第165回:”歴史”や”文化”を知ると、お茶がより面白くなる

今年の5月から、中国茶の文化や歴史について詳しく紹介する「中国茶応用講座/応用レッスン」をスタートすることになりました。
目下、この準備を行っているところなのですが、お茶の歴史や文化について、少し思うところを書いてみたいと思います。

歴史や文化を知るとお茶がより面白くなる

お茶というのは、大変美味しいものも多く、飲んでいるだけでも楽しいものです。
特に中国茶や台湾茶はバリエーションも豊富ですし、日本人のお茶に対するイメージとはかけ離れた香りや味のお茶もあります。
こうした様々なお茶を飲んでいるだけでも、新しい世界が広がり、十分楽しいものです。

しかし、このようなスタイルで飲んでいくと、いつかは”飽き”が来てしまうものです。
最初は”新鮮”に思えた香りや味も、飲み慣れてくると、”いつもの味”となります。
よほどのお茶でもない限り、特段、大きな感動を得ることもなくなってしまいがちです。

これは「美しい風景」などを見るのと似たような現象です。
旅行などで訪れた際、非常に美しいと感動した風景も、何度も目にしているうちに見慣れた光景になる、というのはよくある話です。
”表面的な刺激”による感動というのは、慣れるのも冷めるのも早いのです。

しかし、そこに「歴史や文化を知る」という過程が入ってくると、途端に様相は変わります。
たとえば、美しい風景を見たあとに、その景観がどのようにして生まれたのか、などを歴史や地質、さらには維持する人々のエピソードなどを学ぶとどうでしょうか。
きっと、その風景はただの”刺激”ではなく、より深く、印象深い景色として記憶されることでしょう。
そうして学びを深めていった方の中には、その土地に”移住する”というくらい、深く関わりたくなる方も出てくるでしょう。

お茶も、このような傾向があります。
単に味や香りだけではなく、そのお茶が生まれた歴史などを学ぶと、思い入れが深くなっていくものです。
たとえば、そのお茶にまつわる文化などを学んでいくと、日本との接点などが出てきて、より身近に感じられたりするものです。

お茶というのは、その地域の人々の生活に密着した飲み物であるため、歴史や文化の上に立脚して存在しているものです。
そのような飲料であるため、歴史や文化の領域を掘り進めると、無限に深めていくことができます。
この知的探求の面白さを一度感じると、お茶というのは”単なる飲料以上の存在”になっていくものです。

お茶の本当のファンや理解者を増やすのであれば、お茶の味や香りを知ってもらうだけでは不十分です。
それにまつわる歴史や文化といったものも、共に伝えていくことが必要ではないかと感じてます。
お茶そのもの(味や香り)と付随する歴史や文化が、車の両輪のように機能すると、お茶のファンは確実に定着するのだろうと思います。

 

歴史や文化は難しい

このような認識があるので、中国茶に関する講座を行う際に、歴史や文化を織り込むことは是非やってみたいことでした。
しかしながら、歴史や文化というのは非常に扱うのが難しいジャンルでもあります。

「歴史や文化が難しい」のには、いくつか理由があります。

1.歴史や文化の「面白さ」を感じるには、一定の前提知識が必要

1つ目に、歴史や文化というのはある一定程度の前提知識を共有していないと、面白さが分かりにくいということです。
お茶の味や香りなどは、味覚や嗅覚といった部分への刺激なので、誰にでも分かりやすいものです。前提となる知識や経験などは特に必要ありません。
しかし、歴史や文化というのは、受け取る側にある程度の前提知識が無いと面白く感じないものです。

分かりやすい例として、エジプトにピラミッドを見に行くとしましょう。
もし、予備知識が全く無かったとしたら、「ピラミッドは大きい」「砂漠と岩だらけだ」「ラクダがいた」など、表面的なところにしか意識が行かないでしょう。
これでは、わざわざエジプトまで出かけていった割に薄い感動になってしまうかと思います。
しかし、事前にしっかりと古代エジプト文明について勉強をしてから出かけたら、どうなるでしょうか?
現地での見学の面白さは桁違いで、感動の質が全く違うと思います。
歴史や文化というのはある程度の前提知識があれば、非常に面白いのですが、それが無いと表面的な受け止めにしかならないのです。

2.前提知識が必要なので、敬遠されがち

1と関連しますが、歴史や文化というのは、聞いたことのない人の名前や地名などがバンバン出てきます。
これはある程度の前提知識を持っている人ならば問題は無いのですが、全く門外漢という方にとっては、大変なハードルです。
そもそも、人は聞いたことのない専門用語が多数出てくると、思考が止まるようになっています。いくつか分からない言葉や単語が並ぶだけで、急速に興味を失ってしまうのです。

このように歴史や文化の話は、ある程度の知識を持っている人にとっては、非常に面白いのですが、そうでない人にとっては苦行でしかありません。
実際、義務教育や高校の授業でも「歴史が苦手」という方は、かなり多かったと思います。
そのような人が急に歴史を好きになるということも、もちろんあるのですが、段階を踏んだ語り方をするか、よほどの関心喚起をしないと難しいです。

※筆者は大学時代に個別指導塾で社会科の集合授業を担当していましたので、歴史嫌いの生徒が多いことは実感があります。

3.自分の目で確かめたものではないため、正確なところが分からない

歴史や文化が厄介なのは、過去に起こった出来事などがベースになっており、「その現場を自分で見ることが出来ない」ということです。
つまり、究極的には何が正しいのかを断定することが非常に難しいのです。
「これは確実なこと」と断言するのに必要な根拠を揃えるのは、本来非常に難しい、というのが歴史や文化の領域です。

そもそも、歴史には当事者が複数いるケースもあり、それぞれの当事者の目線から見ると、一つの事件も複数の捉え方が出来ます。
南北朝の争乱も、南朝側と北朝側、そして庶民側から見た歴史では、全く見え方が違ってくるでしょう。
そのうちのどれを歴史として採用するか、というのは非常に勇気の要る決断をしなければなりません。

歴史や文化を語るというのは、本質的にこのような矛盾を内包しているのです。
そこで様々な”解釈”というものが生まれたり、歴史小説などの”創作”も生まれます。
そして徐々に”解釈”と”創作”の境界線が曖昧になっていき、”史実”とはかけ離れた”通説”が世間の常識としてまかり通る・・・ということは枚挙に暇がありません。

正確性を担保するのが、非常に難しいジャンルだということです。

 

と、以上のような理由から、歴史や文化を語るのは、大変な困難さがつきまとうわけです。

そこで、当社では先に「標準」や科学的根拠などがある等、真偽がハッキリしている、お茶そのものに関する事項を先行して取り扱うことにしました。
「標準を読む」「中国茶基礎講座」などの講座は、基本的にはこの範疇で実施しています。
そもそも、根拠の確かな情報というのが不足していたという側面があり、この点を一刻も早く解決すべきと考えていたので、この判断は間違っていなかったと思います。
当社が講座を始める前と比較すれば、六大分類についても正確に理解をしている方が増えていますし、科学的な根拠に基づいた議論や論述も、従来より増えていると思います。

そこで、次のステップとして、難題に取りかかろうと考えた次第です。

 

目指しているのは”中国茶をより楽しむために必要な歴史と文化”

当社では、講座を作る際は、目指すべきゴール設定を必ず行います。
講座というものは現状と理想像のギャップを埋めるための手段ですから、「理想像(あるべき状態)」が明確になっていないと、自分の知っていることを並べ立てるだけになってしまいます。
これでは、内容の偏りも生じますし、体系的なプログラムにすることは出来ないと感じます。

今回は、目標設定を”中国茶をより楽しむために必要な歴史と文化の最低限の知識を学べる”というところに置いています。
「もっとも詳しい内容をお伝えする」のではなく、「お茶に関する歴史や文化を学ぶ上でのスタートラインに立てる程度の知識」をお伝えするというのが目標です。
「中国茶基礎講座」は、「中国茶の世界を一人歩きできる程度の知識と技術」をお伝えする講座でしたので、そこに歴史や文化の知識を付加して、より厚みを持たせて行く講座です。

このようなゴール設定で考えると、自ずとプログラムも見えてくるものです。
実は課題意識として、日本国内の中国茶に関する歴史・文化に関する講座は、

1.概略を紹介するに留まり、ストーリーが断片的すぎて、歴史や文化の面白さを感じられないもの(試験勉強的)
2.特定の人物や書物について詳しく解説するもの(マニアック)

のいずれかに該当するものがほとんどであるように感じます。

2に該当する講座は非常に興味深いものも多く、大変勉強になるものも多くあります。
しかし、最近学び始めた方にとっては、いささか敷居の高い講座になってしまいがちです。

それでは、と全体像を学ぼうとすると、1に該当する講座ぐらいしか見つからない状況です。
歴史や文化というのは、やはりストーリーとして話を展開していかないと、年号や人物、書物の丸暗記にしかならず、試験勉強のような体裁にどうしてもなってしまいます。
これでは残念ながら、歴史や文化にアレルギーを持つ方を増やすだけになってしまいます。

そこで、今回の講座は両者の中間的なポジションを目指します。
2の専門的な講座を受講する際に困らない程度の基礎的な知識を網羅し、また歴史や文化の”繋がりの面白さ”を感じていただけるようにしたいと考えています。

これは塾講師時代の経験からですが、「歴史や文化というのは、どうも苦手で・・・」という方も、実は”歴史や文化を活き活きとしたストーリーとして聞いたことがなかった”ということが多いのです。
歴史を退屈な用語の暗記作業だと思ってしまっているのは、大変残念なことです。
今回は、そのあたりの払拭をしながら、歴史や文化以外でも、基礎講座よりも高度な内容をお伝えする盛り沢山の講座にするよう、準備を進めています。

 

次回は5月1日の更新を予定しています。

 

「中国茶応用講座・応用レッスン」については、以下をご参照ください。

Teamedia Online School「中国茶応用講座・応用レッスン」

 

関連記事

  1. 第146回:「茶縁」の商標登録について

  2. 第15回:求められる販売力

  3. 第39回:中国の新茶シーズンスタート

  4. 第50回:上海のスターバックス リザーブ ロースタリー

  5. 第17回:価格の硬直化がもたらすもの

  6. 第177回:情報の”水道哲学”と無料情報の限界

無料メルマガ登録(月1回配信)