ集めたと思われるキュレーションサイトの薄い情報か、ネットショップさんやブロガーの方、あるいはSNSの詳しい方が発する断片的な情報を繋ぎ合わせて、何とか自己流で学ぶしかないという状況です。
断片的な情報の中には、非常に有用な情報もあるのですが、それを適切に取捨選択するのには、基礎的な素養が必要です。
ある程度の基礎知識があれば、断片的な情報を繋ぎ合わせることも出来るのですが、基礎知識がそもそも無い状態では、何が正しく何が正しくないかを判断することは出来ません。

今回のWebサイトは、初心者の方でもきちんと基礎知識を学べ、有用な情報を集めるためのポータルサイトとして運用していく予定です。

 

”基礎”の知識水準は以前とは違う

初心者向けとはいえ、おそらく初見の方、特にどこかで中国茶を勉強された経験のある方は、かなり高度な内容を紹介しているように感じられるかもしれません。
事実、日本で開催されているいくつかの中国茶指導者育成コースでも教えていないような内容も一部に盛り込まれています。
どこかで勉強した方ほど、目を白黒させることになるかもしれません。

たとえば、お茶の発酵を説明する流れでは、植物細胞のつくりの話やカテキンの重合の話なども出て来ます。
こうしたものは、初心者向けであれば、まず省く対象にするところでした。
おそらく、中国の国家資格である評茶員などの講座に出ないと、学べない内容でしょう。

が、発酵というのはお茶の世界の原理原則の部分であり、これを掴んでおかないと、多種多様な製法で作られる中国茶の世界が理解出来ません。
仮にワインの勉強をする場合、どのような入門書であっても発酵とは何かというのを、レベルの差はあれ、必ず学習することになります。
しかし、従来の中国茶は、この部分をすっ飛ばして、なんとなくふわっとした理解で留め、その後に知識を積み上げていこうとします。
肝心要の基礎をすっ飛ばしているわけで、これは教育プログラムの考え方としては、全くナンセンスであり、本来であれば逃げてはいけない箇所だと思います。

新しい常識は、新しい知識の水準である必要があります。
そのラインをどこに置くかというゴール設定が最も難しいのですが、それでも、お茶の発酵のメカニズムから逃げてしまうことは、好ましいとは思えません。
発酵によって多彩な味や香りが生まれることこそが、中国茶の奥深さの源泉です。
この部分を丁寧に説明せず、専門用語があるから・・・(あるいは教える側も良く分かっていないから・・・)と逃げることは、魅力の多くを放棄しているように感じます。

 

アフターコロナの世界を見据えて

かなり手厳しい内容ですが、実際にはこの通りの状況にあると思いますので、どこかでギアチェンジを行う必要があります。
正直、このギアチェンジを行うと、従来型の常識でなんとかしようと考えている方にとっては、大変な影響が及ぶ可能性があります。
そのようなこともあり、初心者向けサイトの立ち上げを敢えて見送ってきたという経緯があります。

が、今回、新型コロナウイルスの流行という機会を、1つの転換点とするべきではないかと感じました。
というのは、おそらく今回の新型コロナウイルスの流行で、社会の仕組みや人の価値観は大きく揺さぶられると思います。
大きく揺さぶられた後には、新しい常識や秩序が構築されていくと思います。

その流れの中で、中国茶の常識を一気にアップデートするのが、もっとも影響が少ないのではないか、と感じました。

幸か不幸か、自宅で過ごす時間が劇的に増えており、学びの時間をとることもできるタイミングです。
この機会を活かせるかどうかが、今後のお茶の世界の発展を左右するように感じます。

 

次回は5月1日の更新を予定しています。

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